2話 世界の意思
アステルは目を覚ます。
見渡すと、そこは赤い花が咲き乱れた空間。先ほどまでの血の匂いも、獣の唸りもない。静寂とした幻想的な空間。
(どこだろう?)
「ここに人が訪れるのは、随分と久しいですね」
(だれ……?)
「さて、誰でしょうか。名を教えたところで、貴女が目覚めたときにはここの記憶はありません。意味のないことですよ」
あたりを見渡すと、九本の尻尾を持つ女性が立っていた。アステルは赤い花の中を歩き、彼女に近づく。
(ここは……? 死後の世界とか?)
「いいえ、ここは死後の世界ではありませんよ。神様の空間、のようなものです」
(神様っているの?)
「どう思いますか?」
(神様がいたら、もう少しまともな人生だったと思う)
アステルは感情が死んでしまったかのように淡々と答えた。
「幼いのに、随分と……。いえ、そうですね。貴女の人生はあまりに壮絶なものでした。ですが、ここから先はきっと、より良い人生になりますよ」
(わかるの……?)
「ええ。と言っても未来のすべては分かりませんが。……貴女のこれまでの人生に免じて、少しだけ未来を見てあげましょう」
女性はアステルに手を翳す。
「ふむ。七年後に死んでしまいますね。ですが……魔界、ですか。どうして……黒龍……?」
独り言のように彼女は呟き、アステルに翳した手を離す。
(七年後に、死ぬの?)
「そうですね。ですが、その死を私は望みません。少しだけ、力を貸してあげましょう」
そう言うと、今度はアステルの頭に優しく手をのせる。温かい手から優しい光が溢れ、アステルを包み込んだ。
「貴女がここに辿り着いたということは、契約を成す資格があるということ。世界のためには、貴女が必要です。……強くなりなさい」
(よく、わからない……)
「今はわからなくても大丈夫です。どちらにせよ、記憶には残りません。ですから、そうですね……私のことを教えてあげましょう。ここは彼岸花の園。私の名はミュトス。世界の意思です」
(世界の、意思……?)
「神様のようなものですよ。さあ、目覚める時です。……再び会える日を、楽しみにしていますよ」
ミュトスが告げると、温かい光に包まれ、視界が白くなっていく。
次第に光は薄れ、アステルは現実へと目覚める。




