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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
prologue3“silent p*****x awaking”
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the end of sleeping_2

 誰かに手を掴まれた蒼天はそのまま森の中へと引っ張られていった。

 その相手は――。


「れ、玲阿!?」

「何やってんのよよっちゃんの馬鹿ーっ!? 何がなんだかよくわかんないけど、絶対ピンチじゃん!! 死んじゃうやつじゃん!! 逃げなきゃダメでしょ!!」


 玲阿は蒼天の手を取ったまま森の中をひた走る。

 背後からは鬼の群れが追って来ていた。鬼たちの走る速さはそれほど速いわけではないが、数が多い。加えて玲阿は、蒼天を引っ張っているせいで動きが鈍かった。


「離せ玲阿。着いてきたことは咎めぬ。今からでもおぬし一人であれば逃げきれよう。余ならばなんとかなる」

「なるか馬鹿!! 体育2の運動音痴が何言ってるのさ!! よっちゃんも一緒に逃げるんだよ!!」

「……そうかもな。だが、二人でいては逃げれるものも逃げきれん。二人死ぬよりは、一人だけのほうが――」


 そう言いかけた時。

 玲阿は足を止めて蒼天を睨んだ。

 そして乾いた音が森の中に響く。玲阿が蒼天の頬を平手で打った音だ。


「ふざけんなよこの馬鹿赤毛っ!!」

「ふざけてなどおらん。それよりも、こんなところで足を止めるでない。追い付かれるぞ」


 その目に涙を浮かべ、キッときつく、今まで見たことのないような怒りの眼差しで見つめられてなお、蒼天は落ち着いている。


「簡単に死ぬとか言わないでよ!! 私は馬鹿だからさ。あれが何で、どんなことが起きてるのかなわてわかんないよ!! だけどあいつらが危ない何かで、逃げなきゃホントに死んじゃうってことはなんとなくわかるの。だから逃げてるんじゃん!! それなのになんなのさ、よっちゃんはずっとそんな風に落ち着いて――なんでもないような顔してるのさ。そんなことばっかり言うならもう友達やめるからね!!」

「……そう、じゃの」


 ならば――友をやめよう。だから見捨てていけ。

 そう言いかけて、しかし蒼天はその言葉を口には出来なかった。

 今まで自分を昂らせていた不思議な熱が、一気に静まっていくのを感じる。

 今の蒼天は、たとえ嘘でも、玲阿のためだとしても、玲阿の友達であることを否定したくないと強く思った。


(くそ、何をやっとるんじゃ余は……)


 そう自責している間に、鬼の群れはすぐそこまで迫っていた。

 玲阿は蒼天を無理やり横抱きにして、森の中を駆けていく。しかし――。


『鬼事は終わりだ。死ね』


 大鬼が、二人の行く手に先回りしていた。

 巨大な金棒が振り下ろされる。当たれば人間の体をただの血と肉片に変えてしまうであろう必殺の一振。

 それが玲阿の体に触れた、その刹那――。

 金棒の先端が消失した。

 二人を中心に嵐が起き、大鬼や鬼の群れたちを吹き飛ばす。そして蒼天の体は、玲阿の手によって地面に投げ出された。


『なるほど。この祖父ありてあの孫ありということか。やはりあの国の王はろくでなしばかりだな』

「玲阿……?」


 玲阿に先ほどまでの焦りや怒りはなく、その目は氷のように冷ややかに、地面にしりもちをついた蒼天を見下している。

 まるで別人のように。


『こうなったのはお前の責、お前の罪だ。お前に(はじ)という心があるなら立ち上がれ。僭称者なりに王としての自負があるなら、責務を果たせ』

「――玲阿ではないの。何者じゃおぬし?」

『お前に名乗る名などない。お前に答える義理はない。その魂に縁はないが、私はお前たち(・・・・)が大嫌いだ』


 冷たく蔑むような瞳。

 玲阿が流していた涙は額で渇き、蛇蝎を見るように蒼天を見下している。

 理由はわからないが、玲阿の別人格か、取り憑いている何者かは蒼天のことを嫌悪しているらしい。


「恨まれる筋合いも、憎まれる覚えもないがの。しかし玲阿をこのような目に合わせたのは紛れもなく余じゃ。その咎は受けるし、せめてものけじめはつけるとも」


 そう言って蒼天は立ち上がる。

 勝つための方策などない。逃げる算段がついたわけでもない。ただ、立ち向かう理由があるからそうしているだけである。


『いいだろう。ならば、眠りから覚めて翼を広げる時が来たということだ。ほら、さっさと解珠(かいじゅ)しろ』

「……なんじゃそれ?」


 急に知らない単語を言われ、蒼天は首を捻る。


『本当に寝坊助の馬鹿鵬(ばかどり)だな。仕方ない――』


 そう言って彼女は蒼天の胸に手を当てる。


()け出でよその魂。神威を統べれば覇となり、欠あらば亡びるべし』


 その瞬間、蒼天の中で何かがひび割れていく感じがした。

 ずっと忘れていた遠い昔の記憶。いや、かつての自分(・・・・・・)の記憶。それを自覚した瞬間に蒼天は、己がすべきことを理解した。


「……これは。そうか、余は――」

『あとは死にもの狂いでなんとかしろ』


 そう言って玲阿は糸の切れた人形のようにぱたりと倒れた。その体を優しく抱き止めると蒼天は、吹き飛ばされた鬼たちのほうを見る。


「これより余の飛翔が始まる。雌伏の時は終わり、大翼を蒼天に()ちて覇を掴むための戦いに挑む。“()け”――騎匣獣(きこうじゅう)


 **


 prologue3“silent phoenix awaking”

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