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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
prologue1 “is *** p**n*e*s o* **t?”
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monster roar

覇城(はじょう)じゃないか」

「ああ、仁吉か。珍しいな、一人なんて」


 仁吉が繁華街で会ったのは蔵碓と並ぶ古い付き合いの友人であり、蔵碓とは違う方向に堅苦しい話し方をする男である。

 体育委員会委員長、西山天王山(にしやまてんのうざん)覇城(はじょう)

 蔵碓と同じく180センチはある大柄な体に、きっぱりとした目鼻立ちと逆立った髪が特徴的な人物である。


「そうもあるまい。俺とて、一人で無聊を過ごすことくらいはあるさ」

「そうか? いつも大体、後輩を従えているくせに」

「誤解を招く言い方はやめろと言っているだろう。ただの体育委員としての業務だよ。先輩後輩は主従も同然、などという時代ではあるまいに」

「ならその唯我独尊な喋り方をどうにかしろよ」


 はっきりと通る声に、普通に話していても高圧的。覇城は普段からそのようや話し方をしており、そして委員長としては直接的な作業は何一つ行わない。しかし出す指示は的確で、仕事の割り振りや教師や他委員会との交渉などはしっかりと行うため、委員会として仕事が滞ることはない。

 委員会の中でも不満は起こらず、むしろ喜んで指示の通りに動くものだから、体育委員会は他の生徒たちの間では『覇城王国』と呼ばれており、それを束ねる覇城は王様と渾名されている。


「俺は至って普通だぞ。ただ、委員長としての責務を果たしているにすぎない」


 当の覇城はそんな渾名のことなど知らず、自分の言動にも無意識だ。無意識のままに他人を手足の如く使い、委員会を円滑に運営し、不満を感じさせない。

 蔵碓がトップとして、行動で見せるタイプなのとは対極である。足して二で割ればちょうどいいのだが、と仁吉はいつも思っている。


「まあ、お前はそれでいいよ。それで、そんな普通のお前はここで何してるんだ?」

「夕飯をどこかで食おうと思って店を探していた」

「奇遇だね、僕もだ。どこかで一緒に食べるか?」

「無論いいぞ。何が食いたい?」

「そうだな……。もう、ラーメンとかでいいんじゃないか?」

「それなら月華天翔(げっかてんしょう)にしないか?」

「ああ、いいな月華」


 月華天翔とはこの近くにある町中華の店で、値段は手頃で量が多く、学生に評判のよい店である。一番人気のメニューは炒飯なのだがラーメンも美味しく、外れのない店だった。


 **


「そういや覇城はさ、生徒会長やろうとは思わなかったのか?」


 月華天翔に行き、各々好きなものを頼んで、料理が来るまでの時間。手持ち無沙汰になった仁吉はふと覇城に聞いた。


「俺がか?」

「うん。たまに思うんだよ、お前と蔵碓は役職が逆じゃないかなってさ」

「それは、何故だ?」

「だって体育委員会と生徒会ならどうしても生徒会のほうが見るべきところもやることも多くなるし、出す指示も複雑になってくる。それに、体育委員は基本的に体力仕事だから蔵碓のほうが向いているんじゃないかと思ってね」

「言わんとすることはわかるぞ。あいつの行動力は美徳であるが悪癖でもある。しかし俺はしょせん凡俗なのでな、興味のない他人に心を砕くことは出来ん。そんな奴が、生徒の代表などやってはいかんだろうさ」


 覇城の言い分には一理あった。

 仁吉から見ても、その見方で言うならば覇城は生徒会長には向いていない。覇城の求心力はあくまで体育委員会の中だけの話で、その他の生徒たちにまでは及んでいないだろう。

 また覇城も、委員長という肩書きがあるからこそ、委員の人間に対して責任を負ったり気をつかうことは出来ても、それ以外の人間にまでそれを広げることはしない、いや出来ないのだろう。


「お前の言う向き不向きは表面的なことに過ぎんさ。根本の部分で適正のある者が務めるのが生徒のためというものだろう」

「まあ、それはそうかもしれないが……」

「心配せずとも、蔵碓のやつはしっかりやっているさ。友としても、立候補を勧めた身としても、鼻が高いぞ」


 覇城がそう言った瞬間、仁吉は凄まじい、鬼のような形相で覇城を睨んだ。


「……なんだって?」

「うむ、だから友として蔵碓が誇らしいとだな」

「その後だよ!! 立候補を勧めたってなんだよ? 初耳なんだが!?」

「む、そう言えば言っていなかったか? 去年の生徒会選挙の時に俺が蔵碓に言ったのさ。お前は生徒会長になるべきだとな」

「お前か諸悪の根元は!! おかしいと思ったんだよ、あいつそれまで生徒会なんてやってなかったのに急に選挙に立候補とかしだしたのがさ!!」


 坂弓高校の生徒会、委員会には暗黙の了解として、副会長、副委員長は二年生に務めさせ、委員長である三年生が引退したら副会長、副委員長が次の会長、委員長になるというものがある。

 現に今の坂弓高校の委員長は一部の例外を除いて全員が三年生であり、副委員長経験者だ。そして蔵碓はその例外の側である。


「あいつならば務まると思ってな。それに、如水(じょすい)から生徒会長は家の都合で出来そうになくなったからと相談も受けていたんだ」

「……あー、そういうことか。そういやあいつ、立候補すらしてなかったな」

「うむ。生徒会長は多忙だ。いかにそういう流れがあるからといって、全うできない者が無理にやるのはよくないだろう」

「言われてみると、引き受けたはいいけど副会長でもけっこういっぱいいっぱいだったなあいつ。委員長会議に欠席したこともあったし」


 一年前のことを思いだしながら、仁吉は大方の事情について納得はした。

 それはそれとして、こういった経緯の話を今まで知らなかったと思うと、蔵碓と覇城に対して少しだけ釈然としないものを感じてもいる。


「ま、そういうわけだ。お前はもう少しあいつを信じてやれ。昔からお前は、あいつに対して些か杞憂が過ぎる」

「自覚はあるよ。それはそれとして、いつか杞憂が杞憂で済まなくなりそうで怖いんだよ」

「傍で支えるだけが友ではない。信じて見守るのもまた友だ。後進を育てる時にも言えることだぞ」


 そう言われると思い当たることはある。

 きっと自分は心配性で、その場にいなかったり関われなかったりするというのが落ち着かない性分なのだろう。そういう意味では自分も蔵碓寄りで、だからこそ蔵碓の無茶を見ていられないと思うのかもしれない。


「……お前のそういう肝の据わったところ、羨ましくもあるよ」

「む、なんだかよくわからんが、友に褒められて悪い気はしないな」

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