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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter2“a*en**r b*ea*s *ein**r*ation”
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the defender

 蒼天は真剣に、楯の少女をそう呼んだ。

 少女は全力で首を横に振る。


「違うッスよ!! どこの世界にそんな名前の人間がいるって言うんスかーっ!?」

「む、すまぬ。そうじゃった。余の記憶違いじゃ許せ。南茨木(みなみいばらき)東芝よ」

「それも違うッス!! というか家電メーカーから離れてくんないッスか!?」

「むむむ……」

「何がむむむッスか!!」


 真面目な表情で考え込んでいる蒼天を少女は半泣きで怒鳴り付ける。


「南茨木……いすゞ!! そうじゃおぬしは南茨木いすゞであろう!!」

「自動車メーカーに行けって言ってんじゃないッスよ!!」

「じゃが一番女の子らしい名前であろう?」


 そう言われて少女は肩をわなわなと震わせながら蒼天を睨んだ。流石にそろそろ気の毒に思えてきたので蒼天は、


「すまぬすまぬ。ところでヒタチは何故こんなところにいるのじゃ?」


 と楯の少女――南茨木(みなみいばらき)桧楯(ひたち)に聞いた。

 どごっ、という鈍い音が響く。桧楯が楯で蒼天を殴った音だ。


「覚えてんなら最初から呼んでくださいぶっ飛ばすッスよこの赤髪ハムスター!!」

「ぶ、ぶっ飛ばしてから言うでない……」


 先ほどまでの戦いの負傷がまだ残っている蒼天はあっさりとその一撃を食らい吹きとばされる。そうして蒼天に突っ込まれて初めて桧楯は焦ったようにあたふたとしだした。


「ああっ、ごめんつい――うちの脳筋バーサク馬鹿姉貴にやるノリで手が出ちゃったッス!!」

「……本当に口が悪いのおぬし。その上に手まで速いとは思わなんだがの」

『お前がつまらないボケをするからだろう』


 サヤは厳しい目付きで蒼天を見下す。


「で、えーと。そろそろ真面目な話をするとしようかの」

『最初から真面目にやれ馬鹿鵬(ばかどり)

「……余はただ場を和ませようと思ってじゃの」

「えーと、その、そちらは?」


 桧楯がサヤのほうを指して聞く。蒼天は顎に手を置いてやや考えた末に、


「余の親友の中の人じゃ。サヤどのという」


 と、間違ってはいないが事情を知らない人間からすると何のことだかわからない説明の仕方をした。

 桧楯は当然、口をぽかんと開けて困惑している。

 サヤは蒼天の頭を無言ではたいた。


「まあ、話せば長いのじゃ。気にするでない」

「はぁ……」

『まあ、こいつの言うことは流してくれていい。それよりもお前は? というよりも、その楯はなんだ?』


 先ほどまで質問をしていたはずの桧楯はいつの間にか聞かれる側に回っていた。状況が飲み込めていないのはこの場の全員がそうなのだが、その状態でいきなり質問をされて桧楯は困ったように口をもごもごとさせている。

 そんな状況で蒼天だけがけろりとしていた。

 ようやく痛みが少し引いてきたらしく、桧楯の肩に手を回して笑った。


「つまりヒタチも、余と同じくこの事件を解決するために戦う戦士ということであろう」

「……はい?」

「悩むことなど何もあるまい。戦う力を持ち、戦火に身を投じる。今のような状況でそれを為す者を戦士と呼ばずしてなんと言うのじゃ?」

「は、はぁ……」


 蒼天は桧楯の返事をまたずにずばずばと言葉を続けていく。


「余は今からこの事件の元凶の元へ行く!! 故に!! 共に行こうぞヒタチ!!」


 芝居がかった、そして演説のような張り上げた声で高らかに叫ぶ。

 蒼天の言葉は何一つとして説明になっていない。ただ開き直って自分のこれから取るつもりの行動を語っただけで経緯や過程が抜けている。

 しかし、自分の事情や正体を巧く説明出来ないのは桧楯も同じで、しかも桧楯はこれからどうすればいいのかさえ実はわかっていなかった。

 だからだろう。

 説得力はなくとも自信だけは漲っている蒼天の言葉が、桧楯にはとても眩しく思えた。


「わ、わかったッス!! どのみち兄さんや馬鹿姉貴もまだ来れなさそうっぽいっすし、一緒に行きますよ三国サン!! 乗りかかった船ってやつッス!!」

「蒼天でよい。では行こうぞヒタチ!!」


 そう言うと蒼天は一度換装を解き、その上でチャリオットを――騎匣獣を出した。

 二人してそれに乗り込んだところで桧楯がサヤを見る。


「ところで……中の人さんはどうするんスか?」

『……私は忠江と一緒にどこかに隠れてるよ。悪いがお前ほどお人好しじゃないんでな』


 サヤは呼ばれ方に不本意さを感じながらも、言葉には出さずに桧楯に言う。そして桧楯はそれを咎めることはしなかった。


「わかりました。じゃあ……気をつけて、くださいね。この事件はその、私と……三国さんで解決するッスから!!」


 声を震わせながらも桧楯は言う。

 サヤはその顔をとても愛おしいものを前にしたような顔で見つめたが、蒼天は口を尖らせた。


「名で呼べと言うたであろうヒタチ。ほれもう一度じゃ、言い直せ。改めるまで余は戦車を走らせぬぞ」

『ほんとガキだなお前』

「こういうのは気分の問題じゃからの」


 催促するように蒼天は手綱を握りながら自分の膝をぱたぱたと叩く。桧楯は暫く口ごもっていたがやがて意を決し、目をつむりながら叫んだ。


「私と……蒼天、さんに任せて――大船に乗った気でいてくださいッス!!」

『そうか。ならば、助けにはなれないがせめてお前の――いや、お前たちの武運長久を祈っておこう』


 その言葉を聞いて桧楯と、そして蒼天も笑った。


「うむ、うむ。やはりその顔で激励されると勇気が湧いてくるの。では忠江と玲阿のことは任せたぞサヤどの!!」


 そういうと蒼天は校舎のほうへ向けてチャリオットを走らせた。

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