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スタートラインに立ってみれば…

会長と別れ、ひとり物思いに耽りつつ午後の授業を受け、ホームルームを終えた俺が帰宅しようとしていると

『よー、久しぶりだなーショウ』

突然背後から声をかけられた。俺の名前をアキラではなくショウと呼ぶ人間に唯一心当たりのある俺は振り返ってみると懐かしい奴がそこにはいた。

『!?っ おー!! 仲嶺か!!』

仲嶺数馬。中学からの友人の一人で性格に問題があって不登校気味な点以外はとても良い奴だ。

『普通』を何より好む俺の交友関係の中で篠原と肩を並べられる異色キャラ

『そんなでかい声出すなよー』

オーバーリアクション気味に耳を塞ぎつつ、間延びした独特な声と喋り方で笑みを俺の言葉に笑みを返す仲嶺。

『脅かしやがって、4ヶ月ぶりだな』

『4か月と半月ぶりだね~』

…コイツ、普段から何してるか全然分からないからな。とにかく素性が不明な奴なんだよ。

つーか…

『俺の名前はショウじゃなくてアキラだって』

『ん~そうだっけか』

『お前なあ…』

中学で初対面で名前を間違えられて以来『アキラ』で呼ばれた記憶がない。

『んで? 何しに来たんだ?』

『お前に会いに来たんだよ~』

『俺に?』

…何故だろう、相手が仲嶺だからか全然嬉しくない。それはコイツの『趣味』が影響してるからなんだけど…う~ん。

『何か様子がオカシイって聞いたからさ~』

『もう知ってるのか、流石だな』

実はコイツ、街一番の『情報ツウ』として知られてる。

ぶっちゃけもう『情報ツウ』の域を越えてスパイか工作員かなんかなんじゃないかと思う。

仲嶺数馬の『趣味』それは『情報収集』。どんなに些細なことから組織レベルでの極秘でもなんでもとにかく情報を集めることが好き。

その得た情報を武器に人に取り入り、利用しあい、時に媚びを売り、おだて、勇気付け、裏切り、ありとあらゆる手を使い更なる情報を仕入れる。

コイツに聞けば、街ですれ違った主婦の昨日の晩ご飯からメアドまで2日あれば分かっちまう……まぁ、そんなの聞いてしょうがないし、なかなかコイツは教えてくれない。

『今回はさ~個人的にお前が心配になってねえ』

おや珍しい、コイツが他人を心配する所なんて見たことがない。

とりあえず、俺は自分のことを様子がおかしいと評した人物について仲嶺に聞いてみる。…まあ、大方見当はついてるけども。

『ええと『情報源』は聞いてもいいか?』

『ん~。…顧客の情報は教えない主義だけど、まぁ、いいか』

いいのかよっ! …本当に適当な奴だなあ。

呆れる俺を尻目に仲嶺はあたりを憚るような小声で俺に耳打ち

『篠原だよ』

『あーやっぱりか…』

『そう、今はいないみたいだなー』

『そういえば居ないな…』

ま、居たら居たらで仲嶺は一目散に逃げ出してるだろうけど。

『で? 篠原はなんだって?』

『『ショウの様子がおかしいから、話しを聞いてくれ』だってさ』

『ショウじゃなくてアキラな…』

『どっちも一緒だろー』

『一緒じゃねえだろ!?』

『とにかく、何かあったのかー?』

『聞いた話しじゃ、動物と話せるようになったとか…』

そう言う仲嶺の瞳は俺に対する心配など一欠けらも映っておらず、あるのはただ新たな情報を仕入れられる喜びだけだった。

…案外、こいつは良い奴じゃないかもしれないと思い始めてきた。

『信じないと思うけど、俺が動物と喋れるようになったって言ったら、どうする?』

俺の問いかけに仲嶺はしばらく考えた末に

『…とりあえず、オススメの精神科に連れてくよ』

…何か泣けてきた、分かってたけども。

『…普通は、そうだよな』

『まぁ、普通の定義なんて人それぞれだからなー』

『何急に難しいこと言ってんだよ』

俺が肩落とし、帰り支度を再度始めようとすると、仲嶺が独り言のように、しかし、明らかに此方を意識して呟く。

『その類の話なら解決できるツテがあるんだけどなー』

ふむ…こいつの紹介って時点で胡散臭い。そもそも俺のこんな状況をどうこう出来る人間がいるとは思えないのだが。

『…オカルト研究部とか絶対いかないからな』

俺がそれだけ言うと、仲嶺はニンマリと笑ってから掌を俺に向けて

『…5000円』

『は?』

『5000円くれたら教えてやるよー』

『金取んのかよ!?』

…ますます胡散臭くなってきた、そもそもこいつ確か裕福な家庭のはずだから金に困ってないはずだが…

『当たり前だろー、これでもお友達価格だぞー』

何が『お友達価格』だ。

俺はは皮肉を混ぜて答えてやる

『友達困ってて助けるのに金を取るお前のこと…結構好きだぜ』

すると仲嶺は顔色を変えずに

『ショウはホモだなー』

と言い放った。

『…マジでそういうの勘弁してくれ』

『自分で言ったんだろー』

相変わらずニンマリとした笑みを張り付けたまま、こちらに情報と引き換えに金を要求してくる仲嶺。

『で、聞く? 聞かない? どっち?』

『聞く』

『人にモノ頼む態度かよー』

…コイツ、あとで一発殴る。

『…どうかお教え下さい』

『5000円前払いなー』

俺は黙って懐から財布を出すと5000円札を仲嶺に渡す。うう…俺の月の小遣いが…貯金下さなきゃ…

『毎度ありー』

仲嶺は満足そうに5000円札を制服の胸ポケットに無造作に捻じり込み、一息ついてから俺を手招き。…おい、そんなにお金を無造作にするなよ…泣くだろ、俺が。

『で、早速だけど、旧校舎の先輩の話し、知ってる?』

俺の耳元で極力小さな声で語る仲嶺

『なんだ? その怪談地味た話は』

『やっぱショウは知らないよねー、ショウなら知らなくても当たり前かもー』

『…お前さっきから微妙に失礼だな』

『態度悪いなー。教えないぞー』

キャメルクラッチの刑、決定。

『…悪かった、続けてくれ』

『旧校舎には廃部になった天文部があるんだってさー』

『そんで、その部室にいる美人な女先輩にこの手の話をすると…』

『…すると?』

『解決してくれんだってさー』

『……………………』

沈黙する俺。

『なぁ、仲嶺?』

『ん~?』

俺は大きく息を吸い込み

『信憑性のかけらもねえじゃねえかあああああ!!!』

叫んだ。仲嶺の耳元で。

『あーうー…目が廻る~キンキンするよお~』

目を回しかけてる仲嶺の胸倉を掴んでありったけのボリュームで俺は権利を主張する。

『金返せ!!』

クーリングオフを要求する!!

教室に残っていたクラスメイトの何人かが何事かとこちらを見ているが、気にしている余裕はない。何せ俺の一月分の小遣いがかかってるんだもの。

金のために必死な俺を仲嶺はひとしきり眺めたあとに、事もなげに制服の襟を正してから俺を指さしてから言う。

『自分の目で確かめてから言えよー』

『うっ…』

返す言葉もない…しかも、仲嶺はこう見えて情報に関しては嘘をつかない。

更に仲嶺は続けて

『それでダメなら金返すからさー』

『とりあえず、会ってみろよー』

と言ってきた。

『…お前のことは信じてるけど、旧校舎なんて不気味だし、立入禁止だろ』

…うむ、実はビビってるてのは今は黙っとこう。

『行かないのかー?』

『あくまで『普通』がオレの立場だからな』

仲嶺の問いに俺がいつもの調子で返すと、仲嶺は若干声にトゲを含めて

『一回壊れた『普通』をいつまで追いかけるつもりだよ』

『人間、適応力を高めないと生きてけないぞ』

なんて俺の心を的確に刺し貫いた。

『は、俺は別に『普通』が好きなだけだって…生きるとかそんな大層な問題じゃねえよ』

俺はそんな負け惜しみみたいな言葉を返したけど内心は動揺してた。

『じゃあな~』

視線を合わさず足早にその場を立ち去る俺に仲嶺は暢気に手を降ってきた。

廊下に出て、大きく息を吐く。

『…そんなこと言われなくても分かってるよ』

いつまでも『普通』ではいられない。分かってるけど…やっぱりしがみつきたいじゃないか。


---数十分後、オレは旧校舎の入り口にいた。

ホント、何やってんだろうな俺…


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