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「おい、おっちゃん、おっちゃんてば」
年の頃10歳ぐらいで特徴の無い少年が自分の腰の位置にあるおっさんのまん丸お腹をダルンダルン叩く。その内、肉が揺れるのがちょっと楽しかったのかダルンダルン叩き続ける。後に隠れるようにしていた2、3歳年下の少年も混ざってリズムに乗って叩き続ける。年相応に甲高い声で笑う。年下の少年がある事に気付き、移動する。今度は男の股を指差し、笑い転げまわる。年上の少年は器官に唾液が入ったらしくむせているが、それでも笑いの発作は止まらない。
その明るい声に合わせたかの様に朝日が覗く。
広場の中心にある御神体の岩が朝露を照り返す。
少年の声以外、鳥のさえずり、羽虫や木々の葉の擦れる音さえ一切なかった。
まるで男が目覚めるのを待つかのように。
男の顔に昇った朝日に日の光が当たる。
「うう~ん」男は眩しいのか太陽に背向ける。
少年達が盛んに「起きろ起きろ」と騒ぎ始める。
男は起きなかった。
不貞腐れた少年二人も夜通し起きていたせいで眠くなった。
男の側の地べたに寝転がりそのまま睡魔に任せて眠りに落ちた。
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「知らないt・・・誰だぁーーーーーーー」
星がいっぱいの空に、目覚めた男の第一声が虚しく通る。
男の目の前には、警戒を露わに中腰にしてこちらを睨む2対の目。
少年の風貌をしながらも、その目は老境並に鋭く険しい。
「・・・俺達二人は気付いたらここにいた。神隠しかなんかだと思う。そしたらおっちゃんが寝てた。おっちゃんこそ誰だよ。素っ裸だし、なんか体少し火傷してるし、広場はなんかボロボロだし、ちっちゃいちんちん丸出しのおっちゃん以外誰もいないし、ずっと起きないし、それにここどこだよ」
湯水の如く喋り出した少年を尻目に、男が辺りを見回す。
見晴らしが良い。
そこで漸く、気絶する前の事を思い出した。
男が死んだこと。地獄で閻魔大王と取引したこと。異世界に転生したこと。男が使用していたネットゲームのキャラクターで転生したこと。馬車救出イベントが終わっていたこと。妖魔に襲われたので撃退しようとしたこと。
目に入った惨状。御神体周り以外、草木一本残っていない。
辺りは焦土と化していた。
「俺は独りだ」ポツっと呟くと、喚いていた少年が口を閉じる。
男を見る目がなんとなく和らぐ。
「最初に現れるヒロインはどこにもいない。お助けキャラは死んだ。そして――んっ」
男がハッとして少年二人を交互に見る。何度も何度も交互に見る。
無駄に身体スペックが高いせいで、顔が二つある様に見える程、速く首を振る。
少年達が焦った表情で「くそっ妖魔だったのか」と戦闘体制をとる。
男は聞いていない。
だってテンションがマックスだから。
思わず笑みがこぼれ、少年達には般若の様に感じとられた。
「良かった。天はまだ俺を見捨ててはいなかった。神サンキュゥ、感謝するぜ」
すると広場の中心の岩が光始める。
防御結界が作動し、焦土化した台地を優しく包んだ。
少年達が苦しみだし、頭を押さえながら膝を付く。額に薄ら角が見える。
男は気付かない。
だってテンションが上がって「イィヤッホゥーーー」とか声まで上げているから。
「んっ、何だって。ワシが誰だって。おぅおぅ馬鹿言っちゃいけない。ワシは天が赴くままに旅するただの風来坊よ。それでも聞きたいか。そうか聞きたいか。そんなに俺と知り合いになりたいか。親切な坊主達だ。仕方ねぇな。ワシの名前は『ゴぇもん』だ。古今東西、面白ければなんでもござれな猿人族の忍者よ」
豪快にアメリカンナイズに笑う。
大げさに身振り手振りを交え、ノリに乗って口調がおかしい。
髷から抜いたキセルを鬼火で燻らせ、満悦気に鼻から煙を出す。
少年達は聞いていない。
「ここがどこだって。そんなのワシャ知らん。どこだっていいじゃねぇか、兄弟。俺達がここで巡り会った縁に神様に感謝しようじゃねーか」
御神体の光がさらに強くなり、少年達が気を失った。
「坊主達だって何者なんだい。・・・だんまりか。まぁ、ワシゃ、気にしねーぜ。実は大名の息子だとか、大商人の息子だとか、桃太郎の子孫だとか言われてもな。第一、その方が盛り上がるってもんよ。大船乗った積もりでって、――寝ちまったか」
頭に手を当て「これだから子供は」と首を振る。
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ゴぇもんのテンションがおかしくなってから一週間過ぎた頃、自分ハーレム列伝の夢想がバッドエンドで終わったことでテンションが落ちて冷静になった頭に「あれそろそろ目が覚めないと変じゃね」ってな事で、漸く少年達の異常に気付いた。
だが、ネットゲームのLV500カンストプレイヤーキャラクター『ゴぇもん』に不安はない。彼の職業は忍者である。ゲームでのその特徴は高い俊敏性と技術の幅の広さだ。『戦闘術』『隠密術』『忍術具作成』『罠作成』『薬学』『遊学』。その殆どの専門職奥義級の技術やレシピを取得出来ないため一流とはなれないが、二流にはなれる。戦闘面でも生活面でも応用性が高い忍者は、人気職の一つだった。問題は『忍術』が種も仕掛けもあると言う理念の下、戦闘で使用する忍術を発動させる殆どの忍具が使い捨てのため、結構な金が掛かる。
ゴぇもんの薬学は十分二流。不老不死の薬は作れなくても状態異常回復の丸薬ぐらいは余裕で作れるし、だからこそ常備していた。この世界でも薬草など材料の見分けはつくファンタジー仕様。
まん丸お腹に手を突っ込んだかと思うと取り出したるは何種類かの丸薬。
全身に走る刺青の部分がオリジナル忍具『まん丸異次元道具入れ』と肉体を繋ぐ接合部のカモフラージュとなっている。ゴぇもんになぜそんなの使っているのか聞けば、ネタ6割と答えドヤ顔、そこで誰も笑わなければそのあと早口で利便性3割、盗難対策1割と答えるだろう。
~まん丸異次元道具入れ~
忍具作成オリジナル【作成時 気力消費 全て】
効果:道具圧縮1/10収納 状態保存 忍術補助
材料:七福神の袋+ガマ蛙の腹+各種呪符・護符
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その時は、『高級元気丸薬』『高級解毒丸薬』『高級解麻痺丸薬』『高級解呪丸薬』『滋養強壮剤(金)』を試した。少年の頭近くに屈み込み両頬を掴む。頬の上から歯の合わさる隙間に指を入れ、口を開けさせると、親指の爪ほどの丸薬を5つ入れた。
後は勝手に唾液に解けて飲み込むだろうと男は考える。普通は寝ている人間にそんな事をすれば体が拒否反応を起こし勝手に吐き出すか、下手をすれば窒息死してしまうだろうが、今回はどうにか上手く飲み下したようだ。
~高級元気丸薬~
薬学【作成時 気力消費 2000】
効果:気力体力2000を回復
材料:百年草+中級元気丸薬
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~高級解毒丸薬~
薬学【作成時 気力消費 200】
効果:状態異常【毒・猛毒】を完全回復
材料:十年草+初級解毒丸薬
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~高級解麻痺丸薬~
薬学【作成時 気力消費 300】
効果:状態異常【麻痺】を完全回復
材料:十年草+初級解麻痺丸薬
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~高級解呪丸薬~
薬学【作成時 気力消費 1000】
効果:状態異常【呪】を即時回復
材料:聖草+初級解呪丸薬
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~滋養強壮剤(金)~
薬学【気力消費 1000】
効果:一定時間体力を徐々に回復
材料:百年草+天狗茸+すっぽんの血+ガマ蛙の油
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結論から言えば、何の効果もなかった。いや逆に少なからずダメージを与えていただろう。ゴぇもんは気付いていないが、少年達の正体は鬼だった。妖魔に連なる者に聖草入りの解呪薬なんて飲ませたら、人にトリカブトを食べさせるようなものだった。幸い鬼の丈夫な体と、元気丸、解毒薬を同時に投与していたため事なきを得た。
そこからが、大変だった。男には状態を回復させるような術を使えないし、いざ治療のために存在するかも分からない巫女や陰陽師、呪術師を探しに行こうにも少年達を置き去りには出来ないし、病人を連れて行くには危険過ぎた。
そもそも「ここどこだ」ってな具合で、男はこの世界を何も知らない。
例えば、この異世界にも『京の都』『富士山』という地名が存在する。だが、男の日本の地理知識は通用しない。異世界は日本の形とは別の姿をしていた。大陸面積の大きさは日本の約5倍。多くの水と自然に囲まれた温暖気候で生き易くはあるが、多くの魑魅魍魎と土地を分け隔てていため、争いが絶えず、簡単に街を造ることが出来ない。
元々、この異世界は鎌倉時代に地球から分離した平行世界。かつて日本の東側に存在した土地だった。多くの神が顕在化した事で存在力が空間に過剰な圧力を掛かったため、所謂、御伽噺の世界として人々の意識から独立してしまった。大陸規模の神隠しと考えてくれればそれで良い。異世界が生まれてから千年もの時間が経っており、独自の発展を遂げている。
男がプレイしていたゲームと同じく、文化は明治時代初期のように日本強目の和洋折衷、軍事力は陰陽術が優れているために銃・大砲などの火器を主武器とはしていない。政治体制は一応形ながら帝を頂点としているが、実際は戦国時代の様に大名が各地域を治め、独裁的な力を振るっている。
地球と同じ年月が過ぎているが、熾烈な妖魔との生存競争が続いており、科学技術の発展は緩やかだった。
二日前にこの異世界に現れた男にとってはまず世界の情報を得る事が重要で、ゴぇもんという異分子の立ち位置を確認したかった。それだけに、少年達が始めに異世界をガイドしてくれるお助けキャラだと信じて疑っていなかった男にとって、少年達の存在は一旦は失いかけた希望であり救いであった。
どうしても助けたいが、どうにも出来ない。
八方塞がりの状態で出した結論は、ここに住んで少年達の目が覚めるの待つというものだった。ここ一週間、少年達が苦しんでいる様子がなかったものだったから、男は思った。きっとこの世界の子供は沢山寝るんだって。
住むと決めると問題が山積していた。
食料・住居・外敵。
幸い、あの決戦の夜から妖魔に襲われていなかった。
なんとなくあのエリアボスらしき妖魔を倒したからだと思っていた。
主人公は知らないが、神による防御結界や、召喚した鬼が周辺の生物を駆逐し、またその強烈な暴力の妖気が辺り一帯の妖魔たちを怯えさせ、遠くに逃げ去った。
そんな事を知らない男は安全面で悩んだ。
ともかく住むところを作り始めた。男は前の世界でマンションに住んでいたが、そんなものは造れない。丸太小屋なら造れるかと、腹から刃渡り2m幅50cm『斬馬刀』を取り出し、近場の木々を伐採する。丸太を両手で抱えて走る。ゲーム内ステータスを誇るゴぇもんにとっても結構重たかったが、問題はなかった。
忍具作成のための大工道具があったが建材加工する程時間に余裕があるわけではないので、いらない枝だけ落とし、まさに丸太そのもので積み木のように家の側面となる囲みを作った。長い釘がないので、地面に突き刺しつっかえを作り何とか工夫した。材料を丸太のまま使用したおかげで逆に猪が突進してきても大丈夫なくらい頑丈に仕上がった。屋根も丸太で四角い建物になった。所要時間半日。
これで少年達と男の青空ライフは終了した。
布団の変わりに、草や木の葉を大量に集め、道具入れ中に入っていた某アニメコラボイベントアイテムの『狸の着ぐるみ』と『赤い彗星の着ぐるみ』を少年たちに着せ、その上に転がした。顔が丸々出るタイプだから苦しくはない。体温調整もしてくれる優れもの。
因みに、トイレには行かない。アイドルだから。
ひと段落した男は、『兵糧丸』を取り出し、飲み込む。味気ない食事が終わる。
~兵糧丸~
薬学【気力消費 10】
効果:体力100回復
材料:餅米+味噌
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キセルを取り出しながら「肉が食いたてぇ」と切実に思った。そして、少年達から少し離れて狩りしても大丈夫な環境を早く作ろうと硬く決意して、就寝した。
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