第8話 ドアを破りし者たち
「シャルロッテは、あそこにいる……!」
ロイドは、倒れた分身を前に、悲痛な表情で叫んだ。彼の魔眼には、消えかかった赤い魔法の糸が、一本の細い光となって遥か遠くまで続いているのが見えていた。
「どういうことだよ、ロイド! シャルロッテはここにいるじゃないか!」
バロンは、目の前の動かない分身を指さして叫んだ。彼は、状況が全く飲み込めていなかった。
「違うんだ! これは彼女じゃない! これは、彼女が作った人形だ!」
ロイドは、テスラとフレッドに視線を向けた。
「君たちも、この子の魔法の違和感に気づいていたはずだ。この赤い糸は、彼女の本当の居場所を示している。この糸をたどれば、彼女に会える!」
テスラは、ロイドの言葉にハッとした。彼の魔法薬が効かなかった理由、そして魔法の組成が人間と異なっていたこと。すべてがロイドの言葉と繋がった。
「なるほど……! あの魔力の不自然さは、そういうことだったのか!」
フレッドもまた、自分が魔法キャンセルで打ち消したのは、ただの魔法ではなく、シャルロッテの生命線だったのだと悟り、その顔は後悔に歪んでいた。
「わかった! その糸をたどって、シャルロッテを助けに行くぞ!」
バロンの熱い叫び声に、ロイドたちは頷き、皆で糸を頼りに、シャルロッテの家がある方向へと走り出した。
一方、その頃。 自宅に引きこもっていた本物のシャルロッテは、パニックの絶頂にいた。
「いやあああ! なんで動かないの!? ロイド様は、フレッドは、どうなったのよ!」
突然、分身との繋がりが断ち切られ、外界との唯一の接点を失った彼女は、恐怖と絶望で泣き叫んでいた。彼女の小指に結ばれた赤い糸は、その光を完全に失っていた。
「私の夢が……! お母様を助けるための夢が……! 全部、終わっちゃったんだ……!」
彼女は、もう二度と外の世界に出ることはできないと絶望し、部屋の隅で膝を抱えていた。
その時、家の外から、複数の足音が近づいてくるのが聞こえた。そして、彼女の部屋のドアの前で、その足音は止まった。
「シャルロッテ! いるんだろ! ドアを開けてくれ!」
バロンの大きな声が聞こえる。彼女は、誰にも見られたくない一心で、声を殺して身を潜めた。
「頼む、シャルロッテ! 君の秘密はもう知っている! 俺たちに会ってくれ!」
ロイドの懇願にも、彼女は答えられなかった。彼が、自分の醜い姿を見て、失望する姿を想像するだけで、心臓が凍りつきそうだった。
そして、ロイドは決意を固めた。
「もういい……! 君がドアを開けてくれないなら、僕がこじ開ける!」
ロイドがドアを魔法で破ると、そこには、ぼさぼさの髪で、だぼだぼの服を着て、顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにした、肥満体型の少女がいた。




