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特効薬

作者: 泉田清
掲載日:2026/09/27

 「気分が悪い時」に飲むクスリがある。それはドラッグストアに売っているもので、疲労回復に効く、が商品の謳い文句になっている。

 きっかけは新型ウイルスの流行だ。ワクチン接種時、栄養補給に最適だとして勧められた。確かに体のダルさを緩和してくれた。誰に勧められたかは覚えていないが効果はあったわけだ。


 ウイルスの流行が収まってしばらくの後、カゼに罹った。酷い頭痛で気分が落ち込む。そこで残っていたクスリを飲んでみたらだいぶ気分が良くなったのだ。そこで悟ったのである。このクスリは精神的な安定をもたらしてくれるのだと。そこから「気分が悪い時」に飲むようになったのだった。


 尤も、頻繁には飲まないようにしている。何であれクスリと名の付くようなものを乱用していいはずがない。

 「気分の悪さ」は明け方にピークを迎える。であるから、寝る前に飲むのが一番いい。最悪な気分で目覚めるのを防いでくれるわけだ。目が覚めてしまった時に飲むのもいい。それ以降は心置きなく寝れる。

 朝起きて飲むのも悪くない。一日の始まりはやはり重要である。

 仕事中であるなら腹が空いた時。空腹時は明け方に次いで「気分の悪さ」が高まるタイミングになる。何か食べた後に飲めば効果的といえるだろう。

 一日に腹が二回空く、とすれば飲む機会は五回あることになる。しかしクスリの小瓶には一日の服用は三回までと注意書きがある。いかに気分が悪くとも三回までしか飲めないのだ。


 「気分の悪さ」が一か月ほど続いた事があった。その間、一日五回を毎日飲んでいた。かなり依存していたといって良い。寝ても覚めてもクスリが効いている状況で、終盤は効き目が薄れているような感じさえしたものだ。

 クスリの小瓶には一週間分しか入っていない。これほど服用していると、身の回りのどこにでも小瓶が目に付くようになる。枕元、カバンの中、事務机、キッチン、下駄箱、あらゆるところに。あらゆるところに無いと不安だったのだろう。症状が良くなってきて、ようやくその異常性に気づいた。「クスリに囲まれている!」思わずゾッとしたものだ。

 それ以降、気分が悪くなっても、クスリの服用は一日に一回か二回と決めている。何とか飲まずに済ませれば、ヨシ!と思わずこぶしを握ることもあるくらいだ。


 残業中、他には誰も居ないと思いクスリを飲んでいると「あっ、それ」後ろから声をかけられた。同僚だ。

 「それ気分が悪い時に効くよね」彼はいった。彼自身はもちろん、他にも常用している人間を何人か知っているとも。私は意外に感じた。このクスリを本来の目的でなく精神的安定のため服用するものが他にもいるとは。「気分の悪さ」を抱えている者は思いのほか多いらしい。

 「これって実は・・・」他に彼が教えてくれたのは副作用について。クスリは違法薬物と科学的に成分が似ており、強い依存症があるという・・・ 

 最近ではドラッグストアで「クスリの説明は必要ありませんか」とか「二週間以内に同じものを買いませんでしたか」とか聞かれるようになった。免許証の提示を求められる事すらある。同僚の言っていたことは本当のようだ。


 それにしても「気分の悪さ」とは何だろう。私の場合はまず頭痛として現れる。耳鳴りがしたり眩暈がする。それから自分に向けられた非難の声が聞こえ、数々の失敗や災難が蘇ってくる。歯が抜け落ちるとか遅刻するといった悪夢も良くみる。朝の目覚めなどは最悪だ。もちろんそんなことは言っていられない。さあ、薬を飲んで仕事へ出かけるのだ!

 もちろんクスリが全くいらない日もある。休みの日。朝起きて「ああ、やっと今日が来た」と思うわけだ。まさに安息日である。労働をせず、神に祈り、休息をとらなければならない。しかし実際にはどうにか楽しく過ごそうと躍起になってしまう。少なくとも私は。いつ祈り、休息するというのか。「気分が悪く」なるのも無理からぬことだ。


 現代は祈る代わりにクスリを飲む。そしてあえて言おう、クスリが最大限に効果を発揮するのは日曜日夜、寝る前だと。

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