the worst is yet to come
昼休み。
仁吉は読みかけの本を持って生徒会室へ向かった。
今日は取り立てて用事はなかったのだが、なんとなく気が向いたので来たのである。
一応、昨日は由基とのつなぎもしてもらったのでその礼も言わなければならない。
(しかしこうして考えると、確かに騎礼の奴の言うとおり生徒会に顔出す割合高いよな僕。さて、今日はあいつがいないといいんだが――)
そんなことを考えながら生徒会室へ行くとそこには先客がいた。
風紀委員長の雲雀丘紀恭である。背筋をピンと伸ばし、真面目な顔つきで蔵碓と話していた。
「ごめん、取り込み中だったかな?」
「いえ大丈夫です、南方保険委員長」
よく通るはっきりとした声で紀恭が言った。
「打ち合わせの最中だ。だが……」
そこで蔵碓は少し困ったような顔をした。
「ああ、月イチの生徒会と風紀委員の合同見回りか。確か今日だっけ?」
去年、蔵碓と紀恭が生徒会長と委員長になってから生徒会と風紀委員は月に一度、合同で校舎の見回りを行っている。
風紀委員の人手不足が主な理由であるのだが、蔵碓としても校内事情や生徒たちの様子の把握が出来るからと積極的だった。
「本来は私と茨木くんで参加する予定だったのだが、茨木くんが欠席していてね」
「鬼の霍乱か? あいつなら這いずってでも来そうなものなのにな」
「私もそう思うのだが……連絡すらつかなくてな」
蔵碓の顔は純粋な心配である。
仁吉も泰伯の性格は知っているのだが、確かに連絡もなしに休むような人間ではない。
「あいつ今頃、詰め腹でも切ってないだろうな?」
「そういう物騒なことを言うのはやめたまえ仁吉」
仁吉の何気ない言葉を蔵碓は真剣な顔で窘める。
それは何気ない言葉だが仁吉にとっては真面目な意見であり、そしてもしかしたらそうかもしれないという妙な義理堅さが泰伯にはある。
「茨木一年生に聞いたところ、彼女も心配していた」
「うん? あー、妹さんいるんだったっけ?」
紀恭の言葉に一瞬、仁吉は困惑したがややあってその意味を理解した。
「はい。帰りが遅くなると連絡を寄越したきり音信がないと。しかしそれは私たちが今心配したところでどうにもなりません」
「まあね。あいつなら、まあ死んではいないだろうという確信はあるよ」
紀恭の言葉に仁吉は、澄ました顔で言う。
それは仁吉にとっては実に複雑な心境なのだが、しかし間違いなく心からの言葉でもあった。
「しかしまあ、要するにあれか。あいつの穴をどうやって埋めるかみたいな話だろう。小林さんや桂さんはあれとして、左府は……駄目だな」
「ご自分で言ってそのまま否定しないでください。門戸厄神一年生はナシです」
仁吉と紀恭の意見は辛辣だ。蔵碓は口にこそ出さないものの、二人の言葉に異論を挟みはしない。
「よろしければ手伝ってはいただけませんか、南方保険委員長?」
紀恭が仁吉に言った。
蔵碓は、流石に仁吉を巻き込むことに抵抗があったのか口を出そうとしたが、
「いいよ」
その前に仁吉は即答していた。
「仁吉、いいのか?」
「今日の放課後は暇だからね。あいつの穴埋めというのはいささか癪だけど……ま、かわいい妹弟子の頼みだ」
仁吉はちらりと紀恭を見る。
仁吉は武道を習っておりその師範は紀恭の父親なのだ。そして紀恭もまたその門下生であるため、仁吉にとって紀恭は同門の後輩でもある。
「ところであいつ、とは?」
蔵碓は眉をひそめて訊いた。
「えー、あー……左府のやつだよ」
仁吉は明後日のほうに目をやりながら、投げやりにそう答えた。
雲雀丘紀恭
家族構成:父、母
誕生日:12月14日
部活:歴史研究会 委員会:風紀委員委員長
好きなもの:聖火、ルービックキューブ、おでん、猫
嫌いなもの:お化け屋敷、辛子、暴力、犬
備考:石田三成推し
坂弓高校委員会における唯一の二年生委員長。そうなった理由は単に成り手がいなかったからというだけ。とはいえ校則が厳しいわけではないので風紀委員としての仕事はそう多くはない。
真面目で堅い喋り方をするが時おり思い込みが激しいところがある。
家が武道の道場であり仁吉は兄弟子。異能、術式が絡まない戦闘能力(武器はあり)ならば作中1。
聖火に甘い。