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幼馴染の繋がり

波乱の幕開けとなった新学期初日の昼休み、俺は普段通り学生食堂に行って昼食をとろうとしていた。

一方、篠原はクラスの中、一人で昼食をとろうとしていた。…まあ、一人ってのは俺と変わらないんだが。

…第一印象が机粉砕じゃあしょうがよね。

案の定、篠原の周りには人が近寄ろうとせず、女子特有のグループは篠原のことを仲間外れにするわけではないが、遠巻きに囁いていた。内容はご想像にお任せ。

別に篠原のことが心配とかそういうんじゃないが、一人で食べるのは寂しいし…俺は珍しくも自分から篠原を誘った。

『おい、飯食いに行くぞ』

『別にいい』

取りつく島もない。

『とにかく、ついて来い』

『…ヤダ』

…少し強気に出てみたが効果なし。そもそも、コイツに『強気』とやらが通用する人間がいたら是非お目にかかりたいものだ。

『押して駄目なら引いてみろ』ってことでちょっと下手に出てみる。

『ついてきて下さいシノハラサマー』

『しつこいッ!』

ガッ!!

次の瞬間俺は繰り出された強烈な正拳突きを腕でガード

しかし、そのまま勢いに負け後ろに吹っ飛ばされて後頭部を机に強打した。

『…ッ~ 超イテェ』

オレが頭を擦ってると

『…ゴ、ゴメン……大丈夫?』

自分でやっときながら動揺しまくりの篠原が視界に現れた。

『ったく、ちょっとは加減しろよなこの馬鹿力』

『…ゴメン』

…何泣きそうな顔してんだこいつは?

すると

『ねえ見て…また暴力ふるってる』

『なんだよアイツ』

そんな声がクラスのあちこちから上がり始めた

『ッ!………』

勿論聞こえないはずもなく篠原は何も言わずに唇を強く噛みながらうつむき、席につこうする。

けど、俺はそれを手で制し、普段の俺なら絶対にしないことをした。

『時間ないから…ほら、行くぞ』

あろうことか、俺は篠原の手をとり教室から出ていったのだ。

…うん、何で俺こいつの手なんて握っちまったんだろう。

滅多にみない篠原の弱気な態度が気に入らなかったからなんだろうけど…

…周りの視線が妙に痛え。


『…でだ』

食堂に着いたは俺はまずこう切り出した。

『お前がどうしようもない馬鹿なのは俺が一番よ~く分かってる』

『…………………』

篠原は俯いたままだ。

俺は溜息を一つ漏らし、あえて視線を合わせずに独り言のように言葉を続ける。

『でもな、お前のことを何も知らずに馬鹿にしたり、お前の気持ちを踏みにじる奴を俺は許せない』

篠原は結局殴らなかったけど、本当は俺が殴りたかったんだぜ?

『だから、あんな奴らの言うことなんて気にすんな』

『時間が経てばみんなと仲良くやれるようになるだろっ』

『……………………』

篠原はまだ俯いたままだ。

アレ? 俺なんかミスったかな?

ここは篠原の気持ちをし考えて、あえて触れないのがベストだったか?

俺は先ほどのニヒルを気取った風な雰囲気をかなぐり捨てて慌てフォローにまわる。

『悪い! お前の気持ちを考えりゃよかった、あ~その、なんだ…悪かった、謝る』

俺がそう言いながら頭を下げると、そこでようやく篠原は顔を上げたが、目を丸くして

『…何で昇が謝ってんのよ』

と呟いたあとに続けて

『昇が心配してくれたのに私殴ったんだよ?』

そう、目を逸らしながら暗い声で言った。

『誰だってイライラすることあるだろ、気にすんなよ』

…そもそも、『殴った』ことを気にするなら普段のド突きは無視でいいのか?

と、思ってる矢先に篠原が自嘲気味に言い放つ。

『でも…昇が私のこと心配する必要無いじゃん』

『…普通でいたいんだったら私と関わらない方が良いって分かってるでしょ?』

ブチッ!!

その言葉に俺は完全に頭に来た。

今の若者はすぐキレるというが、これはキレてるんじゃない、怒りだ、ただ純粋にこいつに対して怒りが湧いた。

『はぁ!? んだと?もういっぺん言ってみろよ!!』

『『関わらない方が良い』だと!?散々迷惑かけてきたヤツのセリフかそれ!?』

俺は椅子から半ば立ち上がり気味に篠原に食って掛かる。

『ちょ!? 何急にキレてんの!?』

戸惑う篠原。…レアな表情だが、その篠原の『戸惑い』も俺にとっては怒りを増長させるための起爆剤でしかなかった。

動揺している篠原に面と向かって言ってやる。

『つーかよ!! 幼なじみが嫌な目にあってるのに何もしないのが普通だとはオレは絶対思わない!!』

『伊達に幼なじみ12年やってるわけじゃないって言ったのお前だろ!?』

そうだ、俺はこいつの、馬鹿で、短気で、素直で、誰よりも他人のために行動できる優しさを持つ、篠原 七瀬という一人の人間の幼馴染だ。

今朝、そう確認したばかりだろ? それも、確認させたのはお前だぜ?

俺が周りの連中が引くくらいの勢いで捲し立てると篠原は

『……アハッ アハハハハハ!!』

と堪えきれなくなったかのように爆笑し始めた。

『…なんだよ? …おかしなこと言ったかオレ?』

…返答次第じゃタダじゃすまさん、説教地獄の幕開けだ。

『アハハハ、ハア~ヤバイ笑いすぎて腹筋痛たい』

『人が真面目に心配してんだけど…』

…『タダじゃすまさん』なんて言ったけど、ここまで笑われると不安になってくる。そもそも俺の言葉に論理的な所など何処もなく、ただひたすら自分の感情に任せて喋っただけだ。

『いや~なんていうかさ~、昇はそういうとこおもしろいよね』

『???』

俺が混乱していると篠原は続けて

『昇ってさ普段から『普通が一番』とかクール気取ってるけどさ…結構熱いトコあるよね』

『さっきも全力で私に語ってたし』

『………うっ』

返す言葉も無かった。

冷静になってみるとかなり恥ずかしいテンションだったと思う。

こういうのって一時的なもんで、あとから後悔すんだよな…

『い、いや、あれはだな…』

俺のしどろもどろの言い訳も虚しく篠原は少し照れたような表情を浮かべ

『いいって言い訳しなくて』

『私のこと心配してくれたんだもんね』

と言った。その眼は何処か嬉しさと、寂しさと、懐かしさを含んでいた…と思う、。そもそも俺はそんな抒情的な人間じゃないから心理描写なんて出来ない。

けど、間違いなく、幼馴染に通じる何かをこの瞬間、俺は篠原との間に感じた。

『いや、別に俺は『ありがとう』』

俺の言葉を遮るように、俺の眼を真っ直ぐと見つめて感謝を述べる篠原。

『…ッ』

思わず目を逸らしてしまうチキンな俺は、それに気づかれまいと急いで話題をすり替える。

『ところでなんであんなに怒ってたんだ?』

『私からも質問! なんでいま目を逸らしたの?』

クソっ何で気づいたんだこの女。

『…逸らしてなんかねえけど』

『あ~分かった。昇は照れてるのか、そーかそーか』

『テレテナンカナイデスヨ』

ヤバイ声が裏返った。

『ふーんじゃあそういう事にしとこう』

ニヤニヤしやがってこの女…俺の心配はこいつにとっては俺をからかうためのネタなのかよ。

『で? お前は何でキレたわけ?』

俺はその意趣返しとばかりに先ほどの一件について尋ねる。

何度も言うが、こいつは短気だが、自分のことで怒ることなんて見たことない。だからこそ、俺はとても気になったのかもしれない。

『ん~とさ…真面目に聞いてくれる?』

『ああ』

『私ってさ友達居ないわけじゃないんだよね』

『そりゃそうだな』

前にも話したようにコイツは男女問わず人気がある。

理由はかわいいとか性格がいいとか根は悪い奴じゃないとかだ。

だからさっきみたいな奴らは、どっちかと言うと少数派だ。

だからこそ、俺はそんな奴らの言うことを気にする篠原を不思議に思った。

『でも、本当の友達っていないんだ…』

『???』

『ん~なんていうかさ。私の周りにいる友達ってさ、よそよそしいんだよね』

『よそよそしい?』

『みんなとお喋りするのは楽しいよ、楽しいけど…やっぱりみんな私が怖いみたい』

俺が黙ってると篠原は続けて

『だからいつの間にかみんな私の周りから居なくなっちゃうんだ』

と言った。

『…それがキレた理由とどう繋がるんだ?』

オレがそう尋ねると、篠原は諦めにも似た表情で笑いながら言った。

『私さ…クラス替えを機にいい子になろうかな~って』

『でも、やっぱりダメだったみたい。 昔の自分はいつまでも付いてくるんだね』

『……………』

コイツが悪い人間だったわけじゃない。

ただ力が強くて、友達の頼みが断れなくて、優し過ぎただけだった。

でも、ただそれだけのことで篠原がこんなに悩んでるなんて考えもしなかった…

『なんつーか、ゴメン…』

『だからなんで昇が謝るの?』

『なぁ篠原?』

『うん?』

『余計なことかも知れないけど一つだけ言わせくれ』

そう、余計なことだけれど、俺には一言だけどうしても言わなくてはならなかった。

『それ、さっきまで熱弁してた奴のセリフ?』

『うるせえさっきのテンションはほっとけ』

篠原の茶々入れを華麗にスルーし、

『お前さ…もう少し人を信じて頼ってみろよ』

『お前が友達のこと信じなかったら友達もお前のこと信じられないぞ』

一瞬の沈黙のあと

『もし…それでもダメだったら?』

篠原が真剣な目で問いかけてくる。

『もしダメだったら…』

『もしダメだったら?』

『そん時はオレに頼れよ。オレが出来る範囲ならなんでもしてやる』

数秒の間。その次に聞こえてきたのは篠原の長い溜息だった。

『ハア~? 何カッコつてけんの?』

『ちょっ!! カッコつけてなんかねえって!!』

『つけてんじゃん』

『つけてない』

『つけてる』

『つけてない』

『認めろよ、じゃないと殴る』

『ッ!? マジですんませんした!!、自分カッコつけてましたあ!!!』

必死で謝るオレ…我ながら情けないと思う

ここまではいつものやり取りだ。

『分かればよろしい』

篠原はご満悦だ。

『とにかくこれからはオレが出来る範囲で助けてやる』

『ハイハイ、それよりさちょっといい?』

篠原は俺の言葉に笑顔で軽く頷きつつも俺に一言

『早く昼ご飯食べなきゃ』

『…あ』

気づけば休み時間はあと20分だった


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