sorry,if I kill you
鍛練中の泰伯に声をかけてきたのは、泰伯の去年のクラスメイトである正雀犾治郎だった。
犾治郎は帰宅部だったと泰伯は記憶している。
記憶違いか、今年から何かの部活に所属したとしても、この時刻にこの場所にいることには違和感がある。
何故なら日の暮れた後の裏山で一人、剣を振るっている泰伯の状況がそもそも普通でないのだからだ。
「どしたん茨木クン? ああ、ごめん邪魔したかな? ま、そこは大目に見てや」
仮に何か用事があったりしてこの場に居合わせたのだとしても、出てくる言葉は泰伯の行動を不審がるようなものになるはずだ。
しかし犾治郎はこの状況に何の疑問も持たず、落ち着いた様子で話しかけてくる。
疑問を持つようなことはないと言っているようで――いや、泰伯の状況はすべて解っていると言わんばかりの余裕がある。
「困ってる、っていうのは……どこを見てそう感じたのかな?」
泰伯はおそるおそる聞いた。
「ああ、困っとるゆうのは少し言葉が不適切やったかな? 正確に言うなら――行き詰まっとる、ってとこか?」
「……っ!!」
泰伯は思わず息を呑む。
犾治郎は間違いなく泰伯のこれまでの行動を見ていた。無斬を展開していたところも含めて。その上で、それらを不思議な現象としてではなく鍛練と認識し、しかもそれが個人で行う訓練として限界に来ていることまで見抜いているのだ。
「……正雀君。君は、何者なんだい?」
そう訊かずにはいられなかった。
そこには不審と警戒と、そして期待がある。もしかすると犾治郎は自分と同じような境遇にいるのかも知れないと――。
「何者かて言われても。そうやな――」
そう言って犾治郎は懐からあるものを取り出した。
それは、泰伯の持つそれによく似た珠だった。ただしその色は淡い青色をしていた。
「茨木クンと同じようなもん、てとこかなぁ?」
「ということは、君も――これを武器に変えて、戦う人ということかな?」
「ま、そんなとこやな。それに一応、茨木クンよりは覚醒したんは先やで」
手の平の上で珠をくるくると回しながら犾治郎は言う。
「そうなのかい?」
「うん。こないだのグラウンドの戦いも、旧校舎前の戦いもちゃんと見とったよ。危なそうなら手ぇ出そうかなと思たけどまあ大丈夫そうやったしな」
「……出来たら、手伝って欲しかったかな」
泰伯は犾治郎を睨む。蜘蛛の怪物といい包帯の女といい、結果的に生き残れはしたが楽勝というわけではなかった。
「ま、それはごめんな。ただ、グラウンドのほうは本当に大丈夫や思てたけどもう一つのほうはちょっとこっちにも事情があってな。出来たら出ていきたなかってん」
「事情?」
「すごい個人的なことや。あんま深ぉ訊かんといて」
話ながら犾治郎はずっとにこにこしている。
感情が読み取りにくく、やりにくい。これならばあの包帯の女のほうが、顔が隠れていてもよほど感情豊かだったとさえ思えてくる。
「それで、暗躍とかくれんぼの好きらしい君が今になって出てきた理由は何なんだい?」
「そりゃもちろん。茨木クンの修行を手伝ったげよう思てな。ほら、僕ら友達やろ?」
「……友達、かな?」
「んなつれないこと言わんといてーや。同じ八荒剣同士、仲良うしよや」
「ハッコウケン?」
正雀犾治郎
家族構成:母、姉
誕生日:5月5日
部活:無所属 委員会:無所属
好きなもの:刺身、コーヒー、兵法書、オセロ
嫌いなもの:大根おろし、博打、幽霊、洋楽
備考:胡散臭い
関西弁で話す眼鏡をかけた高校二年生。泰伯とは一年生の時のクラスメイト。
親が関西人なので自然と関西弁を話すようになったが関西に住んでいたことはない。