片恋の鬱金香
わかっていました。望みのない恋だと。
好きになるだけ無駄なのだと。
知っていたのです。
私は花で、あなたは人で。
私の体は茎で、私の腕は葉で、私の足は只の動かぬ根で………。
走り去るあなたを見送ることしかできない。
いずれ枯れて、また咲いた時、きっとあなたはもういない。
それでも毎日水をくれました。
毎日笑いかけてくれました。
誰にもわからなくても、私の心はあなたの優しさで育まれたのです。
ほんの瞬き程度の時間。
長い長い一瞬の恋に、私は持てる力の限り花を咲かせ続けました。
それでも、あなたの隣を歩くのは人間の女の子なのです。
流す涙さえ持っていない私を同じ色の太陽が慰めます。
馬鹿な子だと、仕方のない子だと。苦笑いして。
苦しかった。
あなたは私を知らないから。
辛かった。
人間の女の子がそばにいるから。
大勢の中の1本でしかない私。
それでも「可愛いね」と言われて舞い上がる心が切なくて。
気付いて下さい。私はここにいます。
好きです。
好きです。
あなたが好きです。
私は願いました。人間になりたいと。
この葉が手だったら、あなたと繋いでみたいのです。
この茎が体だったら、あなたに抱き着いてみたいのです。
この根が足だったら、あなたを追いかけて行きたいのです。
この花が、私が、人間だったら………。
せめて好きだと、そう、言えるのに。
どうせ叶わぬ恋ならば、恋心ごと消えてしまえばいいと願う。
眠る私の心は消えず、花は心を忘れない。
例えあなたが忘れても。私の心は………。
私はあと何度あなたに会えて、人になりたいと望むのだろうか。
しかし花は花のままで。
いずれ枯落ちまた咲くのでした。