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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter2“a*en**r b*ea*s *ein**r*ation”
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strange rumors

 放課後。仁吉は生徒会室に来ていた。

 新学期が始まっておよそ半月。最初の頃はやることの多さに忙殺されていた生徒会も今はそれなりに落ち着いている。


「よく来たな仁吉。茶でも淹れようかね?」


 蔵碓にそう言われたとき、流石に仁吉は困惑した。今まで仁吉が生徒会室に来るときというと、それは大抵蔵碓が無茶をしでかしそうな時であり、そうでなくとも手持ち無沙汰なら自ら仕事を増やしにいくのが崇禅寺蔵碓という男だったからだ。


「……ありがたいけど、いいのか? やることはないのか?」

「今は少し落ち着いていてな。折角だから少し話し相手になってくれ」


 そう言われたので仁吉は素直に言葉に甘えることにした。


「それくらいでいいんだよお前は」

「む?」

「ちょっとキリキリし過ぎてたんだよ。どうした、誰かに怒られたのか?」


 仁吉に言われると蔵碓はばつの悪そうな顔をした。


「やはり仁吉にはお見通しか。実は、茨木くんと桂くんに言われてな」

「なんだよ、僕の忠告は聞かないくせにその二人の言うことは聞くのか。ちょっと傷ついたぞ」


 仁吉は少し拗ねたようにそっぽを向いた。

 その機嫌を取るように蔵碓は湯呑みに淹れた茶と煎餅を仁吉の前に置く。


「すまない。別にお前を軽んじているつもりはないのだ。ただ、そのだな……」

「なんだよ?」

「……顔が怖くて威圧的な和服の上級生がいる、と新入生の間で噂になっていると言われてしまった」


 蔵碓はうつむきながら肩を縮こまらせている。

 仁吉はそれで察しがついた。


「つまりあれか。仕事のし過ぎだから休めじゃなくて、一年がビビるから少し大人しくしとけって言われたのかお前?」

「…………うむ」


 蔵碓の声はその図体に反してとても小さかった。

 仁吉は既に見慣れたものだが、蔵碓はお世辞にも愛嬌のある顔とは言えない。

 彫りが深く、目が大きな精悍な顔つき。それでいて常に堂々としているため、威厳はあるが親しみやすさはない。物腰が低く、話してみると心安いのだが、遠巻きに見る分には怖がられても仕方がないだろう。


「ま、そういうことなら仕方ないな。確かにお前の顔は怖いよ」

「……私はこれから、覆面でもかぶって下級生の前に出たほうがよいのだろうか?」

「身長百九十の大男が覆面かぶってたら余計に不気味さが増すからやめとけ。それならまだ能面でもつけたほうがマシだ」

「なるほど、能面か」


 蔵碓は顎に手を置いて真剣な顔をした。


「……冗談だよ。二人に言われた通りにしばらく大人しくしておけ。みんなそのうち慣れ……気にしなくなるさ」


 そう宥めて、仁吉は話題を変えることにした。


「そういや最近、何か面白い噂とかないか? 変わった話とかちょっとした流行りとかなんでもいいんだけどさ」

「というと?」

「あー、ほら。なんだろな。七不思議とか学校の怪談的なやつだよ。定期的に流行って思い出したようにアップデートされるとりとめもない話とかないか?」


 仁吉がこんな話題を切り出したのには理由がある。

 蛇の怪物と戦った次の日。学校はいつも通りに平穏だった。

 まず奇妙だったのは、蛇の怪物が滅茶苦茶に破壊したはずの階段が何事もなかったかのように修復されていたことである。

 そして当然ながら、怪物を見たというような話も聞かない。何かあったと言えば、夕方ごろに野球部の生徒たちが熱中症か何かで倒れて救急車が来たというくらいだ。それにしても、四月中旬の、しかも夕方にというのが少し奇妙ではあるが命に別状があるものではないらしい。

 平穏なのはいいことだ。

 しかし既に二度も異形の怪物と遭遇した仁吉からしてみれば、それでも世界は事もなしというほうがいびつに思えてならない。

 一応、信姫にも聞いてみた。

 当然のようにはぐらかされた。


『南方くんは最近よく私に話しかけてきますが、もしかして私に気でもあるのですか?』


 少しいたずらっぽい笑顔でそう言われたときにどんな顔をしていたのか、仁吉は自分でもわからない。

 周囲にあまり人がいなかったからおそらく誰にも聞かれていないだろうということだけが救いで、あとは怒りでもなく呆れでもないもやもやとした気持ちだけがあった。

 とにかく、信姫を情報源にするのは無理だと仁吉はようやく悟った。

 かといって体験した話をそのまま他人にしても信じてもらえるはずもない。

 そう考えて思い付いたのが、妙な噂はないだろうかということであった。怪物や不八徳に繋がるような何かが怪談や七不思議、都市伝説という形で少しでも表に出ていないだろうかと考えたのである。

 陳腐な発想ではあるが他に思い付くことはなく、出来ることもない。ならばとりあえず手近なところから始めようとしたのである。


「そうだな。又聞きになるが構わないか?」

「別にいいよ」

「おかしな夢を見る生徒が多いらしい、と門戸厄神(もんどやくじん)くんが言っていた」

左府(さふ)が?」

「うむ」

「おかしな夢ってなんだよ? 化物でも出てくるっていうのか?」

「そういう類いの悪夢ではないらしい。どうも、その夢は他人の人生を追想しているようなものだ、というのだ」

「なるほど?」


 仁吉は首をひねる。

 蔵碓の説明がいまいちピンときていないのだ。


「つまりだな。違う国、今ではないいつかを生きた他人の人生を夢にみているような感覚らしい。といっても私はその夢を見ていないのでよくわからないのだが」

「なるほどね。そういう夢を見た生徒って誰がいるかわかるか? 出来たら僕の知り合いがいいんだけど、この際面識はなくてもいいや」

「そうだな。確か……」

崇禅寺(そうぜんじ)蔵碓(くらうす)

家族構成:父、母、兄二人

誕生日:12月18日

部活:無所属 委員会:生徒会会長

好きなもの:漬物作り、鍛練、お茶、学校

嫌いなもの:理不尽、曲がったこと、怠惰、百足

備考:顔が怖い

 坂弓高校の生徒会長。大柄で常に和服。一年の時は下駄を履いていたが坂弓は土足校のため、うるさいので草履に変えた。

 放課後は基本的に必要な報告書をまとめるか校内の巡回をしている。武術の達人。

 漬物づくり、とりわけ野沢菜漬けが得意。仁吉の父、仁史(ひとし)は蔵碓の漬物の大ファンであり茶葉と交換で定期的にもらっている。

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