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始まりの、始まり

----ピピピッピピピッ


義務的な目覚まし時計の音で俺は目を覚ます。寝起きは良い方だと自負しているが、起きるのには最大限の抵抗があった。


何故なら窓から朝日が差し込まない、否、嘘だ、まだ外が仄暗い。


現在の時刻を改めて確認…AM5時…おかしい、どう考えてもおかしい。


ちなみに俺の通う高校までは徒歩で20分ほど、登校リミットはAM8;30なのだが…それを鑑みてもおかしい。


とは言ったものの俺は粛々と寝間着からジャージに着替え、軽くストレッチをする。


それは何も俺が自主練大好きな部活っ子とかではない、そして、その理由こそが俺が先ほどから『おかしい』と連呼する原因だ。


俺は自室を出て、まだ眠っているであろう家族を起こさないように忍び足で降り、リビングに出る。


TVをつければ、いつものお天気お姉さんが最高の笑顔で俺の今日の運勢を読み上げてくれていた。


『---射手座のあなた、ごめんなさい今日の運勢は最悪です、外出を控えましょう!! ではお元気で~』


…ふむ、その射手座のあなたは今から外出するんだが、そして運勢最悪の奴にお元気ではないだろ、嫌味か?


そんな風に当てどない今の怒りをTVの向こうのお天気お姉さんにぶつける。八つ当たりもいいところだが仕方ない。だって…


『どうして、俺が、馬鹿犬の、散歩なんぞ、行かなきゃならねえんだよおおぉぉぉ!!』


うん、実は別に大声だしてないよ? 心の声というやつだ、漫画的にはモノローグだ。


現在、俺がなぜこんなにも早く起床しているかというと、それはつまりうちの馬鹿犬こと「鬼太郎」(命名:父)の散歩に行かなきゃならないからだ。


正直に言えば、俺はこの散歩、嫌いではない。朝早く起きれて、三文の得なんて0.1円くらいの価値を見出してるわけでもないが、まあ健康に良いし、遅刻することは絶対にないから…うん、まあ得なんだろう。


ただ一言言わせてもらえば、この「早朝散歩」という人によっては拷問レベルの行動は本来我が妹の役割…だったはずだ。


過去形だよ? これ重要。


この「鬼太郎」を飼う時、うちの親は反対に反対した。ちなみにコイツを飼いたいと言い出したのは妹だ。


そのため妹は『絶対にペットの面倒は全て自分が看る』と幼い(小学校低学年)が故の無茶な条件を出した。


その妹の強情さと俺よりも遥かに可愛い妹の頼みであったために、その条件付きで両親は折れた。


結局、家にコイツが来てからというもの、家族全員がこいつを好きになり、妹が面倒みなくてもなんだかんだ言って可愛がってる。親父なんて名前つけちゃうし…ネーミングセンスについては特に何も言うまいが。


が、現在の妹は無事に中学3年生に成長した。


お察しの通り、THE・反抗期だ。俺なんて毎日いないものとして扱われてるか、パシリ同然の立場だ。


もう、お分かりかと思う。この「早朝散歩」は本来妹の役割のはずなのだ。


幼いころの無茶な条件を今更とやかく言うほど、この偉大なる兄上は狭量な人間ではない。


けど、けどさ…せめて『ありがとうお兄ちゃん』くらいは言って欲しいよね。


いや、お兄ちゃんじゃなくてもいいから礼の一言くらいあってもいいものだと思う。


今の世の中、思いやりと助け合いが必要なんだってば。


まあ、そんなことを言っても意味のないことだ、丸っきり意味がない。


だって妹絶賛寝てるし、説教したいときに妹はなしだし。ちなみに両親は完全に放置。


『だから、俺が行くしかないよな…』


そう呟き俺はもう一度大きく伸びをすると玄関の扉を開ける。


さっきの占いなんてもう忘れてるし、ここまでのダラダラとした前置きも、所詮前置きでしかないことも分かってる。


玄関を開けてすぐ右わきに犬小屋がある。


『おい、鬼太郎行くぞ』


その言葉に反応したのか鬼太郎がのっそりと起き上がる。


この家にやって来た時はまだ子犬だったコイツも今や立派なご老体である。


ちなみにコイツは凄い性格が悪い、飼い主の性格の悪さが反映しているのだろう…俺じゃないよ?


そう言う間にもこの馬鹿犬は一向に犬小屋から出る気はさらさら無いらしい。


おい、さっき俺の声に反応して起き上がったのはフェイントか? それとも俺をおちょくってんのか?


全くもって妹そっくりなアホ馬鹿だなハッハッハッ


…うん、これ以上は俺の人間的好感度が地に落ちそうだ、やめておこう。


俺はもう一度リードを握りしめ、、少し強めに引っ張る。


『ほら、行くぞ馬鹿! じゃないと飯抜きだぞっ』


どっかの奴隷商人のようだが、容赦はしない、だってコイツ性か…


『ふん、誰が馬鹿じゃっ!! 貴様の方が一億万倍も阿呆じゃ小童が!』


『ああ!? なんだと!? 俺を誰だと思ってる、お前の飼い主…って、ん?』


…え? あれあれ? 俺いま誰と…


『な~にが飼い主じゃっ、アホ面晒しおって!』


い、犬が喋った!?


『い、犬が喋った!?』


凄い、何が凄いって心の中の言葉がそのまま出たよ。


ええと…なにこれ? 朝起きて、外でたら、犬が喋った。分かりやすい状況説明だが、何かが足りない。


そうだ、WHY?「なぜ」だ。理由が足りない。


そして、俺がこうして数年ぶりに脳みそフル稼働で考えている間にも馬鹿犬は俺の脚にまとわりつき、騒ぎ立てる。


『…たっく、人の話を聞かんか戯けが、これだから最近の…』


『よし、お前ちょっと黙れ』


…我ながら犬と話しているなんて『普通』人代表として馬鹿げていると思うが、喋る犬を黙らせるためにはやはりこちらから喋るしかないのだ。


そして、これから俺はどんなに言葉を尽くそうとも解決できない問題にぶつかっていくことになった。


長く長くなったここまでの前置き、犬が喋り出すという複雑怪奇この上ない前置きの末に始まるのは、俺と【先輩】の青春の物語だ。


こんなろくでもない前置きだ、やっぱりその青春もろくでもなかった。


けど、俺はこの全てが始まったこの瞬間を、生涯決して忘れないだろう。


なんて、こんな風に言ったら【先輩】は笑うだろう。


では、本当に、物語の始まりだ。



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