少しの休息
起きて早々、血が出ていたところに優しく触る。
(体の傷の治りが早い。スキルのおかげなのかな。今晩しっかりと休むと動けるようになるなこれは。)
まだボヤけて見る先は少しばかり黒色に近いコンクリートがあることがわかる。そして、周りに人が複数いることもわかる。彼らは先ほどの巨大な手を持ったモンスター『ギガント』を共闘し追い詰めた仲間である。そして、そのモンスターがいた先にあった部屋、俺たちの目的地である俗に安全地帯と呼ばれる『セーフティルーム』に辿り着き傷の手当てや休息、食事をとっている。
大きな怪我は俺ぐらいなもので数少ないベッドを使わせてもらい寝ていた。長い間寝ていたせいで寝れなくっている。これはこれでいいのかもしれない。あの後のことを振り返るいい時間になる。
俺たちはギガントが変化し満身創痍のところ突如現れた女に助けられた。ここにいる全員で変化する前の弱い状態を相手にするのだけで精一杯だったので奇跡的に助かったと言っても過言ではなかった。
彼女の名は出雲。とある神社と同じような名前である。圧倒的な強さでギガントを倒し終えるとこちらを凝視し始めた。
「お前らはそんな強さでよくこいつから死者を出さなかったものだな。普通は全滅していてもおかしくはない。」
そう俺たちに言ってくる。褒めているのか呆れているのかはよくわからなかった。だが、呆れている方が自然な気がしている。みんなの攻撃に耐え巨大な手を駆使して牽制し着実に戦力を削いでいた。星川の魔法はすごく硬く傷が付かなかった手と腕に大火傷と傷を与えることができ、偶然に格納されていた剣を俺が拾いその性能を使って頭をぶっ叩き潰れたので終わりかと思った。しかし、ギガントは第二形態があるモンスターだった。今までのモンスターはそんなことはなかった。誰もが疲弊し全滅かと思ったが彼女がその形態でさらに強くなったやつを難なく倒してくれた。
彼女はその場にいる人を一人一人見ていく。そして俺を見たところで「ほう興味深いな」と近づいてきた。体全体を舐めなわすかのように見て
「なるほど、『ロキの使い』だな。面倒ごとに巻き込まれているのだな。」
と言う。ロキと言えば悪戯の神のことで自分は日本に住んでいてあまり関わりのない神様だ。面倒ごとに巻き込まれていることには間違いはないのだが。
「君は珍しい剣を使うのだな。『ブラストソード』。君の世界にはない技術が使われている代物だ。珍しいから大切にしな。」
そう言って元いた場所に戻る。なぜ俺の世界にはないとわかっているのか。
「君たちはこの先にある部屋にようがあるみたいだな。あそこならモンスターも出てこないし滅多には近づくことはないから早く移動しな。」
ギガントがやってきた方向を指差す。すると
「すまない助かったよ。僕の名前は星川。よければ僕たちと行動しないか。何やらここのことも詳しそうだし聞きたいことがあるんだ。」
「断る。君たちと行動しては目的を果たせなくなってしまう。同行することはできない。」
それじゃといい俺たちがここに入ってきた入り口に向かう。体を低くし駆けていく。もう姿が見えない。やはり、ただものではない。
それを見た後、安全であることにほっとして意識が朦朧としていた。記憶はここからない。
首だけをよこに向けると自分以外に誰がいるのか確かめてみる。星川や零、カムイなどみんな横になったり壁にもたれて寝ている。ゆっくりと体を起こす。もうゆっくりと歩くぐらいには回復しているはず。みんなを起こさないようにゆっくりとベッドから抜ける。外の空気を吸いたくなってきた。冷たい風が欲しい。
扉がある方へと足音に気をつけていき起こさないように慎重に扉を開けて外に出る。
部屋では感じなかった風が全身を包む。それだけで怪我の痛みなどが少し和らいだ気がする。扉からまっすぐ行った先に先程戦闘があった場所が見える。モンスターや人が来るならその先からしかくることができない。彼女もここにモンスターが来ることは滅多にないと言ったので腰を下ろしてゆっくりすることができる。
「君、まだ寝てないと。傷がまだ癒えていないでしょ。」
右から心配の声が飛んでくる。その方向を見るとわかった。星川の仲間の1人の誰かだ。透き通るような真っ白い髪をしている。名前は確か、カタリナ。その彼女を見て普段は言わないことを思った。かわいいなと。
「どうしたのですか。ぼうっとしていないで早くベッドに戻りなさい。」
と、上の空状態になっているところにまた声をかけられた。
「いや、休むにしてもあのむさ苦しいところよりここの方が何倍もマシだよ。後、傷の方はもう治りかけているからそれに中ではみんな寝てて話し相手が欲しかったんだよ。」
「傷が治りかけているなんて嘘はよくないですよ。」
そう言うから傷のところを見せてやる。すると目を見開いて驚いている。
「普通の速度では治らない修復ですね。ですが、まだ、動いてはいけません。ここに座ってください。」
と手で自分の隣に座れと促してくる。ゆっくりと痛みがこないように座る。彼女の方を見て話をかけようとするが先に話かけてきた。
「あなたは魔力を扱うことはできないのですよね?」
魔力という言葉。こんなことに巻き込まれても聞くことや存在を全く忘れてしまっていた。魔力なんて自分の世界では想像上の産物だからだ。
「できないよ。そもそも魔力や魔法なんてものは存在していないところからきているからね。」
「ならその回復速度はいったい。」
と考えこみ始めた。もしかしてと思い聞いてみる。
「スキルって知ってる?」
「スキルですか。技能ていう意味ですよね、それがどうかしてのですか?」
「やっぱりか知らないのか。そうだな、ここでいうスキルっていう意味はな。」
コウコウコウとざっくりと教えていた雰囲気を見ると彼女はスキルについて知っていなかったようだ。テレビゲームなどが普及している世界ではオンラインゲームでは必須の言葉でもあるから知らない人などゲームをやったことのない大人ぐらいのものだが。彼女の世界では知らないとみると文明からして色々と違う可能性があるのかもしれない。
彼女にその説明をした。意外と彼女は説明についてきていて説明が下手な自分にとってはありがたい話だった。
そして魔法を見た時から聞きたかったことに話を移すことができる。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど。魔力とか魔法って俺でも使うことってできるの?」
「そうですね。魔力については人によってある人ない人がいます。魔法は魔力と違って才能がいるのでそちらは使えないと考えた方がいいと思います。」
「魔法が使えないか。異世界とかいったら使ってみたいと思っていたんだけどな。」
「まだ、魔法を使っていないからなんとも言えないよ。でも、そうだ。」
そう言って俺の右手を両手で握ってきた。柔らかさがとても心地よく感じる。
「魔力のある無しならいますぐにわかりますよ。」
彼女は目を閉じて集中を始めた。右手から何か流れ込んでくる。それに温度はなく水のように流れ込み右手、右腕、と次々に伝わってくる。
「何か俺に流れてきているんだけど。」
「それは私の魔力です。糸のように操って魔力のあると思われる場所を探しています。ほとんどの人が心臓に近いあたりに多く貯蔵されています。」
「へぇ。この感じが魔力なんだ。本当に不思議なものなんだな。」
「ありました。胴体全体に魔力が少しあります。体の検査も兼ねてしていたのですが魔力を体が貯蔵し始めたのが最近、それも数時間前に通ったばかり。」
そして流れ込んでくる魔力の感覚がなくなった。その代わりにそれに似たものが体にあることがわかった。
「これが俺の魔力、、、」
「魔力を認識するには長い期間をかけて修行をするか、第三者から先ほどのように強制的にわからされるかに大きく分かれます。」
そして膝に手を置いてこちらをみる。
「異世界に来たってことが初めて感じることができたな。」
「浮かれるのはいいですけど、魔力をいきなり取り込んだり覚醒していますから体だけでなく精神的にも休めなければいけませんよ。」
「はいはい。」
背もたれとして壁に背中をつけて休む。
「ここに来ている人たちはいろんな世界から来ているらしいね。」
「そのようですね。ユウジさんは今まで寝ていたので私たちの世界の話は知らないのですよね。」
「そうだね。魔法があるとかしか知らないな。」
「なら、お話しましょう。あまり話すのは上手ではないのですが。後、話を聞きながらでいいのですが自分の魔力をゆっくりと循環させてください。体を休めるには最適ですので。」
魔力を循環させる。つまり魔力を操作するということ、今さっき認識できたのでそれをできるのかと疑問に思ったのだが魔力が自分の体の一部としか言いようのないぐらい操作ができた。
星川たちの世界、魔力が空気のようにあふれている魔法が日常的な世界。その世界は人間同士や異種族間での戦争が勃発していた。戦争をしている国の1つである「アルスタ」にある国立の魔法学校に所属していた。そこでは魔法の向上や魔力を用いた魔道具の作成に必要なスキルを学んでいくところ。そこの学校も戦争に巻き込まれて魔獣と呼ばれるモンスターをテイムした軍に襲われていたらしい。非戦闘員を逃していたグループの1つがここにいる星川のグループだったらしい。
最後に集まったところを謎の光が空から降り注ぎ気づいたらこの迷宮にいたらしい。
ざっくりとした内容だったが、異世界の人が異世界に。そしてここに連れてくる方法は複数ある。
「そろそろ、ベッドで寝た方がいいですよ。横になってあとは寝るだけでもこの後の行動に関わってくるので。後、見張りもそろそろなので皆さんにバレないうちにね。」
立って、立ってと手で表し、口パクで
(おやすみなさい)
全くこれだと寝れなくなってしまいそうだ。