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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter2“a*en**r b*ea*s *ein**r*ation”
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bad friend_2

 蜘蛛の怪物と遭遇し。

 無斬という剣を手にし。

 自分と同じような、珠を武器に変えて戦う戦士と出会い。

 船乗りシンドバッドから不八徳なる敵の存在を聞かされて。

 その日からおよそ一週間の間。泰伯は毎日、部活後に裏山で一人鍛練を続けていた。これが近頃の泰伯の疲労の理由である。

 泰伯が今いるのは裏山の中でも登山道を少し外れた場所である。ひょうたん池へと続く川が山頂から流れており、開けた河原となっている隠れた場所だった。

 ここで泰伯は一週間、毎日一時間、自分が手にした力と向き合い続けていた。

 この一週間で、泰伯は確かに自分の力の理解を深めてはいた。

 まず一つ。無斬は普段、黒い手のひらサイズの珠になり、“(うつろ)を断て”と叫ぶことで『無斬』となるということ。

 二つ目に、叫ばずとも珠を握って念じれば黒い木刀に変えることが出来るということ。

 そして三つ目に。珠を無斬に変えると、同時に肉体も今の体ではないものへ置き換えられるらしいということ。

 これが泰伯にとっては一番大きな発見だった。

 戦闘用の肉体に体が置き換えられると、それまでの生身の肉体が負っていた傷は引き継がれない。フェイロンとの戦闘で一度、無意識に経験したことではあるのだが、改めて知ることは大きな意義である。

 フェイロンとの戦いの時、泰伯は満身創痍だったのが無斬を手にして回復した。そしてその後は、無斬が消えても傷が戻ることはなかった。

 あの時の泰伯はそれを、無斬を手にしたことによる回復だと認識していたが厳密にはそれは少し違う。あれは体が置き換わったことで傷がない体になり、その間に生身の体の傷が癒されていたというのが正しい。

 そういった仕様を把握して、あとは無斬による遠距離の斬撃をひたすらに使いこなすために木や石を相手に試し斬りを続けている。

 練度は上がったと泰伯は自負している。

 しかしそれは、所詮付け焼き刃だとも自覚はしている。

 近、中距離の戦いに置いてはそれなりの成果を発揮するだろう。しかしそれは、推測の域を出ない。

 今の泰伯に圧倒的に足りていないのは稽古相手と比較対象である。

 結局のところ、泰伯が一人でどれだけ鍛練を積んだところでどのくらい強くなったのかという指標になるものがないのだ。

 あの日、旧校舎前で包帯の女に言われた言葉を泰伯は思い出す。


『異能の戦いに慣れていないな』


 ぐうの音も出ない指摘だった。

 泰伯の経験と言えばフェイロンと蜘蛛の怪物との二戦のみだ。そしてどちらも、無斬の力を正しく理解せず流れに身を任せる形である。

 無知ゆえの、蛮勇に似た勢いが有効に作用してしたところもあった。今再び戦って同じ結果になるとは限らない。

 しかしそんなことは、求めてもどうにもならない。

 袋小路にいるような閉塞感を感じながらも泰伯にはひたすらに鍛練をするしかない。

 そんな時であった。


「困っとるようやねぇ、茨木クン」


 声をかけられた。

 泰伯が振り向くとそこにいたのは、去年のクラスメイトである正雀(しょうじゃく)犾治郎(ぎんじろう)だった。

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