死者不可以復生
あの日流した悲しみの雨が
今も 私の心に降りしきっているのに
怒りの炎は まだ消えない
怒りがあった。
人の世はなんと理不尽に満ちていて、歪な形をしているのだろうという激情が、胸の中で炎のように燃えていた。
一人の悪人が、大いなる力を持っているが故に多くの不条理を他者に強いる。
誠実は悪党が己の腹を肥やすための餌食となる。
直言は愚者の怯えを掻き立て、畏怖とともに踏みつぶされる。
人は人を正しく裁くことが出来ず、悪人はのさばり善人は虐げられるばかりだ。
それなのに、その歪みを正してくれるはずの天道は、それらの悪逆を咎めない。善人は無念を抱えて死に、悪人は床の上で安息の死を迎える。
ならば己の手で正すしかないと思った。
邪智暴虐は滅びなければならない。否――滅ぼさねばならない。
何を棄ててでも。
何を壊してでも。
何を裏切ってでも。
それこそが使命であり、たった一つの為すべきことだった。それ以外にはなかった。
天の統治が至らぬ人の世で、ただ自分の怒りだけが歪みを正すことの出来る法だと信じていた。
されど――。
成就は半ば。
喝采はなく。
称賛はなく。
さらなる怨嗟とより多くの不条理が大地を満たし。
かつて自分が悪と定めし邪智暴虐が築いたものを凌駕するほどの屍の山が積みあがった。
歩みの最中に日は暮れて、宵闇の中でその身は江の中に沈み。
ようやく、望むべき裁きが下りた。
間違いを正すべく。悪逆を罰すべく。天道を示すべく。
――私の魂に罪科を与えた。