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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter2“a*en**r b*ea*s *ein**r*ation”
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the worst is yet to come_6

(くそ、死ぬ死ぬ死ぬ!! なんだよこれはふざけるな!!)


 新学期が始まってからの、わずか一月にも満たない期間の中で仁吉は何度も死に肉薄してきた。

 その度に九死に一生を得てきたが、それ自体は決して仁吉の実力というわけではない。

 大半が運だということを仁吉は自覚している。

 そもそも運勢という話をすれば、何故自分はこのような憂き目にあっているのかという思いも強いのだが、それはそれだ。

 ターグウェイの時には、最後まで信姫に踊らされていたような気がする。信姫は仁吉を巻き込むつもりではあったようだが、殺すつもりはなかった。

 蛇の怪物と対峙した時は、謎の虎に助けられたおかげではあるが、得体の知れない不気味さとそこから来る生理的恐怖はあれど、今にして思えばそこまで恐るべき敵ではなかった気もする。

 そう、あくまでそれは錯覚だ。

 毒の苦しみをより強い毒で上書きしているかのような錯覚でしかないのだが、それでも――今この瞬間に勝る命の危機ではなかったと思う。

 それほどまでに、変質した夙川義華は恐ろしかった。

 狭い校舎の中で長い刀を手足の如く器用に操り、風車の如く刀を振り回して仁吉を追い詰めてくる。

 一撃一撃の冴えが凄まじい。速く、(はや)く、鋭く、そして無駄がない。

 今の仁吉はずっと義華の間合いからさらに三歩離れた距離を維持し続けることを意識しているが、義華に背を向けずに後退しているため、気を抜くと間合いを詰められそうになる。


「足捌きは悪くありませんが、随分と窮屈そうですね。その靴はさぞかし不便でしょう? 裸足か足袋を常用しないとは、常在戦場の心構えが足りませんね」

「貴女のような相手に襲われる日常とは無縁だったものでね!!」


 坂弓高校は土足校であり、今の仁吉は運動用のスニーカーを履いている。元々はローファーを愛用していたのだが、前回の蛇の怪物との一件があり機動性を重視したものに変えたのだ。

 しかし義華の言う通り、仁吉の修めた武道の技術を活かすならば足袋か、すぐに裸足になれる靴のほうが好ましい。

 しかしながら仁吉はそんな現代にそぐわぬ靴で登校しようとまでら思えなかったのだ。


(だいたい武術なんて靴で生活するのが普通な現代じゃ非実用的なんだよね。サバットでもやれってのか!?)


 そもそも現代、それも日本に住む普通の学生にとって、実用性を求めて武道を習うという感覚自体が非現実的なのだ。

 仁吉にしても、武道を始めた理由は特撮ヒーローへの憧れからだったし、道場の外で戦うことなどまずあるわけがないとかつては思っていた。

 一度だけ例外はあったが、そんなことは起きても人生であと一回か二回だろうと考えていて、少なくともこのようなハイペースで、そして人外の怪物などと戦うなど思いもよらなかった。

 そういう観点で言えば、義華はこれまでの敵の中では一番人間的ではある。

 人間的な大きさ。

 武器を持ち、意志疎通が出来る。

 しかし、これまでの――否、人生で出会ってきたどんなものよりも恐ろしいと思う。

 刃物の恐ろしさ――否。

 技術の高さ――否。

 知己と同じ顔で、さっきまで普通に会話していた相手だから――否。

 それらはすべて服属的な要素に過ぎない。

 刃物を持っていても怖くない相手は怖くないし、剣の技術は凄まじいが――恐ろしいのはその本質のほうである。

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