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氷結の紅い死神  作者: 有馬奏
0章〜天使と死神
3/3

3話〜骸骨と宝剣

ダリルに連れられアリアーテと共に孤児院出た。





戦争や天災などで親を失った子供達を養う施設。

自分の他にも沢山の子供達がいる。



そんな子達をダリルのように養子として招きたいという者は多くはないが、優秀な子供ほどその傾向はある。



ギルは現在7歳。

ここに来て1年半で養子として招かれる事になる。




あの日の惨劇で家族を失った代償として手に入れたもの…

この齢にして魔力を操る術である。





魔力の使い道は幅広いが主な用途は二つである。


一つは魔力結晶に魔力を流し込む事。

大人になれば誰でもできる事でもある。

大国では学業の中に含まれる術であり、魔力をエネルギーにする車や家電製品まで、魔力結晶に魔力を注ぐ、または貯める事で使用できる。

前者は車、後者は家電製品などで用いられる。



転移結晶などの魔法もこちらの方法になる。

例えば炎の球を飛ばすファイアライフルという魔法を使うには、炎の魔力結晶というアイテムと魔法陣を空間に魔力で描く能力が必要となる。



魔力結晶を持たずに使える魔法も存在するが一部の例外を除き魔力結晶を使用した魔法には遠く及ばない。


故に魔力で魔法陣を描く事が出来るものを魔法師と呼ぶ。



もう一つは肉体を魔力で纏い強化する力。

薄い魔力の鎧を着るイメージで、この力を使うと風のように早く走る事や、素手で大木をへし折る事、大きな岩を持ち上げる事など様々な効果を得る事ができる。

このような力を持つものを魔導師と呼んでいる。


魔導師の力は強化、訓練する術は開発されているが、意図して会得する方法は現在発見されていない。

故に魔導師の希少価値は高い。


ギルは後者に属する。




コントロールはまだまだ未熟ではあるが…






「アリアーテ、ギル君こっちへ」



ダリルとアリアーテがギルの荷物を一カ所に集めて積み上げる。

全ての荷物を積み終えると2人を呼び寄せ転移結晶をとりだし、アリアーテに転移結晶を手渡した。




アリアーテは転移結晶を発動させる。

転移結晶は光を放ってアリアーテの手元から離れ、宙へと浮き上がる。

まるで小さなドームのような不思議な光が3人と荷物を包み込む。




「光の外に指を出したりしちゃダメだよ?指だけこの場に取り残されたりするからね」



結晶が放つ光をまじまじと観察していたギルへダリルは忠告する。







ドームのような光はさらに強い光を放つ。

自分の感覚は回転している感覚はないにも関わらず、周囲の風景は回転している。



さらに強い光を一瞬放った瞬間に光が広がり、吸い込まれるような感覚を覚える。






























目を開くと真っ白のだだっ広い部屋の真ん中だった。


「お疲れ様です。ダリル博士」




ギルが周囲をキョロキョロと見渡していると、若い白衣を着た男が駆け寄ってきた。








「ギル君、今日からここが君の家だ!部屋に案内しよう、付いて来なさい」




若い男に黒いコートを手渡してギルを見下ろして付いて来るように促す。


周囲を見ればアリアーテはすでに部屋の外へ出て行ってしまっていた。








ギルは現状どうすることも出来ないと、ダリルに連いていった。




「あの光…」








転移の時の光を思い出す。

天使が故郷に現れた瞬間がフラッシュバックする。



「うっ…」



激しい頭痛と共に胃液が食道を逆流してくる感覚がある。

ギルは口を押さえて逆流して来ている気がする胃液を押し込む。





先を歩くダリルには悟られまいと思った。

まだダリルを、信頼しているわけではない…



ギルの精神は過去の一件以来年相応でないと言えるだろう。

その事から孤児院でも少し孤立していた。



その思考にはいくつかの懸念があった。


この場所にいる大勢の人々。


それにダリルのことがある気がした。











先程の部屋同様廊下も真っ白であった。

窓がない…床も天井も壁もただ真っ白…





「ギル君は魔導師らしいね?どこで覚えたんだい?」



通路を歩く中、突如ダリルから質問が投げかけられた。

ダリルは横目にこちらが付いて来ているのか確認している。





「…気が付いたら使えてた」




嘘は言ってない。

実際何故、どうやって使えるようになったのか理解していない。

さらに掘り下げるなら今使えと言われて思い通りに使えかといえば…答えはNOだ。








「んー…困ったね、魔導師はみんな同じような事を言う」






ダリルは愛想笑い…というより苦笑いを浮かべる。




そういう内にダリルは部屋の前で足を止める。

ドアノブに手を掛けて扉を開ける引くと、中へ入るように促す。





促されるまま部屋に足を踏み入れる。







「ギル君…君は天使を見たことがあるかい?」





「えっ…」






驚きのあまり足を止めてすぐに振り返り、ダリルを見上げた。



故郷が天使に襲われたことは自分を保護してくれたラマしか知らない。

ラマは話したのか?

誰にも話さないと言っていた…はず。







そんなことがギルの思考を埋め尽くす。










「天使は唄うらしい…とても興味深い…」





身に覚えがあった。

ギルの表情が強張る。

強張るギルを口角を吊り上げて怪しい笑みを浮かべる。

捕食者が長い空腹の時を経てようやく獲物を見つけたように…








背筋が固まった。

恐怖を感じた。

ここに居てはいけない…そう本能が訴える。






そう思った矢先、ダリルは扉を閉める。



すぐに理解した。

自分は窓のないこの建造物の一室に閉じ込められたのだと。



ドアノブに手を掛けた瞬間ドアノブから小さな火花とともに電気が走る。



「あぐっっ…ここまでするか…」



表情少し歪めながら手首を揺らす。



仕方がないと少し距離を置いて目を閉じる。



集中しろ…自分に念じる。


本で調べた魔力の使い方を思い出す。


魔法師の違い魔導師は絶対数の加減で、それに対するデータが極端に少ない。

しかし運良くそれについて触れる程度ではあるが解説…というよりは考察の方が圧倒的に割合を占める本が孤児院にあった。

魔法や魔力について触れるも可能な限り読む事はしてきた。



不可能ではないはず…



やりたい事はまずは扉を破る事。

見た限りではあるが特別硬質である素材を使っているようには見えない。

しかし体験した通り魔力を何かしらの形で使っている事は分かっている。





イメージするのは鎧。

魔導師の使う身体強化の魔法は魔力の鎧を着るイメージらしい。

もっとも鎧なんてものは触れた事もなければ直に見た事はない。

なのでまずは手袋をイメージすることにする。



手の周りの温度が変わった気がする。

腕の毛穴が広がりそこからエネルギーが吹き出し、そのエネルギーは拡散せずに収束して腕にまとわり付き、皮膚の上に薄く膜を作る。


そんなイメージを浮かべていく。






いける



そう感じた。







目を開いて暗闇の中に僅かに映る扉の中心を見据える。

右腕が僅かに光を灯している。

小さな腕から僅かな光の粒子が浮かび上がっている。



確信した。








集中を切らさないように…


扉に向けて半身になり、膝を曲げ重心を低くする。

右手を腰元まで下げて引く。

左手で狙いを定めるように扉は手をかざす。


集中力を高め拳をぎゅっと握りしめる。








前に出している軸となる左足に力を込めた瞬間に天井にエネルギーとともに明かりがついた。



真っ暗な部屋に慣れ始めていた目に光が差し込む。

普段では気にもしない程度の明かりに体は反応し目を細める。



同時に未熟な魔力操作は、集中力を乱されエネルギーが飛散する。












部屋は外の通路や転移してきた部屋と同様、か 天井、床、壁と純白の殺風景な部屋だった。


ただ部屋の丁度真ん中に白い椅子にそこに寛ぐように腰掛ける黒いローブのを着た人体の白骨遺体?だった。





「なんだ…これ…人の骨?」




余りにも予想していなかったことに目を丸くする。




恐る恐るその白骨体へと歩み寄る。


その白骨は汚れていない。

もちろん触れれば崩れてしまいそうなほど脆く、年季を感じさせる雰囲気を漂わせているが、その割にはどこか絵になるような不思議な魅力があった。


何より気になったことがその白骨体がまるで赤子を抱くように優しく、大切そうに抱える宝剣…

その宝剣からは先程己の腕が発した光の粒子とは比べ物にならないほどの何かを感じる。


違和感とも存在感とも感じるそれは、まるで自分に話しかけるように…呼びかけるように…誘惑されている気がする。





何故かはわからない。

ただ脆く崩れた白骨と、余りにも美しい宝剣の矛盾が放つ魅力に引き寄せられ、考えるより先にその右手は宝剣へと伸びた?

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