第9話 裸の美貌
ロイドが魔法でドアを破ると、そこには、ぼさぼさの髪で、だぼだぼの服を着た、肥満体型の少女がいた。その容姿は、完璧な分身とは似ても似つかない。彼女は、ロイドたちの姿を見ると、まるで動物のように怯えて身を縮ませた。
「いやあああ!見ないで!お願い、行かないで!」
シャルロッテは、もう全てが終わったと悟り、絶望の涙を流した。ロイドが、自分を嫌って離れていってしまう……。その未来しか、彼女には見えなかった。
しかし、ロイドは、予想に反して静かに部屋の中へと足を踏み入れた。
「君が、シャルロッテなんだね」
ロイドの言葉は、悲しみと、そして深い愛情に満ちていた。彼は、目の前の少女の姿に驚きはしたが、決して失望してはいなかった。彼の魔眼には、彼女の顔立ちが、分身と同じ、いやそれ以上に美しいことがはっきりと映っていたからだ。
「シャルロッテ、落ち着いてください。私たちは、あなたを笑いに来たわけではありません」
テスラが、優しく語りかける。彼は、シャルロッテの顔をよく見ると、あることに気づいた。
「あれ……? シャルロッテ、少し痩せましたか?」
テスラの言葉に、バロンも驚いたように言う。
「本当だ! 入学式で見たときは、もっと……いや、なんでもない!」
バロンは、危うく口を滑らせそうになり、慌てて口を閉じた。
ロイドは、テスラとバロンの言葉を聞き、再び魔眼を働かせた。すると、だぼだぼの服の下にある彼女の体が、かつての肥満体型ではなく、すらりとした美しいラインを描いているのが見えた。
「……君は、一ヶ月の間、食事もとらずに分身を作り続けていたんだな」
ロイドの言葉に、シャルロッテはハッと顔を上げた。彼女は、自分の身に起きていた変化に、全く気づいていなかったのだ。
「そんな……嘘……!」
彼女は、自分の手を見つめる。それは、以前よりもずっと細く、美しい形をしていた。彼女は、分身に理想を託している間に、知らず知らずのうちに、その理想の姿へと近づいていたのだ。
フレッドは、その様子を見て、静かに言った。
「君は、誰よりも努力していたんだな。俺の魔法キャンセルが、それを証明した。すまない……」
フレッドの謝罪と、仲間たちの温かい視線に、シャルロッテはもう何も言えなかった。彼女は、自分のコンプレックスから解放され、初めて本当の自分と向き合うことができたのだ。




