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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
prologue1 “is *** p**n*e*s o* **t?”
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 とりあえずは明日からかと思っていたが、どうやら信姫はまだ学校に用事があるらしい。明日からの部活動のための備品確認だとか、部活紹介のためにいるものを運んだりなど、主将となると色々と大変のようだ。

 そうなると成り行き上、仁吉も手伝わざるをえない。信姫はやらなくていいと言ったのだが、仁吉からすれば何もせずにただ信姫の後ろをついて回るだけのほうが居心地が悪いのだ。


「ところで南方くんは、生徒会長とは長い付き合いなのですか?」


 信姫がふとそんなことを聞いてきた。


「そうだね。十年は越えてるよ。それより前は……記憶が定かじゃないね」

「親友、というものですか?」

「腐れ縁だよ。あいつは頼もしくて心強くて、困った誰かを放っておけない。しかも断らない性分なものだから、遠まきに助けてもらう分には良い奴だけど近づきすぎると振り回されるんだ。それでいて一度でもその頼りになる顔の裏側を知ってしまうと、放っておくほうが胃に悪い」

「なるほど。ですがきっと、そういう風に言えるのは南方くんが優しい人だからだと思いますよ」

「見ていられないだけだよ。単に、あいつとの距離感を取るのが下手なだけなんだ」

「それならそれで、いいではありませんか。誰にだって、好きとか嫌いという感情を越えて離れがたい相手というのはいるものですよ」

「そうかもしれないね。つまり、腐れ縁というわけだよ」


 仁吉と蔵碓の関係を説明しようとすると、結局、この言葉に帰ってきてしまう。

 大事な幼馴染で友人だ。しかしそれはそれとして、一人で突っ走って無茶ばかりすることに腹が立つことも何度もある。

 いっそ腕か足の骨でも折ってしまえば少しは休むだろうか、などと物騒なことを考えたりもした。結局は理性と、蔵碓ならばギプスや松葉づえの状態でも奔走してしまうだろうという想いから行いはしなかったのだが。


 **


 気が付けば時刻は午後五時。夕方になっていた。

 信姫はもう少しやることが残っていたようだが、


「流石にこれ以上遅くなるのはよくないよ。そもそも、ストーカーに狙われているんだろう?」


 と仁吉が言ったので、作業の手を止めて帰路につくことになった。当然、仁吉が家まで送っていく。


「今日の午後からは、どうだった? やっぱり誰かにつけられてるような気配とかしたかい?」


 あくまで仁吉の感覚ではあるが、半日ほど信姫と一緒にいて誰かが隠れてつけてきているような気配も、信姫が言う視線のようなものを感じはしなかった。 

 信姫に向けられるそれも、仁吉に対して向けられるものも。


(普通、執着する相手の近くに自分以外の異性がずっと張り付いてたらこっちにも何かしらの怒りとか敵意とかを向けてきそうなものだけどね)


「いえ、昼からはなかったような気がします」


 その感覚は信姫も同じらしい。

 信姫が生徒会に駆けこんだので警戒したか、諦めたかのどちらかならばいいのだが、と仁吉は一人思う。


「ところで御影さん。ストーカーに心当たりとかないのかい?」

「……思いつくような人はいませんね」

「最近、何かなかったかい? 告白された相手をふったとか、つきあってた相手と別れたとか」

「……随分と直接的に訊くんですね。それも真顔で」

「仕方ないだろう? ストーカーってだいたいそういう痴情のもつれから湧いてくるものなんだから」

「それはそう、ですが……。心当たりはありませんね。今まで、誰かと交際したことも、誰かに告白されたこともありませんので」


 少し以外だな、と仁吉は思った。

 美人で、おしとやかで、剣道部の主将で、おまけに成績もよくて家は裕福。モテる要素しかない信姫だが、高嶺の花すぎるのがかえって異性を寄せ付けないのかもしれない。


「そうなんだ。まあ、何か心当たりが思いついたら教えてほしいな」

「わかりました。色々と、ありがとう」

「構わないよ。厄介ごとや荒事には慣れているからね」

「慣れてるんですか?」

「……主に、蔵碓のせいでね」


 などと話しているうちに信姫の家についた。

 木造の門があり、真っ白い壁が敷地を囲んでいて、敷地の横幅だけで五十メートルは優にあるほどに長い。なるほど、裕福らしいという噂は本当のようだ。

 ちなみにここは蔵碓の実家の近くで、蔵碓の家に寄る度に見たことはあったのだが、信姫の家とは知らなかった。

 そしてふと仁吉は、そういえば小学生くらいの頃に郷土史の授業をやった時に御影という姓が出てきたような気がするということを思い出した。もしかすると御影家というのは、古い豪族か武士の家系なのかもしれないなどと考えていると、門が開き、中から出迎えらしき女性が出てきた。

 その服装というのが、いかにもといった給仕服で、信姫のことをお嬢様と呼んで、しかも信姫はそれを当然のように受け入れている。その光景があまりにもしっくりときすぎていて、仁吉はドラマか何かのワンシーンを見ているような気分になってきた。


「では、南方くん。今日はありがとうございました。また明日」

「あ、ああ。うん。おやすみなさい、御影さん」


 声が少し裏返っている。使用人さんの手前、最低限の礼儀は欠かさないようにと軽く会釈してから立ち去る。それだけのことに妙に重苦しさを感じた。


「――気を付けて、帰ってくださいね」


 そう言った信姫の顔を、仁吉は見なかった。

 しかし何故だかその声だけが、ただの気づかいを越えて、感情のこもった暖かいものに感じられた。


 **


 既に時刻は夜の7時を回っていた。

 家族からの連絡で夕飯は勝手にしろと言われていたので、外で適当に済ますことに決めて駅の方へと向かった。

 JR坂弓駅。この駅は複数の路線が交わる乗換駅となっており、坂弓高校からは電車で五分ほどの位置にある。駅の北側には大型のショッピングモールがあり、南側には繁華街が並んでいる。


(さて、ショッピングモールのフードコートにいくか、反対側でラーメンでも食べるか……)


 そう考えていたときに、仁吉はふと知り合いの姿を見つけた。

続きは十七時に。今日は最初ということでchapter1の最後まで投稿します

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