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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter2“a*en**r b*ea*s *ein**r*ation”
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justice sword

 今の仁吉は、敵が顔見知りであることは歯牙にすらかけていない。

 それは仁吉が薄情ということではなく、そんなことを気にしている余裕などないからだ。


(この人は相手を倒すために全霊を注いでいて、勝つために躊躇いがなくて、戦うことが人生のすべてだ。戦うことを楽しんでる!!)


 仁吉を追い詰めながら、義華はずっと笑っている。そこから感じるのは純粋な歓喜のみだ。

 信姫もいつも笑っているが、あれは感情を隠すための笑みだ。もしかすると本当にただ楽しい時もあるのかもしれないが、少なくともその笑顔の理由は信姫の事情をはぐらかすためのものであると仁吉は見ている。

 しかし義華は違う。

 彼女は、戦うことが楽しくて、戦うことが大好きで、戦うために戦っているのだ。

 アスリートが試合で成果を出したり勝利した時に見せるような無垢な笑顔で仁吉を殺しに来ている。それが何よりも恐ろしいのだ。


「しかし退屈ですね、こうも逃げてばかりの敵を追うというのは。悪党は悪党らしく、威勢高々に攻めてきてくださいよ。兎のように逃げる敵を一方的に追い詰めるのは義に(もと)りますので」


 義華は急に手を止め足を止めて言った。

 その顔に笑みはなく、つまらなさそうな顔をしている。


「義、ですか。無抵抗の相手を悪党呼ばわりして一方的に攻め立てることが?」

「ええ。貴方は史上最悪の悪党の縁者ですから。その族を滅することなど皆やっていることですよ」

「無茶苦茶ですね。それが貴女の義なんですか?」

「無論ですとも。弱気を助け強きを挫く。そのために最善を尽くすことが義でなくて何だというのですか」


 その言葉はいかにも正義の味方らしい。

 しかし相も変わらず仁吉が義華から受ける印象はそんなものとは真逆であり、その歪さが余計に仁吉を怯えさせる。


「私はこれまで、いつも正しさを貫くために戦ってきました。故に貴方に対しても、せめての情けを与えましょう。苦しみも後悔も感じる間も無く息の根を止めて差し上げますよ」


 そう言って義華は再び剣を構える。

 仁吉もまた構えるが、勝ち目はおろか、生き延びるための光明すら見出だせない。


(せめてあの時の武器が使えれば――)


 あれ以降、一度も出すことすら出来ず、そもそもどういった由来で仁吉の手に収まった物かすらわからない虎の鉤爪。

 そんなものをあてにしたくなるほどに状況は切迫している。

 最も、仮に今すぐそれが手に入ったとしてきやすめ程度にしかならぬだろうという気持ちもある。

 義華にはそれ程に隙がなく、当然、油断や慢心といった気の緩みもない。


(これはまるで……)


 その時だった。


恒山(こうざん)の蛇の如し、だな』


 この緊迫した場に相応しくない、ひどく冷静な声を仁吉は確かに聞いた。

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