第十話「ご主人様とメイド①」
「倒したのはいいけど、こいつ魔物ではないよな。」
と先程いきなり襲ってきた「ご主人様になって(仮)」をキースとカムイがその辺に落ちている木の棒でツンツンとほっぺたをつついている。何か汚いものを触っている子供にしか見えない。
「多分人間だと思うけど、会話も通じたし、、、でもこいつの始末はどうしようか。」
と人間だとわかるとそのままにしておけないし悩んでいると
「吊るせばいいんだ。ロープかなんかでくくって木の上にでも。」
「「発想が恐ろしいわ。」」
ついついキースと一緒に突っ込んでしまった。
「手足を動かすことができないようにすればいいか。」
「なんだわかっているじゃないか。ほらこれロープは用意したから後は自分でやりな。その子のご主人様。」
「誰がご主人様だ!つかあの時いたな!隠れてたのかよ。」
「「私のご主人様になって〜〜」」
「そんな変な風には言ってない!」
キース、カムイ揃って俺のことをからかう。ひどい奴らだ。酷いと言えばもう1人いた。
「いや〜まさか雷帝の力を持つ者を倒すとはな、さすがじゃの。」
とパチパチ拍手をしながらのこのこと出てきたのはビルだ。そして俺の前にきて頭にポンっと手を頭に乗せる。
「いや、本当によくやったの。一皮剥けたのではないのか。」
「フンッ!!」
と少しだけだけど溜めた力を足に移してビルの腰を蹴る。さすがに油断していたのかまともに喰らってゴロゴロと転がっていく。いい気味だ。どうせ物陰で隠れてずっと見ていたんだろうだから。
「いやーさすがに痛いのそれは。威力からして魔力を貫通してるのか。ま、隠れていてすまんの。弟子の成長度合いを知りたくてな。」
「は、成長て言ってもたった一日じゃねぇかよ。それで師匠気取りかよ。」
「わしの能力を説明してなかったかの。それじゃあ説明しておこうか。」
と言って手を高く掲げて指を鳴らす。すると、何かが周りからやってくる。透明な膜のようなものが迫ってくる。それはこちらに危害を加えてくるようなものではないことはわかる。
「これは領域系統の能力で、生育発展。この領域内での成長の促進を促す能力。本人の素質によってその度合いは変化するがな。」
この腕の使い方が異様にすんなり上手になったのもこの能力のせいだったということらしい。けど、この能力は結構チートな能力でもある。この能力を乱発しまくれば誰よりも効率よく素早く強くなれるということだ。
「じいさん!その能力ってあまりに強くないか?」
「祐樹が言っていたチートていうやつなのか。」
とキースとカムイがビルに尋ねている。
「いや、そんなに使い勝手は良くないものじゃ。使える頻度も月に一回から半年に一回。時間も良くて一日しか持たないしの。便利能力の一つと分類すべきかの。」
「それじゃあ次に使えるのは?」
「早くても一月後じゃ。それはいいとしてその子をそのまま放置しておくのもかわいそうじゃろ。無事な家に運んでやらんか。」
そうビルが言うまでその能力に意識が向いてしまっていた。急いで倒した女を家の中に運び込む。そして、装備品をカムイに回収してもらう。また、暴れられたら困るからだ。その回収が終了したとカムイに言われて自分たちが戦った相手を初めてちゃんと見た。
褐色の肌と黒髪は先程見たが鼻には銀色のピアスをしており鼻は滑らかに平らになっている。そして、美女なので体は能力のおかげで強靭で華奢かと思っていたがしっかりと素人が見ても鍛えられている。それぐらいなことしかわからない。この人がどこの誰なのかは。
「ここはわしとカムイに任せてお主は休んでおれ。キースは外の見張りじゃの。」
そう言っておれとキースを追い出す。
「「じいさんも外な。」」
と変態じじいの首根っこを捕まえて外に引きずりだす。
そして言われてから疲労に気が付き精神的にもなんだか無理をしているような。だから今無事な家に入ってから横になった。すぐに眠りにつくことができた。
しかし、今回はあの不思議な場所の夢は見ることはなかった。
目を開けると頭は少しだけ重い気がする。戦ってからご飯も食べていないからなのか、水分をとっていないからなのかは分からないけど。寝起きで体の様々な機能が次々に覚醒しているときいい匂いがしてきた。またビルの料理なのだろう。体をボキボキと鳴らしながら外に出る。
匂いの元にふらふらと釣られながら歩いているとビルが料理をしているところにたどり着いた。
「おお、起きたのか。さぁ、ノレンの作ったご飯をくいな。わしが作ったものよりうまいからの。」
と言う。ノレンとは一体誰のことを言っているのか。ビルともう1人いたのはカムイではなく、あのご主人様やろうだった。びっくりとしていると
「おはようございます、ご主人様。先程は飛んだご迷惑をおかけしました。」
と土下座をしている。さすがに倒した相手が自ら土下座をしてくると退いてしまう。しかも、なぜご主人様なんだ。
停止しているおれにビルは
「彼女のご主人様になってくれるって勝手に言っておいたから。彼女の強さは知っているじゃろ。仲間は1人でも多い方がいいに決まっとるからの。」
コッソリと教えてくる。確かにそれはいい話だけど、おれがご主人様ってなんかなんとも言えない気持ちになる。カムイとキースが影で笑っている声が聞こえる。殴りたい!
「どうしましたか。お許しいただけないのでしょうか。」
「いや、許そう(ノレン以外は許さんけど)。お腹すいたから一緒に食べようか。」
「ありがとうございます。ご主人様。」
と隣にベッタリとくっついて座ってくる。
なんか変なのに取り憑かれてしまったようだ。
こんな変人でも今後のこの迷宮での攻略には頼りになることは間違いないし。今回の一件でもわかったようにモンスターだけでなく人間もこの迷宮で気をつけないといけないことになる。
それを知っただけでもこの迷宮の難易度が高いことを理解できる。
森崎有二
スキル:「???」「魔力操作D」「身体能力D」「鈍感」『体術C』




