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第三話 新居の心境?

前回のあらすじ

・南国美少女は叔母だった。さらに、三歳の叔母?

・お祖父ちゃん何やってんの。

2016/11/20 イラストを追加しました。


 祖父ナガトの住宅は、リビングが二階まで吹き抜けになっていた。その奥の壁面は外側に広がる花弁都市の外壁に沿った一面のガラス窓になっている。地上千メートルからの絶景に、しばしツトムは見とれた。

 眼下に広がる緑の大地。水田や畑の他に、マングローブなどの熱帯の森が広がり、その間を何本もの川が流れている。その先は海……これも人工的な遠浅の海岸で、サンゴ礁が徐々に育ちつつあると言う。

 陽はやや傾いたが、まだまだ明るい。しかし、水平線の彼方からは濃い色の雲が発達しているのが見て取れた。熱帯特有のスコールが近づいているのだろう。

「ツトムさん、お茶にしましょう」

 振り向くと、サリアがお盆に日本茶の湯飲みと急須を載せて微笑んでた。勧められるままソファに座り、涼しい室内で熱いお茶をすする。なんか、贅沢だな。

 お茶受けの煎餅をかじりながら、そう思うツトムだった。ちなみに、昼食で飽和状態だったのは、かなり解消していた。流石に、食べ盛りだけのことはある。

 その隣にはタリアが座り、何やかやと世話を焼く。しかし、ツトムはそろそろ限界だった。主に膀胱的な意味で。

「えーと、トイレどこかな?」

 タリアに場所を聞いて、用を足しに行く。そこまで”くもすけ”が付いていくのは、子守りロボットだった影響だろう。

「ツトム、大丈夫でっか? リアルで食い倒れやで」

 一応、ツトムの健康状態に気を使ってくれる。確かに、食べ過ぎで飲みすぎ(お茶)だ。

「別な方で倒れそう」

 急に増えた家族、それも女性ばかり。なんか、どっと疲れが出てきた。リビングに戻ると、祖父のナガトに告げた。

「色々疲れたんで休みたいんだけど、僕の部屋って……」

「おお、そうだったな。ツトムの部屋は二階なんだ。ついておいで」

 ナガトはリビングの端にある階段へと歩みながら、ツトムに手招きした。

 階段を上がると廊下になっており、片側はリビングの吹き抜けに面してバルコニー風になっていた。ここからの外の眺めも素晴らしい。

 反対側にはドアが並んでいて、それぞれ家族の個室になっているようだ。

 手前から順に、ナガトとサリアとナリアの部屋、タリアの部屋、そしてツトムの。

「ツトムの部屋は、将来ナリアが大きくなってからと思ってたんだが、まだ何年も先だからな。気にしないで使ってくれ」

 流石に、このまま何年もずっとここにいるわけにはいかない。母の仕事が終われば帰国となるだろうし、高校進学で内地に下宿とかもありえる。それでも、中学の三年間はここで暮らす可能性が高い。

 そのナリアは、ナガト夫妻の寝室でお眠だそうだ。良い子の幼児は寝ている幼児だけ。ありがたい。

 自分に割り当てられた部屋のドアを開く。六畳ほどの室内にはベッドと勉強机くらいしか家具は無く、引っ越しで片付けた以前の部屋を連想させた。窓は花弁都市の側に開いていて、傾いた日差しの照り返しが眩しい。

 デイバッグを勉強机の上に放り出すと、ツトムはベッドに横になった。その横に”くもすけ”が飛び乗り、ツトムに催促する。

「寝るんなら、わてのメシ用意してや」

 一言うめくと、ツトムは起き上がってデイバッグから”くもすけ”のクレイドルを取りだした。揺籠(クレイドル)と言っても、ようするに充電器だ。”くもすけ”が四本足を曲げてうずくまるのに適した形になっている。そうすることで、お腹のあたりにある非接触の電磁誘導で充電できる。

「これで良いかな? じゃ、おやすみ」

 思えば、ケアンズからの数時間しか寝てない。ほんの数分で、ツトムは夢の世界に旅立っていた。なぜか、少女二人が山盛りの料理とお茶を手にして追いかけてくる夢だった。


********


 腹部への強烈な衝撃で、ツトムは文字通り叩き起こされた。

「ツトム、ばんごはん! たべよう! おきて!」

 腹の上で飛び跳ねる幼女、ナリアだ。

 息も絶え絶えで、ナリアを抑えつけて言い聞かせる。

「お兄ちゃんのお腹、トランポリンじゃないから。破けちゃうからやめようね」

 そのまま、ジト目で”くもすけ”を睨む。

「僕、ちょっと死にかけたんですけど」

「ちょいまち! わても色々あってやな」

「充電中で寝てたんだよね。よくわかります」

 腕の中のナリアが暴れ出した。

「ごはん! ばんごはん! たべようよツトム!」

 ベッドから飛び降り、ツトムの手を掴んでグイグイ引っ張る。

「わかったわかった。行くから」

 昼だけで三日分くらいのカロリーを接収してしまった気がするが、この子の誘いをこれ以上無下にしていると、命にかかわりそうだ。幼児の暴力は手加減が無さ過ぎる……。

 階下に降りて、リビングの一角にあるダイニングテーブルへ。サリアが食器を並べていた。

「ツトムさん、よく眠れました?」

 サリアが聞いてきた。

「うん、危うく天に召されるところだった……」

 ツトムの言葉に、小首をかしげるサリア。まぁ、意味が伝わらない方がいいだろう。適当にごまかす。

「晩御飯、メニューはなんだろう?」

 サリアが椅子を引いてくれたので、座りながら聞いた。”くもすけ”が「椅子を引くのは男の仕事やで」とか言うが、聞こえないふり。

「私手製の特製ハンバーグですよ」

 昼がこってり台湾料理だったので、正直なところ、夜は軽くすませたかったのだが。

 そんな思いは飲みこんで、ツトムは務めて明るく言った。

「そうなんだ。楽しみだなぁ」

 棒読みになってないよね? と問いたくて”くもすけ”を見たら、目をそらしやがった。

「そういえば、タリアは?」

 室内を見回すが、姿が見えない。

「ごめんなさいね、ツトムさん。あの子ったら、朝早くから大騒ぎで、疲れたのか寝ちゃったの」

 サリアが答える。なるほど、ああ見えて頑張ってたんだな。ツトムはそう思った。

 ……何を頑張ったのかは、考えない方が良いだろう。

 ナガトが席に着くと、みんな揃って「いただきます」だ。昼にあれだけ食べたのに、ツトムはそこそこ食べれた。これは自分でもちょっと驚いた。環境が変わった影響もあるのかもしれない。

 ツトムの席からは、サリアの肩越しに外の景色が広がっていた。水平線から昇る満月。東京郊外では見られない景色に、思わず見入ってしまう。

「あらあら、そんなに見つめられると困っちゃうわ」

 サリアの言葉で現実に引き戻される。ちょっと居心地悪い現実に。だから、思春期前なんですってば。

 なぜか、傍らのナリアの方から、めっちゃ見られている感じ。まさか、三歳で母親に嫉妬?

「あ……あの、ええと、ごちそうさまです」

 食器を重ねて席を立とうとすると、サリアが押しとどめた。

「いいからいいから。お風呂できてるから、旅の疲れを落としたら?」

 お風呂か。日本人はやっぱり、命の洗濯ならお風呂だよね。

 風呂場の場所を教えてもらうと、一旦部屋に戻って替えの下着をデイバッグから出した。それを持って脱衣所へ。さすがに”くもすけ”はここまでだ。完全防水ではないので。

 その点、ツトムのメガネとは違う。スマホと連動してAR表示も可能なデバイスだが、完全防水だからこのままシャワーも浴びられる。裸眼では鏡に向かっても自分の目と鼻の区別もつかないので、入浴時もメガネは必須だった。

 で、浴室のガラス戸を開けると、だ。

 湯船でうつらうつらしている、タリアの裸身をまともに拝むことになったわけだ。

「あ……え……タリア」

 その声で、はっと目覚めるタリア。反射的にそのまま立ちあがってしまう。

 暖かい湯気の中で、凍りつく二人。

「★■▲●!」

 何やら聞きとれない言葉を放ち、タリアは浴室から飛び出して行った。その際に肘がツトムの顎先を捕らえたのも偶然に違いない。脳みそを激しくシェイクされ、その場にあおむけにひっくり返ったツトム。その股間を隠すように、”くもすけ”が「見せられないよ!」のパネルを掲げる。なにしろ、思春期前なのだから。

 ……しばらくして、ツトムは自分の部屋のベッドで目を覚ました。

「どや。自分、頭は大丈夫かや?」

 ”くもすけ”が顔を覗き込む。さすがに、心配してくれはしたんだな。

「ナガトはんに伝えて、運んでもらったんや」

 海の男の祖父なら、ツトム一人を抱きかかえるのも楽なもんだろう。倒れ込んだのも脱衣所側なので、体も濡れていない。下着は、着替えるために持って行った方を着せてくれたらしい。

「寝る」

 いまさら風呂に戻る気にもなれないので、そう宣言して寝なおす。

 しかし、目を閉じるとさっきの光景が脳内で再生されてしまい、寝るに寝れないツトムだった。

 まったく、思春期前なのに。


********


 翌朝、ツトムが洗面所から出ると。

「おはよう! 今日はどうする?」

 タリアが元気よく話しかけてきた。しかし、昨夜のこともあって、(から)元気のようだ。真っ赤な顔で、いろいろ早口でまくし立てる。今朝は上半身は水兵服、下半身は布を極限まで節約しましたという感じのミニスカで、脚の露出度が上がっていた。

 おかげで、なぜかツトムも焦る。

「えーと、えーと、お祖父ちゃんの仕事場、もっと見てみたいかな」

 昨日は着いたばかりで、どんな仕事なのか聞く余裕がなかった。何より、海洋調査というのが、具体的にどんな仕事なのか、興味もあった。

 が、単なる仕事場見学では済まなかったのは、もはや必然かもしれない。


 朝食の後、祖父ナガトが出勤するのについて行くツトム。涼しい花弁都市から一気に千メートルを下ると、南国・熱帯・赤道直下だった。急な気温変化に、ちょっとクラッとする。

「こりゃ、慣れないとキツイでんな」

 足元の”くもすけ”が突っ込むが、正直なところツトムにとっては空気だ。なぜなら。

 傍らではタリアがフル回転で何か話しかけているからだ。昨夜のアノ情景を思い出させまいとでも言うかの如くだ。黙っていた方が、いやむしろ家に残っててくれた方が、ツトムとしては思いださないで済んだと思うのだが……世の中には言わぬが花ということがある。

 ちなみに、ナリアはママであるサリアとお留守番だ。駄々をこねそうだったが、「ママはお掃除とか洗濯があるから行けません」で諦めてくれた。三歳児にとってママは必須だもんね。

 自動運転車に乗って向かった海浜区。例によって、ただの倉庫にしか見えない「ナガト海洋研究所」だ。祖父が虹彩認証で解錠し、二人を招き入れた。

「ツトム、仕事の内容に興味があるんだったね」

 祖父の言葉に、ツトムはうなずく。

「丁度、調査依頼があるから、一緒に出てみるか?」

 事務所の奥のドアを開いて、ナガトは孫と娘を招き入れた。そこは給湯室のような流しのある部屋だったが、さらに奥にドアがあった。そこをくぐると……。

「わぁ……」

 外見通りの倉庫のような空間が広がっていた。ただ、そのかなりの面積は外壁から細長いコの字型に区切られ、海水に満たされたドックになっていた。そこに浮かぶのは。

「これが我が研究所の切り札、万能潜水艇”のちるうす”だ!」

 漫画なら「ばぁあああん!」とか書き文字が出そうな口調で、ナガトが宣言する。

挿絵(By みてみん)


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