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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter2“a*en**r b*ea*s *ein**r*ation”
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what's your soul name?_2

「何者じゃ? 余は相席を許した覚えはないぞ」


 不慮の珍客に対して蒼天は険しい目つきを向けた。


「そうか。それは済まない。何せ俺は出てこられる時が限られているのでな。唐突と無礼は許してもらいたい」

「出てこられぬ、か。まるで幽鬼か何かのような物言いをするの。顔を隠しているのもそのあたりの事情が関わっておるのか?」

「ああ。今の俺はある人物の体を借りて意識を顕現させているに過ぎない。迂闊に顔を晒せばこの体の持ち主に迷惑が掛かる」

「ふーん。その言い方じゃと、無断拝借という感じか。その体の持ち主とやらも難儀じゃの。道義について説ける余ではないが、せめて返す時には利息くらい払ってやるがよいぞ」


 蒼天は食事を取りながら、左目を瞑って右目でフードの人物を睨んだ。

 目の前のこの相手が何の目的で蒼天に接触してきたのか蒼天は測っている。おそらく敵ではない、とは思っている。そうならばわざわざ声をかけずとも気づかれる前に攻撃を仕掛けてくるはずだ。

 むしろ、顔を隠し素性を明かさない割にはやたらと饒舌で、明かせぬことは明かさぬ代わりに出来る範囲で誠意を見せてくれるようにも感じられる。

 しかし、だからと言って蒼天がフードの人物を信用するかというのはまた別だ。


(此奴は――物凄く、胡散臭い!! はっきり言って敵のほうが遥かに良い!!)


 蒼天はとある経験(・・)から、フードの男に近しい雰囲気の味方をよく知っている。

 つまりフードの人物は、今は間違いなく蒼天の味方なのだ。しかしそれは蒼天個人の味方というわけではなく、蒼天の姿勢、立ち位置、目的を鑑みた結果、同じ方向を向いているが故に味方であるにすぎない。


(かつて余の見た者らは保身のためにそれをやっておった。しかし此奴は別に余に庇護を求めておるわけでもなければ、余の力を当てにしているわけでもない。むしろ独力でも不都合があるわけではなく、そして――もし余の道が此奴の思惑と違えることがあれば躊躇も慈悲もなく余を殺すであろう)


 一番タチの悪い相手だ、と蒼天は思う。

 味方ではあるが信用は置けず、敵ではないが警戒しなければならない。それでいて実力差がどれくらいあるのか底が知れない。

 どうするべきか、考えて――黙り込んでしまった。


「どうした、三国蒼天?」


 沈黙を続けたせいか、訝しまれてしまった。


「……いや、なんでもない。少し考え事をしておっての。こうなると口数が少なくなるのが余の悪癖なのじゃ。許せ」

「それは構わないが、そのまま三年間も黙り続けるようなことはしてくれるな。そんな余裕はないぞ」


 その言葉に蒼天は心の中で舌打ちをした。

 先ほど、最初に掛けた言葉でも少し思ったことだが、今の言葉で確信した。この人物は蒼天の(・・・)魂の正体(・・・・)を知っていると。

 ここまでは思考を口にしないまま、駆け引きをするつもりであった。

 しかし流石にそろそろ、堪忍袋の緒が切れた。不愉快である上に、身の危険を感じたからである。


「おい、流石にせめて名乗らんか。貴様が何者かは知らぬが、鬼名(・・)を知っているということがいかなることかはわかっておるであろう。それを遠回しに突きつけおって。今の言葉を挑発と受け取ってもよいのじゃぞ」


 蒼天は珠を左手に握り、立ち上がってフードの人物を睨みつける。


「――そうだな。済まなかった」


 謝りはしたが、感情の窺えない姿である。

 当然、蒼天の機嫌は直らない。


「謝罪はよい。名乗れと言ったであろう」

「――船乗りシンドバッドだ」

「思いっきり、偽名か仮称であろうが。余は呼び方を教えよと言ったわけではないぞ。鬼名(・・)を教えよと言ったのじゃ」

「不誠実は承知だ。だがこれ以上を名乗るわけにはいかん。今はこれで勘弁しておいてくれ」


 その言葉で蒼天の腹は決まった。


「――そうか。ならばもう余の目の前から去れ。次に現れた場合、容赦なく余の敵と見なすぞ」


 その言葉に、流石に船乗りシンドバッドは少し考えこんだ。

 そして――。


「……わかった。ならば話しておこう。ただし他言はするな」


 ここで蒼天と敵対は出来ない、あるいはしたくないというのが船乗りシンドバッドの下した判断のようである。

 その迂遠さが少し癪に障るが、厄介なら厄介なりに、今のうちから無闇に敵対したくもないというのもまた蒼天の本音であった。


(――敵対するにしても、せめて何かしら此奴の情報を得てからじゃ。例えそれが嘘であったとしても、嘘の内容から推測できることはあるからの)


 そして船乗りシンドバッドは言った。


「俺の鬼名は――」

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