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第七話 ハンターズギルド

入学試験の結果、俺は〈スキル・ワン〉の校舎に所属することになった。

紆余曲折もあったがどうにか事態は終息し、今は同級生になったモニカに学校の説明を受けている。


「まさかあんたも〈スキル・ワン〉だったとはね。今後とも宜しく」


そう言って、モニカはたっぷりの皮肉を含んで、わざとらしく会釈をしてみせた。


本来は年末に行われる昇級試験で階級を上げていくものらしく、モニカも最初は〈スキル・ツー〉から入学したのだという。

ドラゴンに傷を付ければ〈スキル・スリー〉、腕や足を欠損させると〈スキル・ツー〉、気絶させるか殺すかでようやく〈スキル・ワン〉に上がれるのだとか。

入学試験で〈スキル・ワン〉に上がった生徒は、俺を除けば二人しか居ないらしい。


「学校での授業内容は各自自由に選べるのよ。あんたやあたしみたいに〈スキル・ワン〉の人間だけは、授業を選択しなくてもいい――つまり来なくてもいいってこと」


「そうなのか?」


それは素晴らしい。

興味のない授業のために、ノートに落書きをすることもなくなるし、教科書で顔を隠して寝る必要もなくなったわけだ。

異世界に来て初めての吉報だった。


「そうよ。基本的にこの学園へ入学する目的といえば、能力を成長させることにあるってわけね。真面(まとも)に能力を開花させられれば、傭兵業や狩人業で巨万の富を得られることもあるの。そのために、何かを賭けてこの学園に来る人は後を絶たないわ。まぁ分かり易く言うと、元々能力をある程度まで発動させることができる私とあんたには――授業の大部分は必要ないものだってことよ」


モニカは背中で両手を合わせ、地面を見ながら退屈そうに言った。


モニカの話によれば、先ほどヴィスミルの説明にあったとおり、〈スキル・ワン〉の学生は授業の代わりに宣伝活動を行う義務を追うのだという。

学校への貢献度を基準に、特別報奨金が出たり、時には学費全額免除まで通達されることもあるのだとか。

所持金のない俺にとって、この制度は救いそのものだ。これを使わない手はないだろう。

〈スキル・ワン〉の生徒は部屋から食事に至るまで、全てが最高級の仕様になっているらしい。

籍を置いてくれているだけで学園側にメリットがあるため、やはりその扱いも特別視されているというわけだ。


「モニカは普段何をやってるんだ?」


「あたし? う~ん、しいて言うなら学費稼ぎぐらいかな。そういえば、あんた学費はどうするわけ?」


「学費?」


「ここの学費は高いわよ? 年間で金貨百枚ってとこかしら?」


「金貨ってお金のことか?」


「あんた、金貨も見たことないの? まぁ、あの村に暮らしてればそうなるか。ほら――盗らないでよね」


少々失礼極まりないモニカから金貨を受け取ってみたが、驚くことに本物の金でできているようだった。

金が身近に溢れているほど裕福な家庭ではなかったが、両親の金の結婚指輪が丁度これくらいの重さだったはずだ。

子供の頃に両親の気を惹こうと、悪戯で何度か持ち出したことがあったのだ。


「学費の()てがないんなら、私が紹介してあげてもいいわ。私はヴィスミル先生にあんたの管理を任されてるからね」


「はははは…… お願いするよ」


半分気の進まない俺は、モニカに引っ張られる形で、ハンターズギルドへ向かうことになった。

学校の授業などは自分で自由に決められるので、モニカの指示通り、この日は学校を休むことになった――というか半強制的に学校から街へと連れ出された。

モニカに対して拒否する権利は、どうやら今の俺にはないらしい。


◇ ◇ ◇


スルトン王国における享楽の中心地――ヴェーナ歓楽街。

歓楽街の盛り上がりからは忘れ去られた路地、ひっそりと息を潜めるような突き当りの影に、ハンターズギルドの入り口がある。

赤茶色のレンガ壁に備え付けられた、木製の両開き扉。


扉に手をかける直前、モニカが俺の方を振り向いた。


「先に行っておくけど、ギルドの連中には用心することね。別に魔法使いなら珍しくもないけど、〈スキル・ワン〉となれば話は別よ。その力を利用しようと近づいて来る人間が必ず居るはずよ。あたしも昔は散々苦労させられたわ。『パーティに入ってくれるだけでいい』とか、『手軽に儲けられるから』とかね」


なるほど。

つまり甘い言葉に惑わされるなってことか。


「それに、大概悪い奴ってのは――愛想の良い顔を被って舞台に現れるものなの」


俺の気のせいだろうか、そう言うモニカの顔には、どこか影があるように思えた。


「分かった。気を付けるようにするよ」


モニカと並んで中に入ると、酒と煙草の強烈な匂いが鼻をついてきた。

カウンターと十数個の丸テーブルが置かれた屋内は、屈強そうな男や狡猾そうな女で溢れていた。

それまでの学校や町の様子とは異なる、殺伐とした雰囲気に包まれた空間に、俺も自然と気が引き締まっていくのを感じた。


「おぅ、モニカじゃないか。連れが居るなんて珍しいな?」


受付に向かって進んでいく途中、長身の女に声をかけられた。

浅黒い肌に燃えるような赤の短髪、ショートパンツから伸びた美脚は、健康的な色艶があった。

白のタンクトップから時折ちらっと顔を覗かせる胸の谷間に、ついつい目がいっていしまう。


「ボーイフレンドかい?」


「そ、そんなわけないでしょ?」


まぁ別に彼氏でも想い人でもないわけだけど、何もそこまで必死に否定しないでもいいんじゃないかと思う。


「でもどうやら愛しの彼の関心は、あたしの胸に集中しているらしいけどな」


そう言って、女が俺に目配せしてくる。

俺は堪らず目を逸らしたが、同時に顔が熱くなるのを感じた。

突然、足の爪先に激痛が走った。


「いっ――?」


叫びそうになるのをぐっと堪えて足に目をやると、モニカが俺の足を踏んでいるのが見えた。


「……すけべ」


自分の前でだらしなく鼻を伸ばすなということだろうか、モニカの逆鱗に触れてしまったようだ。


「ははっ 悪い悪い、からかっただけだよ。今度一緒にA級依頼にでも付き合ってくれよな?」


「えぇ、もちろん」


モニカは若干顔を引きつらせながらも、やっとの笑顔で答えた。


「じゃあな」


態度もなりも豪快な女は、下品に笑いながら二人のもとを去って行った。

その後もいくつかテーブルを巡り、何人かに声をかけていたところを見るに、おそらくはメンバー集めがてら軽い挨拶に来たというところか。


「今のは……?」


「ベニス・ハキロよ。あぁ見えても、ギルドでは指折りの実力者なの。昔から思っていたけど、実力のある奴に限って、どうにも性格に難がある傾向にあるのよね」


一応「はははは……」とだけ薄笑いを浮かべてみせた。

「モニカも変わってるもんね」などと突っ込んでしまったら、命がいくつあっても足りなくなってしまう。


受付へと歩く途中、あることに気が付いた。

酒盛りをしている数人の男女が、モニカに向かって〈剛健の聖女〉と呼びかけているのだ。


「〈剛健の聖女〉ってモニカのことなのか?」


「まぁね。一応そういうことになってるの」


モニカは困ったような笑みを浮かべた。


その類まれな実力から、ギルドで有名人になっていたらしく、いつの間にか二つ名で呼ばれるようになっていたのだという。

様子を見る限り、モニカ本人も悪い気はしていないように思えた。


「まったく、気恥ずかしいからやめてって言っているのに……」


声援を送るテーブルに手を振りながら、モニカが続けた。


「実はあたしも、生まれはここから遠く離れた村で、あんまり裕福とは言えなくてね。あの学園の異様に高い学費は、どうしても自分でなんとかしなくちゃいけなかったのよ。学園の学費を稼ぐのはここが一番効率が良いしね」


意外な一面を見れた気がした。

俺もこれからは人のことは言えたものじゃないが、モニカもなかなかの苦労人ということなのだろう。

モニカが続ける。


「でも中には、中途半端な魔法が発現しちゃったせいで、学園に通わざるを得ない人も居るの。話を聞くと、その子は昼は学校、夜は日が昇るまでギルドに入り浸っているらしいわ。もちろんそれは、実力不足で高報酬依頼が受けられないからよ。それに比べれば、多少能力に色の付いたあんたもあたしも、まだまだマシよね」


背筋がゾッとした。

もし俺の魔法が〈聴力が三倍になる〉とか〈首がどこまででも伸び続ける〉とかだったら、俺はこの世界で休むことなく働かされていたわけだ。

今はまだ、能力にリスクがあるようには思えないし、ひとまず安心していて良いのだろう。

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