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△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 辺りいっぱいに、幾重の怒号と悲鳴が鳴り響く。

 

 そんな喧騒の中心から外れた林の隅に、男が倒れている。

 真裸で。

 髷に刺さる赤いキセルだけが持ち物か。

 やたら毛深く、お尻が赤く、尻尾らしきものが生えている。


 面妖な事にその男の体に汚れはなく、何かをされた形跡はない。

 ぽっちゃりおデブなまん丸お腹が規則正しく、膨れてはしぼむ。顔は太っておらず、あごがちょっとしゃくれ、下から歯が二本出ているが、結い上げた頭にキセルが刺さっており、どことなく愛嬌がある。ただ、全身に茶色の体毛が生えており猿の様に見えるが、全身を走る黒い刺青と相まって神々しさを醸し出し、男が只者では事を窺わせる。

 まぁ、道の真ん中に裸で気持ちよさそうに寝ているくらいだから、まともな人間ではない事は確定していた。

 近くで絶命する人間の声が響き渡っても、起きる気配すら見えない。


 喧騒の中心では、人と人が争っていた。

 狼の耳を持つ人間が、猿顔の人間を袈裟切りにして咆哮を上げている。

 頭に角が生えた人間が、自分の羽で空に逃げた人間に岩をぶつけて笑っている。

 尻尾が生えた狐目の人間が、ぶつぶつ呟くと自分に特徴が似た人間が燃え上がった。


 そこにいる人間達に共通するのは自我と二足歩行ぐらいで、目・耳・口など数こそ同じだが、その形や色がバラバラであった。顔がほぼ狼の人間が、人間の顔に角が生えただけの男に、嬉しそうに話しかける。


 この世界では純粋な人間は存在しない。

 故に、獣人という言葉存在せず、そのまま全てが等しく人間と呼ばれる。


 人間の歴史は妖魔との戦いの歴史であり、今も続いている。

 妖魔がどう生まれるかは確かには知られていないが、初めは生物に寄生する悪意が凶暴飢餓に狂わせその存在を妖魔と変えると言われ、その子孫はそのまま妖魔となる。


 妖魔達を統率するほどの知性を持つ個体は稀少で、その個体の縄張りに手を出さない限り人間と妖魔の力は拮抗しているため、人間達は順調に人口を増やしていった。

 安全な城壁の中で戦闘力の低い者も天寿を全う出来、文化が栄えたが、その弊害として人間同士の争いが起こるようになった。


 武士階級の横暴、市民階級の我侭、商人階級の暗躍。

 人の心に悪意が棲み始めた。

 初めにその事に気づいたのは冥界の番人、死者の生前の罪を審判する神だった。

 

 人が人を襲う事に疑問を抱かず、あまつさえ快楽を得る。

 人間の本性としてしまうには、いささか極論過ぎた。

 この場の争いも人間のエゴがぶつかった末の単純な解決手段だった。

 

 5人の笑いあう人間と倒れ伏した11人の死者。


 あとあっちに、真っ裸の主人公が一人。



△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



「知らないt・・・天井だぁーーーーーーー」


 曇り空に、目覚めた男の第一声が虚しく通る。

 どうやら異世界転生主人公お決まりのセリフが言いたかったようだ。

 体を起こすと男は満更でもなさそうな表情で、辺りを見回す。

 生い茂る草とまだらに生える樹木。

 まったく分からなかったらしく、今度は立ち上がる。


「さてと、こういう転生物小説だと、大抵転生直後に、盗賊に襲われている馬車を助けるイベントが―――終わっとるっ」


 茂みの向こうの広場には馬車があったが、その周りに人間が沢山倒れている。


「俺のヒロインとか、奴隷とか、異世界紹介お助けキャラはっ」


 しばらく震えていた男は「ふっわかったぞ」と呟くと、広場に入って行った。

 恐る恐る一人一人に近づき確認するが、息のある者はいなかった。

 殆ど死因が鋭利な刃物による急所攻撃だったが首が飛んでいたり、腰から変な方向へ曲がっていたり、燃え炭になっていたりと悲惨な死に様だった。


 男の顔は青白くなり、濃密な血と腐りかけた肉の臭いに何度も吐きそうになったが口から出たのは胃液だけだった。

 ふらつきながら馬車に近づいていく。

 御者席の方から中を覗くと中で半分に区切られていた。御者半分側には4人が座れる位のスペースとクッション、木製手枷が1つ、後半分は食料や箱などの荷物が散乱していた。

 どうやら近くに生きている人間はいないらしい。馬車にすら馬がいない。


「皆、死んどる」


 合唱。


 男は知らないが、実はこの襲撃の後、1晩経っている。

 転生した身が回復するまで24時間必要だった。


 ここは城塞都市と都市を繋ぐ幾つかある中継駅の一つで、商人が防御結界を作動させていた為、死体に釣られた妖魔の類は近寄ってこなかった。

 この広場の中心には御神体の岩が奉られており、祈りを捧げる事で結界が作動する。

 下位の妖魔と獣ぐらいにしか効果はないが、それでも行商の危険は格段に減った。

 もし魔物に襲われてもここに逃げ込めば、困ったときの神頼みというやつだ。


 しかし、ただの中継駅でしかないこの場所に永遠の祈りを捧げるものはいない。

 

 男は馬車の中に隠れるように眠っていた。

 ほんの数時間。

 日は沈み、虫の声だけが辺りに響く。


















―――馬車が揺れている。



 馬車の揺れで眠りから覚めた男はこちらに向かってくる蠢く塊を見つけた。

 それはゆっくりゆっくり歪な動きをしながら、御者の入り口から這い寄ってくる。

 突然、馬車が横倒しにされ、さらに引っくり返そうとするが屋根部分がつっかえて上手くいかない。何が愉快か分からないが外から嗤い声が聞こえる。


 馬車の中が真っ暗で状況の分からない男はあまりの事態に茫然自失していた。それでも横に倒された痛みでとっさに、一瞬見えた月の光に向かって飛び出す。着地は無様で顔を庇えずに何度も転がった。

 

 馬車に群がる無数の塊と、その周りにある死体を咀嚼する獣共。

 その腐り濁った無数の目が男に一斉に向けられる。

 生きた獲物の登場に妖魔どもが狂喜し、その内の赤い狼3匹がすぐに襲い掛かかる。


「モンスターなら怖くねぇ。ゲーマー舐めんな」


 一の牙が男の右腕を、二の牙が男の左太ももを、三の牙が男の首筋を捕らえた。

 男が三匹の狼を巻き込み自爆する。


~変わり身の術・改~

忍術【気力消費 残10% 体力消費 残10% 再詠唱 300秒後】

身代わり人形に1秒間敵の攻撃を受けさせ、自分は1メートル後方に移動する。

人形がない場合は道具袋から相性上位自動選択。胴体武具以外成功率大幅低下。

改:身代わり人形を改造し、ダメージや状態異常を付与出来る。

~~~~~~~~~~


 二匹の狼が粉々に飛び散り、一匹が馬車の方へ吹き飛ぶ。

 男が転生させられた理由の一つが、この異世界に非常に似たゲーム『妖魔戦国列伝~2030verβ』のプレイ経験だった。そして、そのキャラクターのまま転生した。


 男は「熱ぃ、熱い」と転げまわっている。


 爆煙を掻き分けて残りの妖魔共が男に徐々に近づく。謀らずも半円に囲まれている。

 妖魔化した死体が3体。赤い狼が5体。一際大きな灰色狼。


「動く死体なら狩まくって、見慣れてんだよ。雑魚共が」


 ちりちりになった体を動かし、素早く印を結び続ける。


「くせぇし、グロいし、明日弔ってやろうかと思ってたのに、行き成り祟ってんじゃねー。鬼火〈不知火〉」


~鬼火〈不知火〉~

妖術【気力消費 500 体力消費 500 再詠唱 120秒後】

上級火属性範囲攻撃。火の玉が敵に自動追尾する。

~~~~~~~~~

※等級  強 > 神、仙人、最上、上、中、下 > 弱


 男の目の前に、幅5mに渡って大小様々な火の玉が現れ、妖魔に吸い込まれるように軌道変えながらぶつかっていく。


「おぉ、燃える、燃える、良く、燃える」


 軽く息切れしているが、成果は上々。大きな狼以外は片付いたようだ。

 大狼が焦げ付いた顔から涎を垂らしながら、咽喉奥を不快気に鳴らす。

 男が狼を睨み、不敵に嗤う。


「さて、躾のじk――「WOooooooooooooooooooooooooooooohn」ちょっ待て。くそっ、仲間呼びやがった。なんだお前、エリアボスかなんかか」


 広場を囲む林の中から、幾つも重なった遠吠えが聞こえる。


「うわぁ、どう考えてもお前、この山の主って感じだよな。おいおいおい、いったい何匹やって来るんだ。まいっか、どうせさっきと同じ雑魚だし。閻魔のおっさんが言ってた通り、ゲームのスキルも問題なく使えるようだし。あれ。やったっ。俺TUEEEEEE出来るじゃん。やべぇ、本気だしちゃお。絶対気持ちい。

 これがぁ、俺のぅ、強さだっ。『猿魔地獄道〈百鬼夜行〉』」


~猿魔地獄道〈百鬼夜行〉~

陰陽妖術【気力消費 最大80% 体力消費 最大80% 再詠唱 24時間後】

猿魔族特殊術。使役する全ての鬼がフィールドに召喚され、180秒間敵味方関係なく術者以外無差別に攻撃を加える。

~~~~~~~~~


 これが男が転生させられた理由のもう一つ。彼にこの世界への転生を強要したのは閻魔大王だった。猿魔は閻魔をモデルとしていたので、彼の仕事を代行するには都合が良かった。


 男の背後に常夜より深い闇が広がる。

 地獄から粛々と現る牛頭人身、馬頭人身、醜悪な鬼共。

 岩のような巨体が腕を振るえば肉は弾け飛び、一口で上半身を食らい尽くす。

 その存在自体が絶対的な暴力を想起させる。


「あれれ」


 男は気力と体力が急速に失われ、気絶した。


 残るは阿鼻叫喚。



△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



おまけ

プレイヤー時ステータス

【名前】 ゴぇもん

【レベル】 500 (限界値)

【種族】 猿族 特殊転生→ 猿魔族 (鬼を使役できる)

【職業】 忍者 上級職 → 忍鬼 (一部妖術使用可)

【体力】 8000 (職業/種族補正+2000)

【気力】 7300 (職業/種族補正+2000)

【力量】 1025 (職業補正+10%)

【頑強】  505 (種族補正+5%)

【技量】 2000 (職業補正+30%)

【俊敏】 2000  (職業補正+30%)

【術力】  505  (職業/種族補正+40%)

所持金/  20,111,225文

奥義取得可能技能/ 忍術、戦闘術(小太刀・投剣・暗器)、隠密術、忍術具作成、罠作成

一般取得可能技能/ 呪術、戦闘術(格闘・大太刀・弓・銃)、水練、薬学、遊学

特殊取得可能技能/ 妖術、陰陽妖術

※具体的な技能取得にはクエスト達成が必要

備考:身体能力はレベル上がる毎に

体力10・気力10が基本上昇 ボーナス10を振り分け 

猿族 力1・頑強1・技2・俊敏2・術1 が基本上昇、ボーナス5を振り分け

   

その他職業

 浪人、侍、格闘家(空手・柔術)、忍者、猟師、砲術師、陰陽師、神ナギ(巫女)、傀儡師(からくり技師含)、呪術師(薬師含)、鍛冶師、語り部、博打師



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