第十六話「次の選択肢」
この迷宮はあまりにも難易度が高すぎる。ここでは戦闘能力がものをいう敵が持っているアイテムを破壊することによってできる脱出方法を聞き出した。そいつらを倒すために強くなるにも時間はあまりにも足りない。ここで、ありえないぐらい成長したのは確かだがそれでもたどり着けないような境地がある。
悪魔との契約があるのならここで使ってもいいぐらいだ。それほどここにはいたくはないし、強くなりたい。口や行動はそれを感じさせないが、心の奥底で叫んでいる本心はそれが出来なく、理不尽な状況に泣きたいと言っているものだ。
だけど、そんな弱音をだすような暇は一切ない。それが心が壊れることを防ぐ。次第に理不尽に対して慣れてくる。そうすると心も次第に余裕を持ってくる。
けど、本当の理不尽をまだ知ってはいなかった。
理不尽は想像の範疇を超えてくるものだからだ。
「有二。森の中でどこを探せてないのか?」
「マップをみてないからなんともいえないな。走りながらでもみるか。」
キースがこれからどこを探せばいいのかを尋ねてくるのをおそらくだがまだ行ったことのないところに向かいながら端末でマップを見る。
有頂天な天狗をボコボコにして情報を聞き出さすことができた後は、転移によって分断されたノレンとカムイの捜索をすることになった。ビルは龍人という化け物を抑えてくれている。
その龍人に今、俺とキースが割り込んでも簡単に殺される。瞬殺されてしまうぐらいの力の差がある。命を簡単には散らすことはできない。ゲームではないからだ。
マップを見てみると今は北に向かっていることがわかった。南と東側のエリアは行ったことになりるのか。おそらくは。このまま進んで行っても大丈夫だと思う。思っていたのと違う。脳内マップはあまり役に立たないな。
「このまま進んでいっていなかったら西のエリアに行こうかな。」
「了解。要石を壊すことってあんまり脱出する方法としてはよくないよな。」
「ああ。要石を持っているのが天狗以上に強いのは間違いない。龍人に至っては絶対に勝てない。瞬殺されてしまうからな。」
そう、龍人はこの身で戦闘を少し見たけどあの時点で戦いに参加できる余地はない。しかも、まだ力を出してはいない状況。そんな化け物の目を盗んで要石を破壊なんてことはできないだろう。なら、別の方法を探す方が可能性が格段に高い。
みんなと合流をしてから違う方法を見つけ、その前にはぐれたみんなと合流する。そう考えると零や祐樹が無事なのか気になってきた。零は強いが祐樹は戦闘面に関して子供である。簡単に殺されてしまうかもしれないのでキースの仲間たちと一緒にいて守ってくれていることを祈るしかない。
「そんなにすごいやつなんだな。俺の学校の校長クラスの強さなのかな。」
キースが龍人の話を聞きそんな感想をいう。校長クラスってラノベでしか聞いたことがないけど。
「さぁね。おれはその校長をしらないけど次元が違うという言葉を初めて使うよ。」
「校長も次元が違うから、想像がしやすいな。それなら、逃げた方が明らかにいいね。」
キースの世界でもあんな化け物がいるとなると俺の世界は人間は人間の枠組みを超えている人は見たことはないから。世界の違いは常識が違ってくる。
常識という枠組みを思考から外すべきなんだろう。
足を動かしながら考えることをするが常識外のことはしっかりと考えなければ思いつきもしない。なら今は現実をそのまま受け止めて対応することが必要だ。
(最近、対応力が必要必要て学校でもニュースでもうるさいんだよな。対応力を養うようなところは一一切用意しないくせに。対応力を求める環境を見つけ出し行動することが一番必要なことなのに。)
元の世界のことについての愚痴を小言で言ってしまう。少し後ろを走るキースには聞こえてはないみたいだ。
「おーい。どこにいるんだ!」
大きな声で呼びかけてみる。反応はない。
モンスターに気づかれる心配は恐らくだがない。この森で一匹も見たことがないからだ。
マップをみるが森の北にたどり着いた。その呼びかけで反応がないということはこの辺りにはいないということだろう。後は西に行くだけなのだがもしかしたらこの森以外に飛ばされた可能性も捨てきれない。
「あとは西だけなのか。どうする有二。」
キースにどうするといわれて西に行くだけだとは言い切れない。さっき言ったように外に飛ばされたのならこのまま西に行くと時間を潰すことになってしまうと生存確率が下がってしまう。けど、二人をほってはおけない。
「西に行こうか。さすがに外には出てはいないと思うけど。」
「わかった。ちょっと気になったけど、このまま外に行くと何があるんだ?」
「ええと、ちょっと待ってよ。市街地があるな。どうかしたか。」
「いや、気になっただけ。」
市街地が森の近くにあるのは単なる偶然。だけど、少し気になる。そっちにいる気がする。
「キース、お前が言うことが気になってきたじゃないか。」
「え、ごめん。」
頭を掻き、首を鳴らす。可能性とは違う、確率。これは信頼性の高いものであることは間違いない。データを基に考えられたものは、経験やあ直感とは違い確実性がある。けど、俺の頭で考えた確率は直感には勝つことはできない。
「まったく、行くぞ。市街地に。」
「え、本当に?」
「なんだよ、行きたい素振りは嘘だったのか?」
「行く行く。行きまーす。」
森の西に行くことをやめて市街地に行くことに。キースはなんだかうれしそうな顔をしている。今更だけど、キースのチャラい雰囲気や言葉使いがなくなったように思える。カムイがやるときにはやると言っていたがこういう状態になるときのことを言っているのか。
「もうすぐ森を抜けるな。この世界に来てから身体能力が上がりすぎてスタミナがありすぎるのはありがたいな。」
「上がりすぎではないけど確かに成長が以上なんだよな。ビルの能力のおかげかな。」
「あの謎が多い能力な。あれのおかげで天狗を仕留めることができたからいい能力であることは間違い無いと思うけどな。」
異世界に来ただけでも驚きなのにゲームのように自分の力が以上に上がることを実感できる。憧れた異能力だけど、成長の速さは首を傾げてしまう。どういう原理なんだろうか。
そうこう考えていると木の生えている本数も減ってきている。市街地が近い証拠だろう。涼しい風が近づいてきた。
「なんか、寒く無いか。」
キースがそういう。風邪ではなく本当に肌寒い。
肌を触ってみると鳥肌が立っている。いくら北に向かっているからと言っても気候が変動する距離を移動はしていないしできない。
足も少し震えている気がする。これはただ普通に寒いだけなのではない。この先に何かがいる。
「この先なにかいるぞ。龍人とは別の何かが。キースお前の勘は冴えているな。」
「そんなことを言っても何も出ないぞ。」
引き返すこともできるのではと傍からしたら思うだろう。けど、無理なものだ。もし、引き返すのなら何かに絞殺されるような錯覚に襲われそうだ。
キースがいきなり周りを見回す。なにかあるのか尋ねる前に、
「もしかしてだけど、見られているよ有二。魔法で俺たちの居場所を把握しているらしい。」
「魔法?。」
「どんな魔法を使用しているかはわからないけど、探知系の魔法は珍しくはないからね。」
「逃げたら殺すぞの意味で今圧力をかけられているのかな。この寒気は。」
「かもしれないね。それに見ている場所は明らかに市街地からわざと向けられてるし。」
重くなった足を進める。一歩ごとに体力をごっそりと持っていかれそうになる。プレッシャーはこんなにも体に負担をかけてくるとは知らなかった。
キースの顔を見てみるがいつものおちゃらけた様子はなくなっている。カムイが頼りにするのもうなずける。引き締めるところは引き締めやるときにはやる、彼は俺よりも明らかに肝が据わっていて、心でも強い。
「ほんとうに頼りになるな。」
「なにか言った?」
「いや、なんにも。頼りにしているよ。」
「俺からいう言葉だよ。」
目の前に市街地が見えた。
本番はまだまだだ。この迷宮は本当の姿を見せてはいない。
この迷宮を攻略するカギはすでに生存者たちの手の中に。
生か死は心の勇気が決めることである。




