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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter2“a*en**r b*ea*s *ein**r*ation”
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the chariot

「まずはこの中庭を脱することからせねばならぬの」


 蒼天の見るに、蛙の怪物の最も厄介な点はその体格の差でも口から吐き出される針でもなく、跳躍である。

 中庭という地理的条件は蛙の怪物が校舎の壁に張りついて縦横無尽に襲ってくるということに他ならない。


『ここを抜けるなら一階の渡り廊下からだな。あそこには壁がない。だがあいつがお前の思惑通りついてきてくれるかどうか』

「だから徹底的に挑発するのじゃ。それ射掛けよ!! 正し決して当ててはならぬぞ」


 蒼天はチャリオットの左側にいる兵士に命じて蛙の怪物に矢を撃たせ続ける。自身は手綱を握ってチャリオットを駆り、蛙の怪物に肉薄していく。

 蛙の怪物の口からは次々に針が放たれるが、それは右側の兵士が長物で防いでくれていた。来ることがわかりさえすれば、防ぐのにそう困難な攻撃ではない。


「さあさ、鬼さんこちら。手の鳴るほうへ」

『本当に手を鳴らす奴があるか!! 運転に集中しろ!!』


 蒼天は蛙の怪物を挑発するため、手綱から手を離して手を叩き始めた。サヤにとっては生きた心地がしない。


「問題ないぞサヤどの。ある程度であれば自動操縦が可能じゃからの。それよりもほれ――あちらさんはだいぶ、頭に血が回ってきたようじゃぞ」


 手綱を握り直した蒼天が顎で指したその先には、荒れ狂いチャリオット目掛けて一目散に跳びかかってくる蛙の怪物の姿があった。

 追いかけられているのを幸いとして、蒼天はそのまま中庭から脱する。無論、蛙の怪物もついてきた。


『それで、逃げたはいいがここからどうする?』

「うむ、どうするかの?」


 チャリオットを走らせながら蒼天は他人事のように言う。


『その背中に刺さっている針をもう何寸か深く押し込んでやろうか?』

「ふむそれは、針治療のようで利くかもしれんの」


 サヤは無言で針に手をかけると、本当にそれをぐりぐりと蒼天の背に突き刺した。急所に当たらないように注意こそしているが、痛いものは痛いので蒼天は顔を歪める。


「う、ぐ……。まさか本当にやるとは……」

『で、どうするんだ?』

「とりあえずは逃げの一手じゃ。奴の跳躍は厄介じゃが、平地での機動力こそが戦車戦の真髄!! さあいくぞ!!」


 機動力こそが真髄。

 その言葉の通り、蒼天は学校の敷地内を巧みに駆け回り蛙の怪物を翻弄していた。


「ところでサヤどのよ」

『今度は何だ?』

「先ほど触れさえすればと言ったが、どのくらいの時間じゃ? ほんの一瞬でもよいのか?」

『そうだな――』


 そこでサヤは背後を振り返った。

 逃げつつ、時折、矢で挑発しているチャリオットを血眼で追いかけてくる蛙の怪物を観察し、言う。


『あの量ならば、三秒というところか』

「了解した。ちなみにサヤどの、他に何か出来ることはあるか?」

『生憎とないな。身体能力が少し上がる程度のものだ。残念ながら私はそう大したものではないのでな』


 サヤは自嘲気味に言う。


「そうか。ならばサヤどのには戦車から降りてもらおう。余があやつを引き付けておくゆえ、その間に集めてほしい物がある」

『集めてほしいもの?』

「まあ、ここは一つ余を信じてくだされ」


 そう言うと蒼天はその、集めてほしい物を告げた。


『……おい。今言ったもの全部かき集めて持っていけっていうのか?』

「うむ、よろしく頼んだぞ。なに、だいたいは体育倉庫でそろうはずじゃ」


 そしてサヤを下ろすと蒼天は引き続き、蛙の怪物を挑発するようにチャリオットを走らせた。

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