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拙い色彩  作者: N
1/7

一話

 平日の昼間の図書館には基本的に爺さん婆さんしかいない。高二になって十七歳になってしまった俺でもぶっちぎりで最年少だ。そのせいで度々視線を感じるけれど、それは気にならない程度で基本的に居心地はいい。

 今日も縦長の大きな窓から暖かい日差しが図書館に射しこんでいる。俺達の町にあるこの図書館は結構新しい。築十数年とかそこら、多分。そのおかげで清潔だし、時間を潰すにはもってこいだ。金もかからないし、平日の真昼間にゲーセンとかに行くよりも人としてまだ終わっていない気もする。実際は不登校な時点でダメな気もするけれど。

 結局、俺は今日も図書館に来ては適当に手に取った本を読んでいる。

 『高校生の頃に読んでおきたい本』とスマホで検索してみてヒットしたものをこの半年で何冊か読んだ。堅苦しくて自分には合わなかった。『こころ』の先生にせよ『人間失格』の大庭葉蔵にせよ何をそんなに悩んでいるんだか分からなかった。先生は奥さんといるのが辛いのならば離婚してしまえばいい。大庭もイケメンなんだから別の女を探せばよかった。俺にはそんなに他人のことを考えて苦悩できる自信が無い。何時だって自分のことで頭が一杯なんだ。現代のエンタメ小説を頭を空っぽにして読んでいるのが一番自分の性に合っていた。

 そうしてぐだぐだと半年間も俺は不登校のままここにいる。今は五月。図書館はいつでも過ごしやすい。


 今日、俺と同じくらい年齢の女子を見かけた。大体年寄りしか平日の昼間にはいないけれど、まあ、たまに俺とタメくらいのやつもちらほら見たりする。だからあの子だけが特別珍しいという訳でもなかった。だけど俺にはあの子の姿が太陽を凝視した後に残る残像みたいにじわりと残っていた。

 理由はあの子がめちゃくちゃタイプだったから。そんだけ。黒のボーイッシュなショートカットに薄めの唇、全体的にこざっぱりとした顔立ち。女の子にしては身長の高いすらっとした身体。そして何よりも気だるそうな目。すごいタイプ。結婚を前提に結婚を申し込もうかと思った。ゼクシィとか渡したい。

 着ている制服が結構有名な進学校のもので更に嬉しかった。頭のいい子は好きだ。逆に頭悪いやつは無理。なんか人と話している筈が猿と話してる気分になる。


 甘いマスクもムキムキの筋肉もキレッキレの頭脳も持っていない俺が選り好みするなんて傲慢な事だけれど勘弁してほしい。欲求は欲求であり、それを理性でどうこうするというのは無理な話だ。何でもかんでも手当り次第に興奮する高校生男子におっぱいを見ても興奮するなというようなものだと思う。俺がそんな事言われたらおっぱいを前に憤死する。

 そんな訳で俺は今、微塵も集中していない本を熟読している振りをしながらあの子の姿を追っている。ハンカチと財布とか落としてくれたらいいのに。


 この図書館は二階建てだが殆ど吹き抜けになっている。だから二階と言っても少ししか無く、そこには学習室とラウンジがあるだけだ。そこに繋がる木とガラスで出来た洒落た階段をその子が軽い足取りで上がっていく。夏の空みたいな深い青が主体のつま先と靴ひもが白いスニーカーが眩しい。その時、彼女の背負っているロフトにでも売ってそうな如何にも高校生然としたリュックの小さなポケットから何か紙みたいなものがひらりと落ちた。

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