10話 夜すがらの戦い
魔族。魔力で満ちた世界、魔界と呼ばれる世界に生息する魔物を称するもの。
アステル達の住む世界の裏側の世界だが、強力過ぎる魔族の流入を防ぐ為にかつて封印された。とライラからアステル達は教わっていた。
「それで、どうして私なんですか?」
「今、パンドラの夜の影響で魔術を行使できる人は限られています。アステルさん達以外の方々は外で狂暴化している魔物が街に入り込むのを防いでいるんです」
魔物を防いでいる人材を魔族討伐に回したら街に魔物が入る。
「それはわかりました。だけど、三人で魔族を倒せとか。無理難題では?」
「いえ、あなた達なら出来ると。ギルドマスターがおしゃってます」
ええ……。幾らなんでも買い被りすぎじゃない?
困惑するアステルを見つめ、クレアは言葉を続ける。
「あなた達は、終夜の魔女。ライラの弟子だからできると」
「終夜の魔女?」
そんなの初めて聞いたなと。アステルはシリウスとフェリスを見るが、どちらも知らないらしく首を傾げる。
「はい、数年前のパンドラの夜で数多の魔物を笑いながら殲滅した……と伝わる人です。その時の功績に免じて、異世界の住人の町アサイラムは黙認されているんです」
「そうなんですね」
三人はその話を聞いて驚きはしなかった。なんとなく、それが想像する事が出来たからだ。
はあ……。とため息を一つ。
「この街がどうなろうと構わないけど、目の前で助けを求められてたら断る道理はないです。やれるだけやってみます」
――
目の前の威圧的な城門が低い音を立てながら開いていく。
開いていく城門の隙間からは、ゆっくりと歩く禍々しい雰囲気を持つ、黒い甲冑が見える。
普段であれば気持ちのいい風が吹く草原も、今はどこか空気が重く、赤い月がアステル達を照らす。
「シリウス。前衛を私がカバーする」
「はい」
シリウスが手に持った剣の柄をギュッと、力強く握り、一歩前に立つ。
「フェリスは支援を」
「うん」
フェリスは腰に携えたナイフを抜いた。
アステルは蒼白い魔力を生成する。
三人は深呼吸をする。
「行こうか」
その声と共にシリウスは風の魔力を足に纏わせ、爆発させる事で瞬時に黒い甲冑の魔族へと詰め寄る。
かつては制御できず、バランスを崩していたが、修行の日々で自分の力としていた。
アステルも遅れて走りだす。その足にフェリスが人間が制御できる最大の加減で風を纏わせ、爆発させる事で推進力を得る。
シリウスは爆発的な推進力と鞘から剣を抜く際に風を爆発させる事で破壊的な神速とも云える速度の一振り。
しかし、魔族は黒い魔力から禍々しい剣を創りだす事でその一撃を防いで魅せる。それは皮肉にも、アステルの魔力の剣と似ていた。
魔族は身体を翻し、シリウスに重たい蹴りを与える。
「ぐあっ!?」
身体の内側から破壊されるような痛みに呻きながら、シリウスは吹き飛ばされる。
安請負すべきじゃなかったな……。
ライラや酒童の剣筋よりは鋭くはなく、速度も遅い。しかし、一撃一撃が比べる間もなく重たい。
重い一撃を躱し、一撃与えても黒い甲冑がそれを防ぐ。
フェリスが支援してくれるお陰で一刀一閃のやり取りが、アステルと魔族の間で繰り広げられる。
そして魔族の重い一撃をアステルの魔力の剣が受け止めた瞬間。魔力の剣が粉々に砕けて消えていく。
「嘘でしょっ……!?」
そのまま黒い剣を振り上げ、アステルへと振り下ろされる。
アステルが死を直観し、顔を伏せた時、突風が吹き、目の前で激しい金属音がなり響く。
顔を上げると、重い一撃をシリウスが受け止めていた。
「アステル、前衛は私でしょ?」
「頼もしいね」
「そうでしょ?」
と風を爆発させ、魔族の重い剣を弾け返し、バランスを崩した魔族に更に一撃を加え、その首を跳ね飛ばす。
しかし、そこから除くの黒い霧のようなもの。
中身は生命体ではなく、首を飛ばされても魔族は平然としている。
後ろに下がったアステルはシリウスと魔族の応戦を見ている。何か打開策を出すために。
甲冑は剣を通さない程硬く、フェリスの魔術でも傷一つついていない。
しかし、金属だ。
アステルは詠唱を始める。それは決して魔族に対するダメージ自体は期待できないだろう。しかし、致命傷を与える一歩になる。
「シリウス! 下がって!」
その声を聴き、シリウスは風を爆発させ、一気に距離を取る。
風が吹き、地面に緑色の魔法陣が生成され、やがて穏やかだった風は竜巻となって魔族を包み込む。
「どうするの?」
フェリスがアステルに問う。
「あれをやろうって思ってさ。あの竜巻に火と水を付与してくれる?」
アステルが2人に言うと、静かに頷き、詠唱を始める。
緑色の魔法陣に重なり合うように赤色と水色の魔法陣が生成され、やがて竜巻は水と火を帯びる事で、火花を散らす。
アステルはゆっくりと、手を伸ばす。
イメージはワイバーン戦で見せたライラの姿。
「『天光満つる処に我は在り 黄泉の門開く処に汝在り 出でよ 神の雷』」
上空に出現した魔法陣が三つの属性を持つ竜巻を吸収し、やがて紫色の魔法陣へと変化する。
「……。なんてね。終わりだ!」
乾いた指を鳴らす音が静かに響く。
その瞬間静まり返った空間に轟音と共に一つの雷撃が魔族へと突き刺さる。
それはライラが見せた、神の雷とは程遠い代物。しかし、金属の甲冑の魔族には効果が絶大だった。
「なれない事するもんじゃないなぁ……」
ライラ曰く、それは異世界の技。人によっては奥義とか秘奥義になるらしい。アステル達にとってよく分からない話ではあったが、きっと凄い世界なんだと思う。
土煙が晴れるとそこには魔族は居なく、静寂だけがそこにはあった。
「うへぇ……。つかれたよー」
フェリスが耳と尻尾を垂れ下げながらアステルへと抱き着く。
ハッとしたシリウスもまた、アステルへと抱き着いた。
「二人ともおつかれさま」
二人の頭を撫でる。尻尾が相変わらず大きく揺れ動く、愛おしく、便りになる大切な家族。
気付けば夜明けが近い、赤い月が沈んでいき、太陽が昇る。
優しく暖かい朝陽が三人を照らしていた。




