第十三話「迷宮内の森林②」
木は先程動いたが今は動く気配がない。これはあの天狗が近くにいないからこの木は動くことがないのだろう。ならまだ目的の方向が分かっているうちに調査をしなければ。
急いで駆け出す。大剣は背中の鞘に戻し、腕にはエネルギーを溜めておく。スキルのおかげでちょっとやそっとじゃどうということもない。ものの数秒でその地点にたどり着くことができた。転移したところでは渦巻いている。竜巻が起きて地面がすこし削られている。そして木がそのすぐそばにそびえたっている。
「木はさっき天狗がいるときには動いていた。いくら木を動かせてもその移動した痕跡の引きずりあとは消せはしない。地面になにもないなら木に仕掛けがある。」
地面を探しても引きずりあとしかない。これが転移の仕掛けを隠すためにしたことならこの引きずりあとの先にある。
その痕跡をたどっていくとやはり一本の木にたどり着いた。その木をぐるりと見まわると根元の方に赤い藁人形が打ち付けられていた。釘自体は新品で赤い藁は明らかにやつの髪の毛が使用されている。これをマーカーとして転移先を設定をし竜巻に包まれることで転移をさせるという条件で発動をさせていると考える。おそらく、これが森の中でいくつも刺さっていて自分の領域として展開をしていること。すると、このフィールドでは自分たちは仕掛けに気をつけながら戦うことになり、精神面や集中力をそがれ不利な状況であること。
「これを逆手に取った戦略を物語の主人公をすぐに思いついて敵を倒すけど今は思い浮かばないな。」
釘から藁を引きちぎり、釘を折っておく。転移のマーキング以外にも使用されたら厄介だからな。しかも、釘は呪術でも使われることがあるし未知のことを調べる余裕はないから壊しておいた方が身のためでもある。見つけ次第折っておこう。
折った釘はその辺に捨てる。あとはどうやってあの天狗を討ち取るかだ。転移の使い手、しかも高い位置にいる。一撃で仕留めないことには逃げられてしまう。今持っている大剣で仕留めることができるかもしれないが高い位置にいると踏ん張りがききにくて威力が落ちてしまう。つまりは一撃ではだめだ。矛盾はしているけど。
「俺1人ではだめだ。みんなを探さないといけない。カムイが見つかれば一番いいけど。」
集まらせないように散らばらせているならどこにいるかの検討はつく。円状にぐるりと走れば恐らく戦闘音が聞こえてくるはず。移動をしていればいいということだ。俺のところに真っ先に来たから反対方向にいる可能性は高いはず。急いで駆けつければまだいるはず。
「あの天狗をぼこぼこにしてやるか。鼻を折りに。鼻長いから簡単に折れそうだな。」
そう独り言を言い走り出す。
走りながら天狗が言っていたことを思い出す。かまいたちを防いだ時に「その腕、、、」とかなんとか。やっぱりこの腕はなにか秘密があるらしい。
しかも、それを天狗は知っているような素振りがある。話を聞こうとしても恐らくは話を聞いてくれはしないだろう。一応は聞いてみるようにしてみよう。
草もそんなに茂っていなくて走ることが大変ではない。手入れがされている感じだ。
視界よりも音が伝わりやすくなっている感じがする。そのおかげか、前方から凄い音が聞こえてくる。
「誰が戦闘をしているんだ。相手は天狗なのか。」
より、速度を上げて大剣を抜く。木々が段々と少なくなっていき開けた場所に出た。薄暗い森の中で光が強いところにいきなり出て思わず目を閉じてしまう。
いきなり体に強い衝撃が走り、肺が圧迫され咳が出てしまう。
「ゲホゲホ、ゲホゲホ。一体なにが、、、。」
「大丈夫かの、いきなり走ってきて光に目がやられるとは考えなしに来るとは無鉄砲ほどには驚くぞ。」
「ビルなのか。もう大丈夫、目は慣れてきている。相手はだれだ、天狗か?」
「いや、違うようでな。おそらくは逃げた方が良い、神話上に存在した種族だと思う。」
「人間ではないってこと?」
「ああ、獣人などと同じで人が獣の力を得たのではなく、獣が知恵などの人間の特徴を持ったように分類される種族。~人は数は少ないが力は強力である。」
「で、結局は相手はだれなの?」
「龍人、と言われる人に龍のうろこと翼をもつなどと人の形をした龍のことじゃ。神話では神との戦いで小さな体で油断させ強力な肉体と力を持つ神殺しを行う。そもそもの力は一人間ではかなわないものなんじゃ。」
「簡単に言うとやばい化け物であることには間違いないてことだな。」
「言葉で言い表せるのはまだあやつが神話級になっておらんからいえるんじゃ。」
「でもその相手が見えないのだけど。どこにいったの?」
「今、お前さんを吹き飛ばしたとき、突進攻撃をしたまま森に消え、、、来るぞ!ブレス攻撃じゃ!」
ブレス攻撃と聞き、すかさず足はビルと反対方向に全力で駆け出していた。龍は厳密には違うがドラゴンのことであり、そのドラゴンがブレスを吐くものは炎。路地裏で火炎放射器のように人間を丸焼きにするもの。さっきの話をあまり信じれてはいない。だが、ここでは信じていること、常識を超えてくることは容易にある。なんせ、魔法もあるからな。
少し気が緩んでしまったが。ブレスの範囲内から抜けることができた。
「うそでしょ。この威力はノレン暴走状態以上の危険度だろこれは。天狗があの程度だから侮っていたけど、これは本当に化け物だな。」
そうブレスが来た直線状では草、土がえぐり取られていた。もし、あの場に自分がいれば体中がえぐられていたかもしれない、そう想像してしまった。
「またまた人間か。つまらんものばかりを実験に参加させるとは所詮あいつも人間ということだな。しかも、老人と違ってただの小僧ではないか。」
「老人とは、ただ年をくった人間扱いかの。龍人のなかでも若い子よ。技能はおぬしを超えてはいるのだがな。」
「その技能も私の力の前では本来の半分以下となる。人間が龍を超えることができるとでも。まぁじじい貴様はそれを可能にすることもできるが人間の寿命では無理だがな。しかし、私を倒すではなく引き付けるのでは貴様は互角に渡り合えるだろうよ。」
「それは言えておるの。有二!お主はみんなと合流しこの森から抜け出せ。ただし、天狗を倒してからじゃ。わしのことは置いていけ。よいな!」
「そんなことを言ってもビルを置いていくなんてできないだろ。俺じゃなくてもみんなそういう。」
「話に割り込むが今のお前では相手にならん。出直せ。天狗とやって成長した場合のお主程度でも相手にはならん。私は寛大だからな。今のうちに失せろ。」
「ああそうかよ。なら、行ってやるさ。だが、今度会ったらボコボコにいてやるからな。」
2人そろって役に立たない、その辺りのちりくずとかに近い言葉を長々しく言いやがって。ぜってぇ2人を泣かせてやる。
そう誓いを立ててその場から去る。そう誓いを立てたけど実際は本当の役立たずである。龍人である彼女は明らかに今まで会った敵の中で格が違う。
あそこに俺がいるだけでビルの邪魔になってしまうことは間違いがない。仕方ないことだ、俺が弱いのが悪いんだ。
「あの天狗にこのどうしようもない気持ちをぶつけるしかない。」
次は自分がいた付近には当たらないようにして探索を続ける。大剣は背中にもどし、もっと速度を上げて走る。とっとと天狗をぶちのめして洗いざらい知っていることを吐いてもらうようにしないと。
「さっそくだけど、当たりを引いたな。」
空を切るような音が右から左に流れていくと枝が次々に落ちていく。
「かまいたちだな、天狗くんの。」
かまいたちを出しているてことは誰かを攻撃しているということ。誰でもわかる推理だ。
走ってきた道と変わらない木がよく成長していて天狗のフィールドである。竹が全くないのが少し残念だ。
再び大剣を背中から抜き今度は飛び出さないようこっそりと覗き見る。
「いきなり、出てきたと思ったらすぐさま襲い掛かってくるなんて。パフォーマーとして登場したのに二回目からは獣のように襲ってきて。人格変わった?」
「急用ができた。さっさと、、、死なんかい。」
キースが天狗と交戦している。下手な突っ込みをしている。キースが後ろに飛びながら敵からの攻撃を避けている。
「あ、やべ、、、。」
キースは何かに躓いてしまい、背中から盛大にぶつかり転がる。天狗はうちわでなく腰からナイフを抜き、空中から急接近しそのナイフを突き刺そうとしている。
転んでいる状態のキースは避けることは難しいように思った。すこし考えてしまったせいなのか少し出るのが早すぎてキースと天狗の直線状に入ってしまった。もう、キースを持って避けることもできない。
「はぁ!」
大剣を横に構えて100パーセント、キースに危害が加わらないようにする絶対防御の姿勢。
「有二!?」
鈍い衝撃が大剣越しに伝わってくると同時に腕に何か痛みが走る。
「また、貴様か。後で相手をするというのに、しかも邪魔するなどと。」
「うるさいな。なんでお前のいうことを聞かないといけないんだ。あと、後もなにもないからな。さっさとお前を倒して龍人を倒さないといけないからな。」
「貴様、ナーガに会ったのか。ハハハハハ。わしにも勝てんお前がナーガに勝てるものか。」
と笑っている。
「今は勝てない、けど次会うときは勝てるようになってるさ。」
「次があればいいのだがな。もう面倒だ。待てばよくなった状況だが、、、いい。貴様もここで森の肥料にしてやる。」
天狗はうちわに武器を持ち換えて振るい風を巻き起こす。今度はかまいたちではなく竜巻。しかし、転移させた竜巻とは違う。
「なんか、弱そうに見える風の攻撃だな。」
キースが立ち上がりながらその竜巻を見た感想をいう。そのかんそうの通り弱そうな見た目の攻撃である。しかし、相手は馬鹿ではない。ならこの攻撃には何かしらの意図があるはず。触らないようにすることが正解のように思えた。幸い、天狗が遠くから放ったものなので二人とも難なく避ける選択肢を取って避けた。
その竜巻がそのまま進んでいった先には木がある。2人が天狗に向き直った瞬間後ろでガザガザガザという枝が揺れ葉から鳴る音と木はかまいたちの跡が刻まれている。そう、あれは
「かまいたちの集合体だったのか、あの竜巻は、、、。」
「あれに当たると出血がとんでもないことになりそう。硬い装備で守ってないとズタズタに。」
一撃の攻撃力は高くはないが、それが収束しているまとまった攻撃は危険である。
「接近戦が一番の攻撃になることは間違いないか。キース、頑張って隙を作てくれよ。」
「お、おれが!?まぁその方がいいのはそうだけど。」
一撃必殺を狙わないと天狗に転移で逃げられることになる。つまり、右からの振りが一番の攻撃力であるなら支えてでなく振りぬく方の手と腕、左手と左腕に力を溜めておき隙ができるまではこのスキルの力を放出しないようにしないようにしなければならない。
天狗自体のステータスはそんなに強くはないが、経験、能力が非常に厄介だ。一定距離を保ち攻撃し疲弊や手負いになると決定打になる何かをする。それをカウンターていうのもありだが、そんな一か八かはあまりしたいくない。緊張してしまったら動きに遅れがゆるされない状況で決定打を逆に受けてしまう。ならキースを信じて隙ができるのを待つしかない。
「どうしようもない、敵の前の肩慣らしにはちょうどいいかな。義経伝説は実在したのかなていう疑問を晴らそうかな。」
大剣を肩に背負うのではなく左腰からの抜刀のように構える。昔は侍ごっことかしてたっけな。
風が舞う。
スキルは世界からの贈り物、海外で才能のことをギフトと神様からの贈り物とされている。
世界は明確な意思を持ってはいないが世界を守ろうとする規則にのっとる行動をする。そして、この世界というのは現実(読者側)の地球と同意義である。この迷宮のある惑星のことを世界という。
この世界は生きている。




