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天才博士シリーズ

天才ハカセと運の悪い泥棒

作者: 杉村 祐介

 私は天才発明家だ。依頼主の話を一つ聞くだけで、期待どおりの機械を作ることができる。今ではあちこちから依頼を受けては機械を作り、それを売るということで生活費を稼いでいる。そんな話をすれば当然、悪い考えを持つ人間が、私の財産を狙ってくるというものだ。


 まったく、先日もとんでもない泥棒がやってきたのだよ。



 泥棒は黒い上着に黒いズボン、さらにサングラスをかけた前進黒づくめの装束で、私の家に近づいてきた。彼は私の家をよく下調べしていたようで、その日は玄関の鍵をいとも簡単に開けてしまったのだ。私はその時ベッドの上でぐっすりと睡眠を取っていたのでそのことに全く気付きもしなかったのだが、泥棒は警戒を解くことなく廊下をすり足で歩んできたのだ。

 さらに泥棒は私の家にある金庫の位置を寸分くるわず把握していて、部屋の戸を音も立てずに開けた。そしてそのまま、黒い金庫のダイヤルを、カチリカチリと静かに回し始める。この時の音に私も気づいたのだが、屋根裏のネズミが柱や梁をかじっている音だと思い「そろそろ建て替えが必要かもしれない」と寝ぼけながら思っていたのであった。


 その時だった。


 ジリリリと突然、大きなベルの音が鳴った。さぞ泥棒の奴は驚いただろうが、私はもっと驚いていた。私は飛び起きて隣にある時計を叩くと、無意識のうちに叫んでいた。


「なぜ3分前に目覚ましが鳴るのだ!!」


 その後すぐに着替えを済ませた私は、軋んだ床を強く踏みしめながら部屋を飛び出す。泥棒は私の行動に頭が真っ白になったことだろう。突然目覚ましの爆音と、私の叫び声。さらにギシギシという足音。先ほどまでの無人だった空気をぶち壊す数々の轟音。当然盗みなどしている場合ではないと思ったはずだ。

 だがそこで泥棒は欲を出してしまった。手元にあった金庫ごと盗もうと、両脇に手をまわして持ち上げたのだ。しかしそれも墓穴を掘る形となり、私が遊び心で作ったおもちゃの兵隊を蹴飛ばし、運悪くスイッチが入ってしまったのだ。


 このおもちゃの兵隊、動くものめがけて毎秒5発の速度で連射する機能を持っている。だいたい5分間撃ち続けると弾切れとなるのだが、それまではだるまさんが転んだのように動いてはいけないという面白い状態になるのだ。そんなことも知らない泥棒は当然驚いて、警報装置かと思いあわてて逃げ出そうと試みた。

 しかしここでも運が悪い泥棒。手を滑らせて、金庫を自分の足に、しかも小指の先端へ落としてしまうのだ。コルクの雨を身に受けながら小指を抑えてのたうちまわる彼は、どんなピエロよりも面白いものだった。


 私はというと、のん気にひげを剃りながら歯を磨き、そして食事の準備をしようとガスをつけようとしていたところだった。このタイミングでまた不運なことにガスがつかなかったものだから、最新の自作バーナーを試験運用してみようとスイッチを入れた。

 そうすると、突然ドーン!と爆発音がなり響き、キッチンにあった皿やフライパンが吹き飛んでしまったのだ。私の髪の毛もチリチリアフロになってしまい――もともと天然パーマなので気にはしないが――キッチンはおろか、廊下の半分がガラスや陶器のかけらで大惨事になってしまった。

 それと時を同じくして泥棒が部屋を抜け出し、廊下から玄関まで猛ダッシュで走り抜けていったのを覚えている。当然爆風をもろに受けて彼もチリチリアフロになり、その髪の毛にガラスのかけらを受けながら、こらえきれずにワンワンと泣き出しそうな顔で部屋を出て行った。



 外へ出た泥棒は、今日最後の不運に見舞われる。



 今日はちょうど町で花見のお祭りがあり、時間になるとライトアップをして皆で騒ぐのが風習になっていた。周りの桜やそれ以外の木にも灯りがともされ、夜だというのに真昼さながらの明るさとなって、華やかな衣装の人だかりであちこちにぎわっていた。その中を黒づくめのアフロ人間が走り抜けるのだ、さぞ町の人たちもおどろいたことだろう。しかし誰も捕まえようなどとは思わなかった。なぜならその表情が、あまりにもかわいそうで、同情にたえない泣き顔だったからだ。


 ……そしてその後ろを、一昔前に町中を騒がせたおもちゃの兵隊が、コルク弾を撃ち続けながら追いかけていたからだ。




 その二日後。私は監視カメラで見たこの日の事を、面白おかしく日記に書いている時だった。




 またあの泥棒がやってきたのだ。




 こんどは手にナイフとライフルを持って、私が起きているのを見計らって家に入ってきた。すぐに私は両手を挙げて降伏を示す。そして泥棒の言うとおり、金庫のダイヤルを私自身で静かに開けた。




 中身はあのおもちゃの兵隊なんだが……。

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