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11話 捨てないで、欲しいです

 王都の危機を救い、ギルドからの感謝を伝えたいとクレアから本部までついてきて欲しいと言われたが、アステルたちはそれを断り、アサイラムへと帰還していた。


 自分たちの家、ライラの家へと帰ると、ソファーで寛ぎ本を読んでいるライラ。


「戻りました」

「おぉー。おかえりー」


 顔を上げ、微笑みながら手を振る。


「づがれだぁー……」


 とフェリスは椅子に座り、机に顔を伏せ、シリウスもまた椅子に座った。

 アステルは報告のためにライラへと歩み寄る。


「魔族が出ました」

「へぇー。どんなの?」


 本を読みながら答える。


「黒い甲冑の姿をしていて、中身が空っぽで。黒い靄みたいなものが首から出てました」

「んー……。デュラハンかな?」

「デュラハン?」

「そそ、首無しの騎士デュラハン。魔界に住む魔族の中で上位の存在、魔人だね」


 で、と本をパンと閉じ、真っすぐな瞳でアステルを見る。


「アステルちゃんなら、当然。簡単に倒せたんだよね?」

「……。いえ、苦戦しました」

「えぇ? そうなんだ」

「すみません……」


 申し訳なさそうにアステルは謝る。


 ライラからしてみれば、アステルは簡単にデュラハンを倒すことができると思っていた。しかし、実際は苦戦を強いられた。期待以下ということだ。


 それが悔しく、拳を強く握る。

 ライラはちらっと、その震える拳を見て、軽く微笑む。


「ま、まだまだ若いんだしさ。ライラお姉さんみたいに強くなれるよう頑張りなよ」


 あはは! と笑ってみせるライラを見て、不思議と力が抜ける。


「それにしても。ただの魔族が出現するならまだしも……。魔人級かぁ」


 うーん、とわざとらしく悩む。

 しばらくして、指をパチンと鳴らして言う。


「アステルちゃん、ここから出よっか!」

「……は?」


 突然の宣告に、アステルの頭の中は真っ白になった。


「ま、待ってください! これからもっと強くなります! だから!」

「えぇ!?」


 前のめりで圧倒されるような必死な剣幕に、ライラは後ろへと仰け反る。


「だから……。捨てない、で。欲しいです……」


 力なくそう呟くアステルを見て、ライラは立ち上がり、優しく頭を撫でる。

 温かく、安心する手。


「捨てないよ。アステルちゃんたちの家はここだからね」

「……はい」


 ライラと並びアステルはソファーに座り、シリウスとフェリスを見つめていた。いつまでも変わらない二人を見ていると、不思議と安心してくる。


「びっくりしちゃったなぁ。アステルちゃん、そんなに私のこと大好きだったんだ?」


 笑い交じりに彼女は言う。


「からかわないでください……」


 あはは! とライラは笑った。そして、話を続け始める。


「でも、アステルちゃんがここから旅立つのは必要なことなんだよね」

「どういうことですか?」


 深呼吸をして、アステルは真っすぐな瞳でライラを見つめる。


「魔界のことは前教えたよね?」

「はい。魔力が豊富な世界。この世界より強い魔物が多くて、それらを魔族と呼ぶんですよね?」

「そそ。その魔界は封印されていて、その影響が出る夜がパンドラの夜。魔界から魔力が流入することだね。たまぁに魔族も紛れちゃうんだけどさ。魔人級が来ちゃうのはありえないんだよ」

「ありえない?」

「封印されてるけど、僅かな歪みから魔物と魔族が流入する。じゃあ、それよりも魔力量が多く強大な魔人が出現した。と、いうことは?」


 そこでライラは言葉を切り、アステルをじっと見つめる。

 アステルは少しだけ考え、答えを出す。


「……歪みが大きくなってる?」

「ぴんぽんぴんぽん! おおーあたりぃ!」


 わざとらしくライラはリアクションを取る。


「ということで、アステルちゃんには魔界への扉。パンドラの扉がある場所の調査をしていただきます!」

「先生が行けばいいのでは?」


 眉を顰めてアステルは言った。


「いやいや、めんどくさいし。世界の平和とかどうでもいいし」


 それにさぁ、とため息を吐きながらライラは続ける。


「私が出て、即解決って。おもしろくないでしょ? 私みたいのは影で見守って、アステルちゃんのピンチに颯爽と現れるのが丁度いいんだよねぇ」

「意味が分からないですし、私も世界平和とか興味ないです」


 あはは、だよねぇと笑うライラを見て、ため息を一つアステルは吐いた。


「ま、でも世界の危機があるなら事前に解決するべきだよね? アステルちゃんは投げ出したりしないでしょ?」


 むっと、アステルは再び眉を顰める。


「当たり前です。私は途中で諦めるのは嫌いです」

「おお! んじゃ、よろしくー」


 そのライラの言葉を聞き、アステルはハッとする。

 ハメられた……。


 あはは! と笑うライラが憎たらしく見えてくるが、ため息を一つ吐く。


 ちゃらぽらんでおちゃらけてる変な人。だけど、強くて賢く、師であり育ての親。

 世界の平和とかどうでもいいけど、彼女に頼られるのは嫌ではなかった。


「わかりました。それで、パンドラの扉がある場所ってどこですか?」

「栄光の地、ホドだよ」

「栄光の地?」

「かつて原初の召喚術師が魔族と対峙し、扉を封印したとされるおとぎ話がある土地だよ」

「原初の召喚術師……」


 一番最初に召喚獣と、アステルと同じ彼岸契約を成した英雄。アイン、ソフ、オウルと呼ばれた三体の召喚獣を使役していた。

 そうライラから聞かされている。


「ま、そこでとりあえず調査して、やべえ奴出てこないかけん制してって事よ」

「わかりました。できる範囲で頑張ります」


 そう言い、アステルは立ち上がる。


「弟子とってみるのもありかもねぇ」

「え、弟子ですか?」


 また変なこと言い出したなと、眉を顰める。

 しかしそんな様子を気にすることなく、ライラは続ける。


「弟子取れば戦力は増えるし、自分も強くなれるかもだしね」


 傍に置いてあった本を手に取り、開きながら言った。


「私、人に教えるの向いてないと思いますよ」

「大丈夫でしょ。私が出来たんだから」

「……。それもそうですね」

「ちょっと! 酷くない!?」


 膝に本を置き、顔を上げアステルを見る。


「自分で言ったんじゃないですか」


 幾度目かのため息をアステルは漏らした。


「それもそっか」


 と、再びライラは本を読み始める。

 アステルはライラを背に歩き出し、シリウスとフェリスの元へと近づく。


「そういうことだから。旅の準備しといてね」

「はい」

「はぁい」


 シリウスは凛と答え、フェリスは気怠そうに答えた。

 そんな二人を見て、アステルはそっと微笑む。


 不安はある。アサイラム。そして、ライラ。

 守ってくれる存在がいない地へと赴く恐怖心。


 だけど、この二人がいれば大丈夫だと。

 不思議と、そう思った。

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