第3話 魔眼が捉えた赤い糸
授業が終わり、放課後。分身は、完璧な笑顔を浮かべながら、教室の窓から校庭を眺めていた。その表情には、一点の曇りもない。
(うふふ、順調だわ。もう何人かと友達になったし、皆、私のことを天才で美人だって褒めてくれる。当たり前だけど!)
シャルロッテは、自宅でココアを飲みながら、分身を通して学園生活を満喫していた。しかし、その完璧な「ゲーム」に、ロイド・シュタイナーが静かに割り込んできた。
「シャルロッテ・バイセルハーズ」
背後から声をかけられ、分身は振り向く。そこに立っていたのは、端正な顔立ちをしたロイドだった。
「どうしましたか、ロイド様?」
分身は、貴族の娘として完璧な対応をする。だが、その声はどこか機械的だった。ロイドは、そんな分身の顔をじっと見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「君の魔法の気配は、まるで人形のようだ」
その言葉に、自宅にいるシャルロッテは、思わずココアを吹き出した。
(えっ!? なんでわかったの!? ロイド様の魔眼って、そんなに凄いの!?)
彼女の小指に結ばれた赤い糸が、彼女の動揺を伝えるように激しく震える。
分身は、完璧な笑顔を維持したまま答えた。
「何を仰っているのか、私にはさっぱり。冗談がお上手ですね」
しかし、ロイドは冗談を言っているようには見えなかった。彼は、一歩前に進み、分身の顔を覗き込むように言う。
「君の小指には、赤い糸が結ばれている。その糸は、君の生命線そのもののように輝いているが……その先は、どこに続いている?」
ロイドの魔眼には、分身の小指から伸びる赤い糸が、淡い光の帯となって映っていた。
シャルロッテは、動揺を悟られまいと、必死に平静を装う。だが、ロイドの視線は、彼女の心の奥底を見透かすように鋭かった。
「君は、君自身なのか?それとも……」
ロイドの問いかけに、分身は何も答えられない。ただ、笑顔を貼り付けたまま、黙って彼を見つめるしかなかった。
(どうしよう……!もうバレたも同然じゃない!こんなはずじゃなかったのに!)
自宅のシャルロッテは、絶望の淵に立たされていた。彼女は、ロイドという存在が、自分の「恋愛ゲーム」を、本当の恋愛へと変えていくことを、まだ知らない。




