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窓越しの青

作者: りおん


春、新学期。高校1年になった日向ひなたは、制服のネクタイがうまく結べず、鏡の前で格闘していた。


「……ダメだ、毎朝これか。」


隣の家の窓が音を立てて開く。

見ると、栗色の髪と同色の瞳をキラキラとさせた幼なじみの紗良さらがこっちを見て、くすっと笑っていた。


「ひなた、まだネクタイに勝ててないの?」


「うるさいな、慣れないだけだし!」


紗良とは中学までは同じ学校だった。毎朝、家の前で落ち合って一緒に登校していたが、春から制服も校舎も変わって、なんとなくぎこちない距離ができていた。


紗良はその決して大きくない身体をぐいっと窓から身を乗り出し、小さく言った。


「じゃあ…玄関の前で待ってる。ちょっとだけ早く出るから、練習してきて。」


自分でもよくわからない感情に動かされるようにして、その日から、日向は毎朝ネクタイと勝負するようになった。

だんだんと紗良との会話も、以前のように戻っていった。


***


ある日の放課後、日向は学校の昇降口で紗良を見かけた。彼女はクラスの女子に囲まれ、笑いながら話している。けれど、ふと日向に気づくと、小さく手を振ってきた。


それだけで、なんとなく胸が熱くなる。

(なんなんだろうか?この感覚は…)


帰り道、二人きりになると、紗良がぽつりとつぶやいた。


「高校って、ちょっと大人の世界だね。なんか、みんな急に大人びてる気がする。」


「うん。俺もそう思う。だけど、隣の窓から見える景色は、昔と変わらないけどな。」


紗良は笑いながらうなずいた。


「そうだね。ひなたの寝ぐせも、変わらないし。」


「……直してから窓開けろよ!」


また二人で笑った。


***


ある朝、日向は起きると、いつもの窓が開いていないことに気づく。


――風邪かな?


玄関の前にも、紗良の姿はなかった。


心配になりながら登校すると、教室で紗良の友達から聞いた。


「紗良ちゃん、朝から養護室行ったって。昨日、急に熱出たみたい。」


放課後、日向は紗良の家の前で立ち止まり、窓を見上げた。


そして、意を決してピンポンを鳴らす。


「ひなた?どしたの?」


薄着で出てきた紗良に、日向は紙袋を差し出す。


「ポカリとプリン。あと、これ……」


差し出したのは、綺麗に結ばれたネクタイだった。


「明日、これ持ってってやる。だから早く元気になれよ。」


紗良は、ちょっと泣きそうな顔で笑った。


「……バカ。でも、ありがと。」


***


翌日、回復した紗良がまた窓を開けた。


「ネクタイ、結べた?」


「完璧だよ。そっちは体温計、合格点だった?」


二人の会話は、窓ごしに続いていた。


でも、日向の中では、ある変化が起きていた。


(ただの幼なじみじゃ、なくなってきたな)


春の風が吹く中、二人の距離は窓を越えて、少しずつ近づいていくのだった。


窓越しの空は今日もかわらぬ青。

でも、昨日までとは違う青。



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