絶滅した尊厳
これは未来のお話。遠い遠い未来かもしれないし、近い将来かもしれない。
数々の医療技術の発展により、不死になることができるようになった世界。ファンタジーやSFにはよくある設定だが、それが現実となるかもしれない。
どうやって不死になるかはわからない。しかし予想は案外簡単にできる。身体はどうやっても朽ちていくものだ。だから、自分のクローンをつくる。そのクローンにオリジナルの脳をすげ替えすげ替え、それを続けていけば、身体だけが若いまま、延々と生き長らえる事ができる。
おそらくクローンにも人格はあるだろう。しかし、とある映画のように、幼い頃から限定した世界を全てだと信じこませたら、何もかも受け入れるかもしれない。そうなったら尊厳もなにもあったもんじゃない。完全な人のコピーである意思あるクローンは人ではなくなるのだ。家畜のように扱われ、人の形をした商品が街に流通する。想像するだけで恐ろしい未来だ。
新しい身体に入れ替えて元気を回復するなんて、アンパンマンみたいなシステムがビジネスとして違和感なく日常に溶け込んだ世界。そこでは恐らく命の価値なんて、ジュース一本にも満たないチンケなものになるだろう。殺したって生き返るんだから。生き返るのにいくらかかるだろうか?クローンの餌代や飼育にかかる費用は?子ども一人を育てるのにかかる費用よりちょっと安いくらいだろうか?これではジュース一本なんて言い過ぎかもしれないが、考えて見てほしい。現代の地球の人口は?70億もいる。今もまだまだ増え続けている。クローンビジネスが認められる時代まであと百年あるとする。その百年後の未来には人口はどれくらいに増えているだろうか?100億?200億?それともどっかで戦争が起きて50億くらいまで減るか?いずれにせよ、人一人が生きていけるスペースは狭い。戦争による土壌汚染。人口の肥大化による食糧難。きっとまともな食糧は、一部の大金持ちしか買えなくなるだろう。それでも生きていこうとする者のためのクローンビジネス。
さて、この世界に命の尊厳は存在するか?
こんな世界で不死になりたいだろうか。いや、食糧を買うより身体を入れ替える方が安いならそうするか。しかしそれでもある程度の財力がないとダメだな。つまり貧困層は汚水を飲んで腐った食べ物をたべて病気になってバタバタバタ。そうしていけば人口が減るか。そうだ、クローンを大量に作って肉を安く売ればいいんだ!貧困層向けに!だとしたら共食いの未来だな。イースター島の最後みたいだ。