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間章:日常BEHIND1

風見学園、新校舎4階、生徒会室

『失礼します』

澄んだその声と共に銀縁眼鏡で美しい黒髪の女生徒が生徒会室に入ってくる。

彼女はいつも通り毎日の活動を記している議事録を戸棚から引き抜き、所定の机に座る。

その間、俺とは一度も目を合わせない。いつものことだ。

艶やかなな黒髪に色白の肌、淡い桃色の唇に眼光は鋭く、その立ち振る舞いは『凛』という以外は言い表せない。

とまあ、ここまで我が生徒会書記の水野ちゃんについて細かく描写させてもらったが、そろそろ沈黙が厳しい頃合いだ。

俺は生徒会長と書かれた札が置いてある大きめの机から立ち上がり、自宅から持ってきたコーヒーメーカーで二人分のコーヒーを入れる。

数分の間のあと、俺は議事録を記す水野ちゃんの机の横にコーヒーを置くのを切り口に、口を開く。

『やぁ、水野ちゃん。原稿の方は仕上がった?』

『はい、仕上げて置きました。それとコーヒー有難うございます。』

議事録から顔を上げずに、冷めた声で淡々と謝辞を述べる彼女。

『流石は水野ちゃんだね』

俺は軽く微笑み、賞賛の言葉を送る。

『別に、仕事ですから』

俺のそんな言葉と笑みにも全く表情を変えない。…世の中には普段から俺を取り巻く軽い娘ばかりじゃないんだなあと彼女を見てるとつくづく思わされる。

『おやおや、随分素っ気ないね』

『いつも通りです』

苦笑交じりの俺の言葉にも反応なし。

『そうかな』

『そうです』

彼女の近寄り難たさは出会った1年前から変わらない。

『ま、そこが水野ちゃんの魅力でもあるけどね…』

そんな風に俺が独り言を呟いていると水野ちゃんの方から話し掛けてきた

『ところで…』

『ん?』

…今の独り言、聞かれたかな?

『理事長のお話はどうでしたか?』

良かった聞かれてない…

俺は内心の焦りを隠しつつ

『ん~、いつも通り無駄な話だったよ』

『今度はどうやら僕を広告塔にしたいらしい』

『生徒会長は楽じゃないね』

とだけ答えた。

『…そうですか』

『…もうひとつお聞きしても?』

『いいよ、答えられる範囲ならね』

水野ちゃんの性格は分かってるつもりだ、こっちの『もう一つ』の質問の方がおそらく本題のはず。

『…今日、会長が接触した八次 彰ですが『どう』しますか』

ほら来た。

『アハハ、随分物騒だね、水野ちゃんらしくない…いや、むしろ、らしいのかな?』

『彼はまだ『どちら』側でもない…これは僕の推測、というよりは勘なんだけどね』

水野ちゃんの反応を観察しながら、俺は自論を展開していく。

『勘、ですか?』

『そう、能力に目覚めたことは間違いないだろうけど、使い方も代価も分かっていないみたいだし』

『何よりも『あちら』と接触していない』

『だから、引き続き監視はしておいてね』

あちら側との接触も時間の問題だろうけど、何しろ彼の傍には篠原 七瀬もいるしね。

『…分かりました』

『あの、会長…』

『なんだい?』

『…もし、八代昇が『あちら』側についたら『どう』するおつもりですか?』

数秒の間。開け放たれた窓からは春の心地良い風が流れ込み、ただ沈黙だけが部屋を支配している。

『…随分と心配性だね、今日の水野ちゃんは、それこそ水野ちゃんらしくない』

『いつも通りですが』

俺はその言葉に先程水野ちゃんに向けた笑顔とはまた別の笑顔を浮かべ

『簡単なことさ、彼がもし『あちら』側につき、僕たちの計画を邪魔する存在になりうるのなら…』

『例外なく今まで通り『消えて』もらえばいいさ』

と言い放った。

『…それとも、『キミ』にとってそれは『マズイ』のかな?』

水野ちゃんの表情を読むことは諦めた、けど、少しの違和感くらいなら感じ取れ…なかった。流石の一言。

『……会長の考えに異議などありません』

『すみません、今日は用事があるので失礼します』

『ん、分かった。帰り道は気を付けてね』

『…ありがとうござます』

俯き加減で部屋を出ようとした水野ちゃんはドアノブに手を掛け出て行こうとしたがそこで動きが止まる。

『どうかし…』

俺の疑問の声を遮るように水野ちゃんは此方に向けて最高の笑顔と共に最大級の一撃を放つ。

『会長の独り言は結構、聞こえますよ』

…扉が閉まっていく音がどこか遠くに聞こえる。

『あ~恥ずかし、恥ずかし過ぎて死ぬ』

性懲りもなく独り言を呟く俺。

それにしても…

『水野ちゃんはやっぱり油断ならないね』

『うっかりしてると足元掬われそうだ』

『でも、嘘が下手なのも水野ちゃんの魅力だね』

『『異議なし』だって? 上手く誤魔化したつもりみたいだけど、動揺してるのがバレバレだよ、水野ちゃん』

俺は一人、静かに笑い…暗くなり始めた空を睨み付けた。

『でも、保険はかけとかなきゃね』

そう呟き、俺は学生鞄から携帯を取出し、ある番号を呼び出した。

いくつかのコール音の後、相手が電話に出た音がする。

俺は携帯を口元に近付け、こう切り出した

『話がある、いいかな情報屋、仲嶺クン?』

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