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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter2“a*en**r b*ea*s *ein**r*ation”
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嗤う戦鬼、就令い爪剣迫るとも_4

 三分ほどで泰伯は剣道部員を全員逃がして帰ってきた。それも普通に凰琦丸に見えるように、格技場の入り口からである。


「……お前さ。少しくらい頭を使えよ」

「どうしてですか? まさか僕だけ逃げておけとでも言うつもりじゃないでしょうね?」


 怪訝そうに細めた目で睨まれて泰伯は少しだけむっとした。泰伯にそういうつもりはないし、そもそもそんなことをすると思われているのであればそれだけで我慢がならないのが泰伯の性分なのである。

 しかし仁吉の言わんとしたのはそういうことではない。


「ええ、そこの彼の言う通りですよ」

「貴女までなんですか? 僕たちは逃げないと思ってああいう提案をしたんじゃないんですか?」

「あのな、僕が言いたいのは逃げろとか……。まあ、それならそれでいいんだが、そうじゃなくてさ。逃がしたついでに裏に回って壁ごと壊して奇襲でもしてくれって話だよ。お前がどう動いてもいいように気を張り続けてた僕が馬鹿みたいじゃないか!!」


 あ、と泰伯は間抜けな大口を開けた。

 どうやらそういう発想がまるっきりなかったらしい。


「すいません、少しでも早く戻ることしか頭にありませんでした」

「……もういいよ。今さら謝っても手遅れだしな。――死んだら祟ってやるぞ」


 投げやりに言って仁吉は鉤爪を構える。

 その瞬間に格技場の床が切り裂かれた。

 仁吉はその斬撃を防ぎつつ、次の一撃が来る前に凰琦丸に近づいた。

 その横を泰伯が走る。

 しかし二人の武器が届くより早くに凰琦丸の追撃が来た。そのタイミングで二人は、互いに相手の武器を蹴って相手の体を真横に飛ばす。そうしてすぐに体の前で武器を構えて斬撃を防いだ。

 衝撃までは相殺しきれずに吹き飛ばされるが、体が斬られないことが第一なのでこれでよい。

 そしてこの形こそが二人の当初の目的でもあった。


「なるほど。流石に心得ていますね」


 左右に離れた二人は体勢を立て直すとそのまま左右から凰琦丸へ突撃していく。

 そうして、常にどちらか一人は凰琦丸の死角にいるような位置取りを心掛けながら攻め立てていった。


「先輩、僕には一応、近づいたら拘束する手段があります。援護してもらえませんか?」

「……わかった」


 通信札で軽く段取り合わせだけをして二人はそのままひたすらに凰琦丸を攻め続ける。

 どんな手練れであっても一方に対処しながら死角からの攻撃を防ぐのは難しい。そして仁吉には風の刃を飛ばす“スパークス・ウィル・フライ”が、泰伯には無斬の射程を伸ばす遠隔斬撃があり、寄らずとも牽制することも可能だ。

 そうして二人は、片方が攻めている間にもう片方が死角から迫る。どちらかが追い詰められれば射程攻撃で凰琦丸の意識を逸らすという戦法を徹底しながら機をうかがっている。


「良い戦い方ですね。数の利を活かす術を心得ている」


 条件だけを見れば有利なのは間違いなく仁吉と泰伯だ。

 にも関わらず、攻める二人は決死であり、それを捌く凰琦丸には余裕の笑みがある。

 二人の技量が拙いわけではない。

 攻め方が手緩いわけでもない。

 二人の猛攻を受けて手傷の一つすら負わぬ凰琦丸の技量が異常なのだ。

 攻めの最中で仁吉はもう一つ警戒していることがある。それは凰琦丸が壁を背にしないように、ということだ。

 格技場の屋根は完全に破損して青天井になっている。だが壁はまだ亀裂こそ入っているが壊れてはいない。凰琦丸が立ち回りながら壁に近寄り、それを背に戦われると死角が消えてしまう。

 しかし凰琦丸はそうしない。出来ないのではく、それを狙う様子すらない。格技場の中央に陣取ったまま動かずに四方から迫り来る二人を迎撃している。


(くそ、余裕だな。普通なら――少なくとも僕ならそれを狙うんだが。しかもまあ、楽しそうにしやがって。本当にこいつ、この状況を、戦いを楽しんでやがる。それでいて細かいところに卒がない)


 それは泰伯も感じていることだった。


「どうします先輩? このまま続けても千日手ですよ?」

「そんな甘いもんじゃないぞ!! 駆け出しの棋士が飛車角落ちの名人とやってるようなものだからな。どっちか落ちたらすぐ崩れて押し負けるぞ」

「なるほど、言い得て妙ですね。ちなみに僕は飛車と角どっちですか?」

「お前よくこの状況でそんなこと考えられるな!?」


 叫び倒している仁吉に冷静にそう聞いてきた泰伯のこれを、豪胆と取るか危機感の欠落と取るか少しだけ悩んで仁吉はすぐにその思考を止めた。

 そんな下らないことに頭を回す余裕はないからだ。


「それで、実際どうします?」

「……どうもこうも、お前には近づいたら拘束出来る方法があるんだろ? ならお前のそれに賭けるよ。僕が援護してやるからさ」

「わかりました!!」


 泰伯は声を弾ませて言った。

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