ある女の話(1)
「うーん、こっちにも無いや。アイツいつもとは違う場所に出口を作りやがったな。全く俺が居ない間にあちこちと改造してるし。どこから出ればいいんだ?」
ブツブツと独り言をしながら岩のうえに座っている。周りは背丈の高い草が覆い茂っている。風が吹くとそれにつられて草たちが歌う。とてものどかな場所だ。
女は立ち上がり遠くを見るが、草しか見えない。あまりに広い範囲で生えているためそれしか視界には写らない。
つまらない、そう思ったのか大きな欠伸が出る。
腰には大きくて長いものを携えている。太刀だ。女の体格と比べて見ると明らかに使うことは出来ないとしか誰もが思う。
「よっと」という声と同時に少し跳躍して立ち上がる。腰に手を当てて背中を伸ばす。ググッと音が鳴る。ぼきぼき。クリクリと腰を振っている。
その背後でガサッ、草を搔きわける音がする。しかし、それは風の音とでは限りなく小さく、耳に意識を向けてようやく聞こえる程度だ。
その音の主は赤い悪魔。『リトル・デーモン』小さな体ながら人間並みの力があり魔法も使える『デーモン』の上位種でもある。
小さな体格を利用し、女を仕留めるための位置まで近づいていた。気持ちの悪い笑顔を浮かべている。ここまで近づき勝ち誇っているようだ。
風が一段と強く吹き乱れる。草が風と混じり音が激しく鳴る。
同時に音に隠れながらリトルデーモンが踊り出る。その体から出るとは想像できないバネで跳躍をする。ほとんど何も身にまとっていないおかげか尚音が出ない。
「あー、うん。やっぱいるよね。斬り捨てるか。」
女は膝立ちをに体勢を直し腰にある刀に手を当て、
「せーの。」
掛け声と同時に手は腰ではなく右腰の後ろに移動、いや瞬間移動していた。
デーモンは女に何もせず通り過ぎていった。そのまま首だけが落ちる。
体が地面に着くと血がゆっくりと流れて出ていく。静かに、何事も無く終わった。
女はまた立ち上がって辺りをまた見回した。
「こっちではないのか。今度はあっちかな。早くしないと、あいつの事だから厄介なの作っているんだろうな。」
ひょいっと跳躍をして草むらの中に入っていく。
(おい、ちょっとま、、、)
「ん、何かが話しかけて来た気がするが、まあ、気のせいだろう。」
地面に着地したと同時に足を踏み込み、解き放つ。異常な速さで体が弾け飛ぶ。
すぐに、草むらを抜け、田んぼが広がる平地が見えた。
そして、更に奥へと足を進める。目的の物はあるのだろうか。
女の姿はすぐに消えていった。