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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter2“a*en**r b*ea*s *ein**r*ation”
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variegated plans_3

 うつらうつらとする意識の中で、音楽が聞こえた。

 荘厳なファンファーレから始まる演歌調のメロディ。いぶし銀な声で歌われる単純明快かつ直球で元気の出てくる歌詞。

 泰伯はそれで目を覚ました。


「まずい、学こおぶぉっ!!」


 檜風呂の中でである。

 その状態を理解しないまま、布団から起き上がるようにして体を起こそうとすると体勢を崩し後頭部から湯船に沈んでいくのは当然であった。

 なんとか起き上がり、飲んだ水を吐き出して音楽のほうを見ると脱衣場の泰伯の着替えの上に見慣れないガラケーが置かれていた。

 音楽はまだ鳴り続けている。


(ええっと……。どうなってるんだっけ? 確か僕は朝まで犾治郎に特訓に付き合ってもらって、犾治郎の家で風呂を借りて…………まさか、人の家の風呂で寝落ちた?)


 嫌な予感に冷や汗をかきつつも泰伯はそのガラケーに手を伸ばす。普段であればそのようなことはしないが、どうにもそのガラケーは泰伯に出させるために置かれているような気がしたのだ。

 開き通話に応じると、案の定聞きなれた声がした。


「おはよ、泰伯クン。気持ちよう起きれたか?」


 犾治郎である。


「なんで『あゝ人生に涙あり』なんだよ?」

「逆に泰伯クンはよぉその曲名知っとるな。聞いたことあっても曲名知らん人のほうが多い思とったわ。水戸黄門好きなん?」

「どちらかと言えば鬼平犯科帳のほうが――ってそうじゃない!! 自分の家の風呂で寝落ちした客を放っておいて外から連絡する奴がいるか!!」

「ここにおるで」

「今そういうのいいから。というか今何時だよ!?」

「十五時半」


 泰伯の顔から血の気が引いていく。

 今日は放課後に生徒会としての仕事があり、今からではとても間に合わないのを悟ったからだ。


「くそ、かくなる上は生徒会長の前で腹を切るしか……」

「んなアホなこと言うとらんでええからはよ学校来ぃや。今、大変なことになっとるから」

「……なんだって?」

「たぶん泰伯クンがこないだ負けた包帯の彼女やろな。動き出したみたいで、今こっちはしっちゃかめっちゃかや」


 そう言われた途端、泰伯はざっと体を拭くと大急ぎで着替え始めた。


「ふざけるなよお前!! もしかして、こうなることがわかってたのか?」

「今日あたりかもなとは思っとったよ。ただ確信はなかったしな」


 怒声を飛ばす泰伯に対して犾治郎はあくまで冷静だ。


「見当だけでもついてたならなんでなおさら僕を置いて行ったんだよ」

「役に立たんから」


 犾治郎はきっぱりと言いきる。


「僕はぎりぎりまで阻止に動きたかったから学校行ったけど、泰伯クンは索敵とかさっぱりやろ。それに寝不足で疲労困憊や。無理に連れてっていつ起こるかわからん騒動に気ぃ張り続けて肝心のとこで倒れられたら意味ないからな」

「そんなのは余計な心配だよ!!」


 電話越しにため息が聞こえた。

 そして、


「――戦い、甘く見んなや」


 剣を喉元に突き立てられているかのような鋭い声がした。


「漫画とかでよくあるわな。連戦に次ぐ連戦とか、既に消耗した状態で格上と戦う羽目になるような展開とかさ。――それで勝てるのは作り物だけや」

「……」

「泰伯クンには一つ、勝利のための最低条件を教えたるわ。十全の状態で敵と戦うことや。勿論、状況は待ってくれへんからな。常に万全なんてのは無理や。けど、少しでも近づけられるんならそのために努めなあかんねん。無駄に疲弊して休みもせず、それで勝とうとか無理に決まってるやろ」


 静かな声だが、電話の向こうの犾治郎は真剣な顔をしているのだろうというのは泰伯にはわかる。昨夜、泰伯の甘さを責めた時のようや顔をしているのだろうと用意にわかった。


「……そうだね。すまない、そしてありがとう犾治郎。すぐにそっちにいくよ」

「わかってくれたらええよ。そもそも、今回のことは僕の不手際もあるしな」


 その声は、いつもの朗らかな声だった。


「ま、生徒会長には後で謝ったらええやんか。誰だって失敗やうっかりくらいあるやろ」

「……今回のは君のせいだけどね」


 まだ少し恨みがましげな声で泰伯は呟く。


「んな根に持たんといてや。まだこっちかて火急ゆうわけちゃうし、一日くらい学校サボったからゆーて、それで人が死ぬわけちゃうて」

どうしようもない不幸を 人は運命と呼ぶ

信じがたい僥倖を 人は奇跡と呼ぶ


しかしこの世に運命などなく 奇跡もない


成功も失敗も

勝利も敗北も

総ては必然である


ただ我々に それを手繰り寄せる智恵はあれど

その結果を知る術がないだけのことだ

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