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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter2“a*en**r b*ea*s *ein**r*ation”
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the worst is yet to come_3

 午後の授業が終わり、仁吉は憂鬱な気分で自分の席を立った。

 ひたすらに気が重い。しかもそれが自業自得なのだから、余計に鬱屈としてくる。


「おや、どうしましたか南方くん?」

「――なんだい? 僕はもう君に無闇に突っ掛かるのはやめたんだ。不毛だからね」


 そんな仁吉をからかうように、信姫がやってきた。どうやら彼女は仁吉のことをからかって遊ぶ玩具か何かと思っているような気がする。


「あらあら、つれないですね。そんなつまらないことを言わないでくださいよ」


 優美な笑顔で言われて、しかし今の仁吉にはそれが余計に気分を暗くさせる。


「……じゃあ、僕の質問に答えてくれるのかい?」

「ふふふ、どうでしょう。私も人間ですのでもしかしたらうっかり口を滑らせてしまうかもしれませんよ」


 どの口で言うのだろうかと仁吉は思う。

 もし信姫の口がもう少しでも滑らかならば、たとえ新たな疑問が増えるだけだとしても仁吉の心痛は少しは減っているだろう。


「それで南方くんは今日はどんなお悩みですか?」

「悩んでる前提かい?」

「南方くんは苦労や心配がすぐ顔に出ますからね。普段からにこりとも笑わないくせにそうやって悩みばかり抱え込むから仏頂面が似合う顔になってしまうんですよ」

「……ほっといてくれ。無愛想は百も承知さ」


 少し拗ねたように仁吉は目を細める。

 愛想がない。何を考えているかわからない。それは仁吉がこれまでの人生でそれなりに他人から受けてきた評価である。人間関係に支障が出ない程度に改善したいとは思っているが、態度や行動に出すことは出来ても顔に出ることはない。

 聖火曰く、『何をやってもつまらなさそうな顔』で、妹の仁美曰く、『僕苦労してるんですよみたいなムカつく顔』らしい。

 ちなみに一部の後輩たちの間ではそんな仁吉も、クールでミステリアスという評価を受けていて好評なのだが仁吉はそんなことは知らない。

 だから余計に悩んで、またその苦悩が顔に出るという悪循環に嵌まっている。


「でもまあ顔の怖さで言えば蔵碓よりはマシだよ」

「あら、二軍が三軍を笑うような例えをするのはよくないと思いますよ」

「本当に口が悪いな君は!!」


 こういうやり取りもなんだかもう、一年以上やっているような気がする。こちらから絡みにはいかないからせめて放っておいてくれというのが仁吉の本音だ。


「それで、結局何でお悩みなんですか?」

「……風紀委員と生徒会での学内見回りに欠員の代打で参加することになってね」


 観念したように仁吉は言った。


「なるほど。それで風紀委員長か副委員長か、どちらの女の子と一緒に回るか悩ましいと?」

「……別にその二人ならどっちでもいいんだよ。気心が知れてるからね」


 信姫の冗談を軽く流す。


「では妹さんと二人で見回るのが憂鬱だと。ひどいお兄さんですね」

「……なんで僕さえ今日知ったことをさも当然のように知ってるんだい君は?」


 そう、これは仁吉もつい先ほど知ったことなのだが、妹の仁美(ひとみ)は風紀委員に入っていたらしい。

 一週間前の騒動の時に聖火と一緒に行動していたのはそれが理由らしく、しかもその話を今まで誰も仁吉にしてくれなかったのだ。


「兄妹は大切にしないといけませんよ」

「まあ、それはそれで気まずかったろうけどさ」


 だがここでも信姫の推測は外れた。

 そこで信姫のほうが急に真顔になる。


「そうなると――もしかして南方くんの相手って」

「そうだよ。夙川(しゅくがわ)先生」


 夙川(しゅくがわ)義華(よしか)

 体育教師であり剣道部の顧問であり風紀委員の顧問。そして、仁吉たち三年一組の担任の女性教師である。


「……どうしてそんなことになったのですか?」


 義華の話題が出た途端、信姫に先ほどまでの楽しそうな表情はない。むしろ真剣に仁吉に同情しているようである。


「欠席してる生徒会の人間ってのが剣道部でね。だからそこはその二人で回ってもらう予定だったらしい」

「剣道部で生徒会というと茨木くんですか。それは茨木くん――上手く逃げましたね」

「全くだ。あの人は顔は優しそうだし普段から怒らない人だけど、なんかこう、目が合うと思わず背筋が伸びる……いや、そんなもんじゃないな。心臓が少し縮むような心地がするんだよね」

「剣道部でもそんな感じですよ。ちなみに竹刀を持つと圧が三倍になりますね」


 信姫の表情は真剣そのものだ。嘘でもいいからいつものように冗談めかして言って欲しいと、仁吉は心の底から思った。


「持つんだよ竹刀!! 今令和だぞ!? 生徒指導が竹刀持って校舎歩くような時代じゃないはずだろ!!」


 そう叫んでいる最中、信姫は自分の鞄から何かを取り出した。それは上等そうな木箱である。


「これあげます。藤雀堂(とうじゃくどう)のわらび餅。よければ食べてください」

「……いいのかい?」


 藤雀堂とは坂弓市に古くからある和菓子屋である。創業三百年という歴史を誇り、未だに高級和菓子店として市外から客が集まるという超人気店であった。


「ええ。これは表裏ない南方くんへの激励です。どうか普段のことは忘れて素直に受け取ってください」

「……君がそんなに深刻になるなんて驚いたよ。御影さんにも怖いものってあるんだね」


 仁吉は、今日ばかりは素直にその好意を受け取ることにした。


 そして信姫は仁吉の言葉に、


「私だって人の子ですので」


 と低い声で言った。

御影(みかげ)信姫(しき)

家族構成:父、母

誕生日:6月6日

部活:剣道部 委員会:無所属

好きなもの:出汁巻き卵、ミステリ、日本刀、■

嫌いなもの:■■■■■、■■、正義、雷

備考:画伯

 黒髪ロングの美人で家がお金持ちな高校三年生。剣道部部長。上品でおしとやか、常に敬語で話す大和撫子。学校にも着物を着てきている。

 図書委員長の千里山早紀とは小学校からの友人。早紀のことを変わり者と思っているが早紀からは面白い女と思われている。

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