they dream about archer
蒼天はその日の放課後、玲阿と忠江と共に駅前のショッピングモールに来ていた。
玲阿の部活終わりを待ってのことだったので少し時間は遅く、今は夜の七時ほどだ。
今日の目的は忠江が本屋に来たいと言い出したことなのだが、道中のペットショップで玲阿が可愛い犬を見つけたことで三人の足は止まった。
玲阿は展示してある子犬のケージの前に釘付けになってしまい、二人は玲阿が飽きるまでなんとなく店内を見回ることにしたのだ。
その中で蒼天はふとハムスターのケージを見つけた。
種類はジャンガリアンで、灰色の毛並みの混ざった小さな体でくるくると回し車を回している。
「……よいのうおぬしは。何もせずとも、そのように車の上で走っておるだけで食事がもらえて」
「ヨッチ、それ人生に疲れた三十代のリーマンとかが言うやつだよ」
「余もああして車をくるくるさせるだけで金か食事を生み出す術が欲しいものじゃ」
蒼天の目は虚ろで、声にも力がない。
「まだバイト見つかんないの?」
「……うむ」
「元気だせってー!! 人生なるようになるさー!! あ、それかいっそレアチのヒモにでもなるとか?」
「それだけは嫌じゃ!!」
と大声で怒鳴ってみたが、実のところ今の蒼天の状況は悌誉のヒモのようなものである。それをよしとしている蒼天ではないが、かろうじて蒼天の心を持たせているのは悌誉が年上ということである。
これが同い年であったなら蒼天はきっと最初に悌誉の申し出を拒絶していただろう。
「ま、そりゃそうだよね。てか言ったらレアチ本当に、よっちゃんは私が養うから!! とか言いそうじゃんねー」
「……そうなんじゃよな」
「というかそもそもなんでそんな躍起になってバイト探してんのさヨッチ? お小遣い少ない感じ?」
忠江は蒼天の事情を知らない。話すかどうか少し考えていたところ、
「ねえねえ、こんなん見つけたんだけどさ。可愛くない?」
ようやく玲阿が戻ってきた。
その手には猫をじゃらすのが目的らしいカエルのおもちゃを持っている。
それを見た瞬間、忠江は顔を真っ青にして蒼天の後ろに隠れた。
「ん、どうしたのじゃ忠江?」
「忠江ちゃん、大丈夫?」
「ちょ、レアチ……。早くそれ返してきて」
忠江の声からは普段の溌剌さがまるでない。
蒼天の後ろで服の裾を掴みながら目をつむっている。
「なんじゃ忠江。おぬし、蛙が苦手なのか?」
「……無理」
「あー。そうなんだ。ごめんね、戻してくるよ」
玲阿は申し訳なさそうな顔をしてそれが置いてあったところへと向かった。
忠江の顔はまだ青い。
「何かトラウマでもあるのか?」
「そーいうのじゃないんだけどさ。昔っからなんでかダメなんよね」
「ほう。ダメというとどれくらいじゃ?」
「……ドラッグストアの前のあの人形で気絶するレベル」
「アレルギーか何かかの?」
蒼天は忠江の背中をさすり、落ち着かせようとする。暫くして、忠江は少しずついつもの調子に戻っていった。
戻ってきた玲阿はまだ申し訳なさそうな顔をして忠江の様子をうかがっている。
「ごめんね忠江ちゃん。落ち着いた?」
「だ、大丈夫だよレアチ。次から気を付けてくれればいいからさ」
「……当初の目的通り、本屋にいくかの?」
「……そうだね」
蒼天と玲阿は忠江を挟んでその手を握ったり頭を撫でたりしながら本屋へと向かった。
「ところで忠江。どうして急に本屋に行きたいなどと言い出したのじゃ? 昼間も図書室で何か調べものをしておったようじゃし」
「あーね。そのさ、最近変な夢ばっか見るんだ。んでその夢が妙にリアルで気になって、夢について調べてんの」
「というと?」
「夢って基本的に自分の頭の中にある情報だけで完結するはずじゃんね? 知り合いとか行ったことがある場所とか読んだことのある本に出てきた情景とかさ」
「まあそりゃそうじゃの」
「でもさー、私が見る夢ってばなんかわけわかんないものばっか出てくるんだ。出てくる人も景色も物も全部ナニコレ状態なわけ。いくら夢が無意識だからって取っ掛かりゼロなのはおかしくない? と思って」
忠江の言いたいことを蒼天はなんとなく理解した。
確かに不自然なことではある。所詮は夢といっても、気にはなるだろうと。
「ところでどんな夢なんじゃそれ?」
「よくわかんなくてさ。なんか私と知らない男の人がこう……古くさい建物の中でずっと話してんだけどさ。話の内容はわかんなくて、私は……ハンウーとかいう名前で呼ばれてて、意味不明のまま起きたらなんか切ない気分になってる夢」
「……なるほど?」
「昨日のはそんな感じだったけど他にもパターンがあってさ。竜宮城みたいな豪華な宮殿の中で綺麗な着物着てたり、畑仕事してる時もあんだよね。もう謎だよ」
忠江は言いながら頭を抱えている。普段の様子を見ているといつもと変わらない様子だったが、彼女にとってこの夢はそれなりに悩みの種になっているらしい。
「こーいう変わった夢を見たって子、他にもいるらしいんだけどさ。二人はどう?」
「私は……あー、そういえば最近夢にイケメンが出てくる」
「レアチちょっと脳ミソ変えてくんない?」
忠江はいつになく真剣な顔をしている。
「……イケメンってどんな感じじゃ?」
今まで玲阿がそういう話をしているのをあまり聞いたことのない蒼天は、玲阿の好みの顔というのが気になった。
「そだね。えっと、背が高くていつも真剣な顔をしてて……」
「「ほうほう」」
「ちょっとお兄ちゃんに似てる!!」
「「このブラコン!!」」
茨木玲阿
家族構成:父、兄
誕生日:11月22日
部活:陸上部 委員会:無所属
好きなもの:走ること、甘いもの、カラオケ、兄
嫌いなもの:コーヒー、英語、剣道、尖ったもの
備考:音痴
天真爛漫な高校一年生。蒼天の一番の友達。蒼天とは中学からの付き合いでありその家庭事情も知っており悌誉とも面識がある。
少年ジャンプを愛読しており、推しは基本的に主人公であることが多い。ごくたまに例外もあるが。
茨木家には母親がおらず、中学生の頃から茨木家の家事――主に料理は玲阿が担当している。父や兄に任せると外食かコンビニ弁当かインスタントラーメンになるのでなるべく二人には任せまいと思っている。