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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter2“a*en**r b*ea*s *ein**r*ation”
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they dream about archer_2

 夢の話を聞きに行くために仁吉が向かったのは弓道場だった。

 弓道部に所属している二年の生徒が、噂の変わった夢を見たという話である。

 蔵碓に連絡をしてもらい、部活動が終わる時間を見計らって弓道場につくと、そこにいたのは右目にモノクルをかけた長髪の男子生徒だった。

 彼の名は西向日(にしむこう)由基ゆうき。体育委員の副委員長でもあり、委員会会議の時に仁吉と何度か話したことがある。


「こんばんは、南方先輩」

「悪いね西向日くん、部活終わりに」

「大丈夫ですよ。どのみち今日は顧問の先生もいらっしゃらないので軽く自主トレしてたくらいですので。片付けるようなことはほとんどないんです」


 由基はそういって笑った。

 人当たりがよくて話しやすく、基本的に真面目な後輩。そして何よりも、王様と渾名される覇城の下で副委員長をやれているという点は先輩後輩の関係を超えて尊敬に値すると思っている。


「覇城の下はどうだい? 最近は何か大変なことは?」

「特にないですよ。慣れればあの人の下はすごく楽ですからね」

「でもあともう半年もしたら君が委員長になるんだろう? そっちのほうは大丈夫そうなのかい?」

「そうですね。今のうちに委員長をよく見て、他人を効率よく使うやり方を学ぶことにします」

「別にあいつのやり方を真似る必要はないだろう? 君は君のやりやすいようにやればいいんだからさ」

「それはそうなんですが、たぶん僕にとっても委員長のやり方に倣うほうが楽そうなので。やることだけ指示して何かあったら対処して、あとは適当にやっておきますよ」


 由基はそう言うが、由基の言う適当とは無責任ということではない。少なくとも覇城は、他人に指示を出すばかりで実働的なことは一切やらないが、自分の指示やその結果に対してはすべての責任を負っている。由基がそのスタンスを正しく理解して覇城に倣うのであれば問題はないだろうと仁吉は思った。


(あいつの人を見る目は……まあだいたい確かだし、あいつが副委員長を任せてるってことは次期委員長になること込みだろうから問題はないだろ)


 そんなことを考えながら、雑談はこのあたりで打ち切ることにした。

 部活終わりの時間を割いてもらっている以上、あまり長く引き留めてしまったら由基に悪い。


「それで、本題なんだけど……いいかな?」

「はい、夢の話ですよね。しかし南方先輩、あまりそういう噂とかは興味なさそうですけどどうしたんですか?」

「あー、そうだね……」


 しまった、と仁吉は思う。

 今の自分は柄にないことをしているという認識がかけていた。少し頭を働かせて、


「保険委員の企画の一環でね。最近おかしな夢を見る生徒が多いって話だから、ちゃんと眠れていない生徒が多くて健康に悪影響が出ているなら快眠方法とかを調べて配布物か何かにしようかなと。だけどまだ実情がよくわからないから、とりあえず実際にその夢を見た生徒に話を聞かせてもらおうと思ってさ」


 あまりいい言い訳だとは思えない。

 時折言葉をつまらせながらの説明だったが由基は、


「そういうことですか。それならば喜んで協力させてもらいますよ」


 とにこやかに笑った。


「ああうん、そう言ってもらえるとありがたい」


 罪悪感はあるが、まさか本当のことを言うわけにもいかず、仁吉はそう言った。


「といっても、別に睡眠の質が下がったとか、起きた時に体がしんどいとか、そういうのはまったくないんですよね」

「本当にただ変わった夢を見ている、というだけかい?」

「はい。妙にリアルというか、筋道立っていて、まるで映画の中に入り込んだような気分がするといつか」

「明晰夢というやつかい? 自分な夢を見ているという認識をはっきり持てるという感じかな?」

「たぶんそれが一番近いんでしょうけれど、明晰夢とは少し違うようなんですよね」

「というと?」

「明晰夢というのは夢の状況を自分でコントロール出来るんですよね?」

「往々にしてそうだ、とは聞くね。僕は見たことがないからわからないけれど」

「でも僕は別に夢をコントロールしているわけではないんですよ。決められた通りに動いて、決められた通りのセリフを言う。言葉の意味はわからなくても疑いも違和感もなくすらすらと言葉が出てきて、何もわからないままに夢の中のストーリーが進行していくんです」


 なるほど、確かに奇妙だと仁吉は思う。

 蔵碓はこの夢について、他人の人生を追想しているようと言っていたがそれも頷けた。


「ちなみに、君が見る夢の人生っていうのはどんななのかな? 差し支えなければ教えてもらいたいんだけれど」

「構いませんよ。僕のは――弓兵ですね。それもかなり昔の」

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