うずまき、くるくる!
霜月透子事務局長、鈴木りん副館長のひだまり童話館『くるくるな話』に参加しています。
今日は、みんなでうずまきをする。うずまきは、人数が多いほど面白い。
校庭の真ん中からみんなで運動靴の先っぽで、ズッズッとうずまきを描いていく。
運動靴の先のゴムの部分が土で茶色になったけど、そんなの気にしない。ちゃんとうずまきを濃く描いておかないと、道をズルして走るかもしれないからだ。
うずまきは、くるくる、くるくる、どんどん大きくなった。
校庭の真ん中に大きなうずまきが出来上がった。
「グッパーじゃんけん、しよう!」
仕切り屋のケンちゃんが大きな声でみんなを呼び寄せる。うずまきをまだなぞっていた子も集まって、グッパーじゃんけんをした。
「グッパーじゃんけん!」
僕はグーを出したけど、パーの方が多かった。これじゃあ不公平だ。
「もう一度!」
また僕はグーを出した。今度は六人ずつ! これでうずまきが始まる。
「じゃあ、パーが真ん中な!」
パーを出したケンちゃんが、うずまきの真ん中を陣地に取った。外から走る方が何となく損な気がする。
「そんなの勝手に決めるなよ!」
僕は、ケンちゃんに抗議した。
「どっちだって同じだろ?」
「そんなことないよ。真ん中からの方が走るの楽じゃないか?」
うずまきの遊び方は、真ん中と外から走って出会った所でじゃんけんをする。そして負けた子は、自分の陣地に戻る。そして勝った子は、そのまま走り続けて、次の子と出会った場所でじゃんけんをするのだ。
どちらかの陣地に敵が入ったらゲームオーバー。
「うずまきなんだから、どちらでも同じだよ」
ケンちゃんは、そう言い切って、さっさと真ん中に陣取った。
「どっちでも良いなら、外にすれば?」
僕の提案は鼻で笑われた。どこがどう不公平なのか、ちゃんと言い返せなかった。納得できなかったが、他の子はケンちゃんと同じ意見みたいだ。
「ヨッちゃん、早くはじめようぜ!」
いつまでも僕だけぐずぐず言っているのも男らしくない。
「勝とうぜ!」
グー組は、外に集まって作戦を立てた。
「一番目は足の速いヨッちゃん!」
「まかせとけ!」
仕切り屋のケンちゃんが一番なのは分かっている。絶対に勝ってやる! そう意気込んで、外のスタートラインについた。
案の定、うずの真ん中のスタートラインにはケンちゃんが立っている。
「「うずまき!」」
同時に叫んで走り出す。くるくる、くるくる、うずまきの道を走って、ケンちゃんとぶつかって止まった。
どう見ても、外に近い気がする。やはり、真ん中を陣地にした方が優位なんじゃないのか? ちょっと不満だ。だって、僕の足が遅いと皆んなに思われるかもしれない。
「「じゃんけん! ぽん!」」
僕はいつもグッパーじゃんけんでは、グーだ。でも、今回はチョキを出した。ケンちゃんは、パーを出すことが多いからだ。
「負けたぁ!」
悔しそうなケンちゃんが真ん中の陣地に戻る。僕は必死にうずまきの道を走る。
かなり真ん中の近くまで走ったけど、ツッくんにじゃんけんで負けてしまった。外の陣地に戻って、列の後ろにつく。
「あっ、また負けた!」
「ツッくん、じゃんけん強いね! また負けた!」
大きなうずまきなのに、ツッくんはどんどん外へ近づいてくる。じゃんけんも強いけど、けっこう足も速い。真ん中組みの二番手だけど、本当はケンちゃんより速いかもしれない。
これはまずい! グー組、全員が同じ事を思った。こんなに大きなうずまきを描いたのに、あっと言う間に勝負がついちゃうだなんて格好悪い。
「負けるなぁ!」
必死にグー組は応援する。でも、ツッくんはなんと五回もじゃんけんに勝った。うずはもう二周しか残っていない。
「レンくん、頑張れ!」
レンくんは、どちらかと言うと足が遅い。だから、六番目なのだ。
二人が出会ったのは、うずまきの外から一周目だ。みんなは負けを覚悟した。
「「じゃんけん、ぽん!」」
「勝ったぁ!」
飛び上がって喜んでいるレンくんに「走れ!」と全員で叫ぶ。真ん中の陣地から三番目がくるくる、くるくるとうずまきの道を走ってくるのが目に入ったからだ。
「次はヨッちゃんだね。頑張ってよ!」
まだ、じゃんけんの前から頼まれた。何故なら、どう見ても外に近い所で、レンくんは三番目と出会ったからだ。
みんなの予想を裏切って、レンくんは次々とじゃんけんに勝った。でも、足が遅いので、なかなか真ん中に近づかない。じれったくて、足踏みする。
「レンくん、頑張れ!」
グー組全員からの声援に応えて、レンくんはじゃんけんで勝ちまくった。そして、ケンちゃんとの対戦に持ち込んだ。
「「じゃんけん、ぽん!」」
負けず嫌いのケンちゃんは、凄い気合を入れてじゃんけんする。気合い負けじゃないだろうけど、レンくんは負けてしまった。グーを出しちゃったのだ。
「ヨッちゃん、頑張って!」
声援を受けて、うずまきの道をくるくる回りながら、ケンちゃんパーを出すことが多いのを自覚しているかな? と僕は考えていた。
チョキを出すべきか、それとも……?
「「じゃんけん、ぽん!!」」
あれこれ悩んで、パーを出した。ケンちゃんはグー!
「やったぁ!」
うずまきを一気に中心に駆ける。でも、今回もツッくんが相手だ。ツッくんも凄い勢いでうずまきの道を駆けている。
「今度こそ負けないぞ! 絶対に真ん中まで行くんだ!」
気合い十分で、じゃんけんする。
「やったぁ!」
今度は、ツッくんに勝てた。でも、三番目に負けちゃった。
僕たちは五時の夕焼け小焼けのメロディが流れるまで、うずまきをした。
どちらも、陣地ぎりぎりになったけど、どうにか負けなかった。
「今日はここまでだ!」
仕切り屋のケンちゃんが、勝負の終わりを告げた。
「またうずまきしようね!」
足の遅いレンくんだけど、じゃんけんは強い。今日はツッくんに次ぐ活躍だった。
「またしよう!」
僕は、そう言ったけど、なかなかうずまきはできない。人数が揃わないと面白くないのと、大きなうずまきが描けるスペースを確保するのは難しいからだ。
その夜、布団に入っても僕は、うずまきの真ん中と外側の陣地、どちらが優位なのか考えていた。
「あっ! 真ん中の方が絶対に優位なの分かった! じゃんけんで負けた時、真ん中は何処で負けても半分で良い。でも、外側は反対側だと凄く遠いんだ!」
凄い大発明をした気分になったけど、外側の陣地に近い時はどうなのか? とか考えていたら、よく分からなくなった。
難しい事を考えていると眠くなる。
夢の中で、僕は大きな大きなうずまきの道を必死でくるくる走っていた。
そして、ケンちゃんやツッくんをじゃんけんで負かして、うずまきの中心に立った。
「やったぁ!」
何となく夢だと分かったけど、でも嬉しかった。
おしまい