bad friend
一方その頃。
仁吉は悶々とした日々を送っていた。
わざわざ他のクラスを訪ねて愚痴を言うほどには。
「どしたよ仁吉、なんか悩みごとか? お前に限ってオンナ絡みってことはねーだろうが、もしそうなら聞かせろよ。適当に十秒くらいで思い付いたこと言ってやるからよ」
「お前はそればっかりだな騎礼。あーいや、でもそうとも言えるといえば言えるのか?」
仁吉が話しているのは中学二年生の時からの友人である相川騎礼だ。
髪を金髪に染めており、灰色系のズボンに真っ赤で派手な半袖のワイシャツを着た男子生徒である。
高校に上がってからは一度も同じクラスになることはなかったのだが今もこうして交流がある。
「マジかよ詳しく聞かせろ仁吉。名前出すの嫌なら特徴とかだけでもいいからよ」
新しいおもちゃをもらった時のような無邪気な声で、下世話な話題に飛びついてくる。
何をするにも楽しそうで、仁吉をからかうのがとびきり大好き。それが相川騎礼という男であった。
「嫌だよ。それ言うと特定出来るだろお前」
うんざりした顔で仁吉は言う。
「俺が特定出来るっつーと、まあ少なくともこの学校だな。んでお前、基本的に年下相手だと真面目だし――同学年の誰かか?」
「特定しようとするな」
「いやーするだろ普通。これまでずっと乾いてて堅物ゴリラの生徒会長が恋人状態だったお前にいよいよ春が来そうってんだ。冷やかさなきゃダチじゃないだろ」
そう語る騎礼はとても楽しそうだ。
「そんな艶っぽい話はないぞ?」
対して仁吉はとても冷ややかである。事実、仁吉の悩みに愉快な話は何一つない。
「いいんだよ別に、ありのまま話してくれりゃあよ。殺風景だろうが波乱万丈だろうが、オンナとの絡みがあるならどこからだろうとイロに発展する可能性はあるんだからよ」
「……死ぬような目にあった、って言ってもか?」
「同学年で人殺しそうな美人っつうと――御影か南千里……。ああ、あと千里山もか?」
「お前は女子をどういう目で見てるんだ? あと美人どっから来た?」
「そりゃ死にかけてなお頭から離れないってならそりゃ美人に決まってんだろうよ」
当然のことのように騎礼は言う。
「しかし刺されるとなると、御影はまあ普段の穏やかスマイルそのままポントウで斬りつけてきそうだな。南千里は……怒り120 %でメッタ刺しか? 千里山は逆に静かにドスっと一発急所を突いてくるアサシンタイプっぽいな」
「随分失礼な会話してるよな。しかも、なんか言われるとそういう気がしてくるのがまたタチが悪いぞ」
しかも、仁吉は言わなかったが信姫に関しては騎礼の想像その通りである。
嫌な解像度の高さだ、と思う。
「ま、こういうことに関しちゃ俺は上級者だからな」
「……なんだよ? 刺されたことあるのか?」
「まさか。基本的に俺は軽くて緩くてあと腐れのないオンナとしか付き合わねぇよ。そのほうが互いに気楽だからな」
「女の子をとっかえひっかえか。いいご身分だな」
仁吉は皮肉めかせて言いながら、騎礼を横目で睨む。
「違ぇよ。俺がとっかえひっかえしてんじゃなくて、男をとっかえひっかえしてるようなオンナたちの一時の男に収まってるってだけだ」
「何が違うんだそれ?」
「俺はああいうオンナの子たちの暇つぶしに付き合ってんだよ。誘われた時だけ遊びに行って、他で恋しても叶うかわかんねぇ時のキープ要因になって、別の本命が出来たら連絡一つで別れられるくらいの存在になりにいってんだよ。都合のいい男ってやつだな。付き合うかどうかは向こうが決めて、別れるっつう権利すら持ってないんだよ」
「……楽しいのか、それ?」
体のいい召使のようだと仁吉は思う。少なくとも、仁吉には耐えられない生き方だ。
しかし騎礼は楽しそうにそれを語っている。
「それなりにな。たまにオイシイ思いさせてもらえるし、気楽なとこが性に合ってるんだよ。簡単にポイされる代わりに束縛もされねぇしな」
「相変わらず理解できない価値観だな。ああいや、悪口じゃなくて、純粋な感想なんだけどさ」
「そりゃあそうだろ」
騎礼は立ち上がり、呆れたようにため息をついた。
「俺とお前は本質が似ていて、今の在り方が真逆だから、こうしてダチをやれてんだよ」
騎礼はそう言って教室を出て行こうとした。
「これから用事あっから。んじゃまたな」
「ああ。じゃあまた」
出ていく騎礼を見送りながら、仁吉は首をひねる。
今の言葉は騎礼が時折、仁吉に言うものだ。しかし騎礼どういう意図を込めてそれを言っているのか、仁吉には未だにわからない。
「……図書室でもいくか」
そして今日もわからずじまいのまま、仁吉は図書室に向かうことにした。
南方仁吉
家族構成:父、母、妹
誕生日:11月2日
部活:帰宅部 委員会:保健委員会委員長
好きなもの:図書室、居酒屋飯、刑事ドラマ、昼寝
嫌いなもの:ヤクザ、同調圧力、炭酸系の飲み物、■■■■
備考:カナヅチ
主人公その1。苦労が顔に滲み出ている無愛想な高校三年生。
特撮ヒーローに憧れて武道を始めた。風紀委員の雲雀丘紀恭の父が師匠。
蔵碓とは小学校から、覇城とは中学からの付き合い。
蔵碓には昔から振り回されているがなんだかんだで付き合ってしまう。蔵碓は仁吉のことを無理に巻き込んだことはないが、蔵碓が一人でもやると決めたなら放っておくことが出来ない。




