第二十六話「彼は勇者に希望を感じない」
「眠たいや。敵もいないし良かった。今日も生きてる。」
敵がいないことを確認した祐樹は背伸びをして固い地面で寝てかたまった体をほぐしていく。彼にとっては劣悪な環境で寝たりすることも日常茶飯事であり、誰かが敵意を持ったり彼に対して何かしら意識を向ければ気づく。日常生活で自分が傷つかないようにするためだ。
そして、昨日飲んだおいしい水を贅沢に飲む。おいしいものは大切に飲むではなくおいしくたくさん食べるのが習慣になっている。
「祐樹君、よく眠れたか。」
奥から星川が歩いて聞いてきた。洞窟の中ということで見ずらいということで普通なら突然現れた星川に驚くであろが祐樹はこの迷宮に来てから手に入れたスキルによって一度出会った人なら判別をして察知することが出来る。索敵能力の中でも最高位に存在するものである。
「はい、いつも通りなので普通に寝ることが出来ました。」
「そ、そうか。早くいいベッドで寝れるように頑張ろうな。」
「はい!!」
星川は少し答えが思っていた方向とは違って驚いている。2人が起きたことに2人が気づいて起きた。それぞれ行動が出来るだけの体力を回復させたようだ。
美優は腕が曲がってはいけない方に曲がり満足には動けず体力と痛みを、カイトは落石によって血を流し昨晩にようやく止血が完了。血が足りず体調面などで支障をきたしていたが体が丈夫であると言っていたことが本当のようで顔色がよくなっている。
「おはよー。私の腕意外と動くようになったんだよ。ほら。」
美優は腕をブンブンと振り回す。一日やそこらで治る傷ではなかったはずである。祐樹は驚いて振り回しているときに止めようとしたが痛がっている様子もなくて更に驚いた。
「折れていたはずなのになんで治るのが早いの。」
美優に祐樹は当然の疑問をする。美優はどや顔をしながら答える。
「私の得意魔法は治癒系なのよ。魔法による自己治療の力を高めて魔力をエネルギーとして体に負担をかけないようにしてるの。更に自己治療ではできない能力を治癒魔法によって体に働きかける。魔法と生体科学の結晶よ。骨折程度なら半日、一晩で治るわ。健康状態ならだけど。」
得意げに語るが祐樹はわからなかった。首をかしげて返事をする。
「まぁ、美優の魔法はすごいってことだ。」
カイトがざっくりとした説明をする。とにかくすごいというのは子供に対する説明では十分なものだ。
「魔法ってすごいですね。僕も魔法が使えるようになれば皆さんの役に立てるかな。」
「うーん、魔法って一日そこらでは使えるようになるものではないから難しいかな。」
星川が魔法を使うのは今からでは実用的ではないということをいうと祐樹は少し落ち込む。けれど、星川はバックから何かを取り出す。
取り出したものは銃であった。しかし、銃口が一般的に想像をする口径とは違う。大きいのだ。小石程度なら詰めることができる。
「これを祐樹君に貸してあげる。魔導銃ていうんだ。所持者の魔力を弾丸として発射する魔道具なんだ。魔法を今からしても中途半端になるよりはこれを扱えるようになる方がいいと思う。」
魔導銃を手渡す。カイトと美優が驚いている。
「ヒロト、それ師匠の形見じゃ。」
「俺が持っていても宝の持ち腐れになってしまうからいいんだ。それに祐樹君に自衛の術があるべきだと思うから使ってほしいんだ。」
そういうと美優は黙り、カイトは納得をした。
「魔力は祐樹君にもある。この銃は持っているだけで勝手に一定量の魔力を吸収をするんだ。あとは引き金を相手に向けて撃つだけ。横についているダイアルと調整して威力を決めることができる。最大までダイアルを捻るとこの銃にある魔力をすべて使った威力になるから気を付けてね。」
「これがあれば僕も戦うことが出来る。」
祐樹は銃を宝物のようにジッと眺める。戦えない自分を卒業することができるのではと思っているようだ。星川は戦うのではなくあくまでも自衛のためということなのだが。
「そろそろ、洞窟を出てみんなを探しに行こうか。」
「さんせーい。」
「うん。」
「はーい。」
三者三様の答えをする。身支度を整えて出発が出来るようにする。
「とりあえず落石があったところまで戻ろうか。みんな別れたところまで戻る可能性が高そうだし。」
みんな星川のアイデアに賛成をして洞窟を出る。すると、暗いところから明るいところに出たことで目が絶えれず思わず全員が目を閉じる。しばらく止まって目が慣れるまでをみんな止まった。やる気が一気にそがれそうになるだろう。
「あっちだったと思うから行こうか。」
「「「お、おーう。」」」
トボトボと歩き始める。
「かなり昨日は歩いたんだな。意外に近いと思っていたけど。」
「そりゃ、あんた意識があまりなかったでしょ。体感時間がおかしかっただけでしょ。」
カイトがいう事に美優が突っ込む。3人はかなり歩いて落石を起こした連中から距離を取ったのですぐにつかないことを知っている。
祐樹の能力で奇襲が通じないのであまり気を張らないせいなのか暇になっている。トボトボと敵とも遭遇せずに歩く。
すると、
「左斜め先から誰かがやってきます。複数人です。敵かもしれません。」
「了解。警戒態勢。」
各々が武器を抜いて警戒をする。歩をゆっくりにして進んでいく。
洞窟の外は森の中であり近くにまで来なければ人間なのかモンスターなのかもわからない。祐樹の能力のデメリットである。
しばらく進むと話声が聞こえてくる。誰なのだろう。話をするのであるなら人間なのだろう。
すると木々の先からは男の顔が出てくる。顔が整っていてそれなりには顔がよいのだが、星川というイケメンを見慣れている彼らはそれを普通の男の顔にしか見えない。
「おい!占い師の言った通り草をかき分けて進んだら人がいたぞ。さすがだな。ははは。」
無防備に大声で笑う男にはちょっと不愉快になる。けど、他にもいるのでそっちを見る。次々に人が出てくるが全員が女性である。
明るい系やら暗い系などと様々だ。大道芸人ではないのだろうか。
「君たち、僕たちと同じようにここに連れてこられたのかな。」
と格好をつけながら言ってくる。態度が初対面の癖に腹立たしいというのがみんなの思いだ。
「ああ、そうだ。今ははぐれた仲間と合流をしようとして歩いているんだ。君たち俺たち以外の人間を見てないか。」
と星川が代表として仲間を遭遇していないのか尋ねる。男は普通に答える。
「いいや、俺たちは君たち以外には誰ともあってはいないぞ。モンスターならたくさんいたけどね。」
「そうか。他の人たちも見ていないのか。予想ではかなりいると思っていたのだけど。」
星川は誰にも会っていないということが気になったようだ。
「ちょっとあんた。うちの勇者様が質問に答えたのにお礼の一言もないの。礼儀がなっていないじゃないの。」
「そうよ。あんたみたいな下々を救うためにこの迷宮を攻略しているのよ。感謝しなさい。てゆうか、私の言葉を取らないでよ。神官ごときが。」
後から喋った女が先に喋った女の頬をビンタする。それの威力は中々のもので音が響き、女は倒れる。
「おまえさ、身分ていうのわかってる。このパーティで1番は俺だ。2番目は俺の妻であるオーロラだ。町の神官が許可なく発言をするな。そこのネクロマンサーのように黙ってろ。わるいわるい。君たちは何も悪いことをしていない。こいつらの発言を許してくれ。」
とウインクをする。今時珍しい身分社会の現状は中々いない。更に星川たちの世界でも王がいるが王以外はみな平等である。だからといっておかしいだろと、他人の事情に首をはさむことはできない。
「俺たちは人呼んで『勇者パーティ』と呼ばれている。俺たちの世界では魔王が存在をしていてそれを討伐するために旅をしていた。しかし、突然、魔王の領地内のダンジョンを攻略をしていたのだが、突如ここに連れてこられたというわけだ。早く、ここから出て魔王という諸悪の根源を倒し、魔王の配下である魔族をせん滅しなければならない。」
と長々と説明をすると今度は手を差し出してくる。
「君たちは強そうだ。俺の仲間に入らないか。仲間は俺たちと行動をしているうちに見つかるはずさ。」
と自分勝手な意見をさわやかな気持ちの悪い笑みでこちらを勧誘してくる。
強敵と戦い絆が芽生えた友人、そして自分の世界から一緒に来た戦友を探すことを諦め、一緒に行動すれば見つかるかもという消極的な考え。勇者は極端に言えば俺様以外は奴隷みたいな考えをしていそうな仲間でいると危ないやつだ。
「お断りするよ。仲間たちがケガをしているのかもしれない。早めに探さないと手遅れになるかもしれない。」
「そうか、残念だな。代わりにこの迷宮の情報を置いていけ。勇者と話せた代価だ。安いものだろう。」
「勇者は王様、王子の次に地位が高いのよ。下々、話せて幸栄でしょ。」
星川はうんざりしている。
「君はここがどこなのかを勘違いしていないかい。どこに存在しているかわからない迷宮だ。君たちがいう地位というのは君たちの世界でしか意味をなさない。更に下々と言ってはいるが俺は俺の世界の国の一つである王国の王子だ。お前と感覚をそろえるなら戦争ものだぞ。」
勇者はなぜか驚いている。まさか自分以外えらいやつがいないとでも思っていたという顔である。
「そ、それがどうした。勇者という存在がいなければ何もできないだろう。勇者とは魔族を統一している魔王すら殺せる存在として伝承に記され、神から俺はそれであると任命すらされているんだぞ。」
「ほんと、あきれる奴だな。誰かと比べて上でありたいのは勝手にやってくれればいいのだが、それを他人を巻き込み、情報をよこせだ。なめてんじゃねーぞ。お前たちのような馬鹿にやるものなんて一つもないわ。」
「ひ、ひっ。うるさい。貴様、この俺をなめているようだが、ここで不敬罪としてこの場で。」
勇者は腰に携えているロングソードを抜き高く構える。
しかし、星川が急接近をして勇者ののど元に剣をぴったりとくっつけて止める。
「やるっていうなら、こちらもやるぞ。戦争で人間相手を殺したこともあるんだ。ま、一瞬で首が落ちるのが想像ができるよな。」
「くっ、こうなったら。」
勇者と対等に話していた女が突如として走り出した。向かう先にいるのは祐樹であった。
「あの子供を使って土下座や金でも奪ってやるわ。そこを動くなよ、平民。」
女は凄い形相で祐樹に迫っていく。勇者の首を抑えた時点で、勇者に依存しているパーティが動くことを予想していなかったカイトと美優は遅れて祐樹の方に向かう。
「出力はさっき抑えている。あとは引き金を、引く!」
祐樹の手には先程星川からもらった銃があり女に向かって銃口を向けていた。女は軽く煙を上げながら突っ込んでいった方向とは反対に吹き飛んでいく。
そして、勇者パーティの真ん中で止まる。
「あれ?ダイアル調整間違えたかな。けど、怖いおばさんが飛んでいったからいいか。」
「あはははは、おばさんだってさ。面白いな。」
「祐樹君、私はどう思うの?」
祐樹は困った顔をする。
「正直に言うと、怖いお姉さん。」
「正直でいい子、よしよしよしよし。」
美優は祐樹の頭をまるで犬をなでるかのようにかわいがる。
「な、なんなんだ。あの子供は。こ、降参だ、ここから手をひ、引くよ。」
勇者は名前の通りの行動をせず、反対なことをしている。昨今のライトノベルに出てくる敵の勇者であるだろう。
星川は剣を鞘にしまう。そして、とても冷たい目で一行を見て言う。
「さっさと行け。目障りだ。腐りきったやつと一緒にいるだけでこちらも腐ってしまいそうだ。」
「く、覚えていろよ。」
「三下セリフしか言えないのか。」
勇者は剣を鞘に納めることもなく仲間すら置き去りにしてきた道を引き返していく。
「待って、勇者様~。」
生意気な女が後を追うとみんながぞろぞろと追いかけていく。
「呪いなんてなければ、この迷宮でおさらばできたのに。」
「し、静かにしないと聞こえてしまいますよ。」
仲間たちは不満を聞こえないようにそれぞれ漏らし神官と呼ばれた女が声量を抑えるように注意している。いやいやながらも呪いによって無理やり従わされているようだ。
星川たちは呪いというのに関する知識は世間一般程度であるのでどうすることもできない。
「やっと行ったか。祐樹君、さっきの銃がさっそく役に立ったね。」
「はい、ありがとうございます。威嚇程度に撃ったつもりでしたけど飛んでいきましたし。」
美優が笑いながら祐樹をほめる。
「それにしても、銃の威力もそうだし、まさかの言葉でもダメージを与えていくなんて流石よね。」
「ああ、僕もびっくりした。祐樹くん、女の人におばさんて言うのは今回限りの方がいいよ。」
祐樹がちょっと照れながら
「僕だってそのくらいの事は知ってますよ。けど、あの人の顔があまりにもすごかったから、、、」
「俺も横顔見たけどあれは凄かったよ。モンスターが人間の形をしているようにしか見えなかったよ。」
4人は危ない人間相手に無傷で対処することが出来た。祐樹は女の顔より星川が王子であったということ、戦争の経験者であることに一番驚いている。しかし、聞くことはできない。




