sorry,if I kill you_2
犾治郎の口から出た見知らぬ単語に泰伯は首をひねる。
しかし八という数字には引っ掛かるものがあった。それはちょうど、泰伯がこれから戦うことになるという不八徳と同じである。
「なんや、シンドバッドのやつそんなことも話しとらんのか? 存外にええかげんやな」
「聞いてないね。というか、彼のことを知ってるのかい?」
「ああ、知っとるよ。ここもあいつに教えてもろたからな。というかあいつが八荒剣の一応のまとめ役みたいな感じやしな」
「……だから何なんだい、そのハッコウケンって?」
泰伯は段々いらいらとしてきた。
秘密主義で説明不足なのは船乗りシンドバッドも同じはずなのだが、表面上は友好的で愛想がいいくせにのらりくらりとされると腹が立ってくるのだ。
その感情は目に見えるほどに明らかなのに犾治郎は特に態度を変える様子もない。そのことが余計に泰伯の怒りに拍車をかける。
「せやな。じゃあこうしよか」
「……なんだい?」
「今から勝負して、僕に勝てたら教えたるわ。どうせ練習相手欲しかったんやろ?」
「本気か? こっちは抜き身の剣を使うんだぞ?」
泰伯は真剣な表情で言う。
しかし犾治郎はなおもへらへらとしていて、
「問題ないて。そうやないと修行にならへんし――」
と言って、そこで真顔になり、
「殺す気で来たとこで、茨木クン程度には殺されへんよ」
思わず背筋が凍りつきそうになるくらい低い声で言った。
その言葉は虚勢でも何ではない。そう思わせる気迫が犾治郎にはある。
「ほなさっそくやろか。“伏せろ”――朔」
その言葉と共に犾治郎の持っていた珠が形を変える。変化したそれは刃渡りが七十センチくらいの普通の剣であり、強いて特徴的なところを挙げるなら柄の左右に二つずつ、錫杖の遊環のような金色のリングがついていることくらいであった。
犾治郎は剣を軽く振って地面を撫でる。
シャラン、とリング同士が触れあう音が響き――。次の瞬間、そこにあるものが現れた。
「それは……連弩か!!」
「流石、博識やねえ」
連弩――それは棺くらいの大きさの木の台に弓を寝かせてつけたような形状の兵器である。西洋ではバリスタとも呼ばれる固定型の兵器であり、その形の通り矢を放つためのものである。
そして連弩の特徴は連なるという字の如く、一度に複数の矢を放てることにある。
今、犾治郎の出した連弩には矢が十本つがえてある。
泰伯と犾治郎の距離は五メートルもない。泰伯は一目散に森の中へと走った。
逃げる泰伯の背に目掛けて、十本の矢が降り注ぐ。
「“虚を断て”――無斬!!」
すぐさま泰伯も無斬を出してそれらの矢を切り落とす。しかしその時にはさらに三つの連弩が新たに犾治郎の前に産み出されていた。
「ああそうや、殺されへんとは言うたけどやな」
犾治郎は剣――朔をくるくると右手で玩びながら言う。
「間違えて殺してもたらごめんな」
それは、世間話をしている時と変わらない気楽な調子であった。