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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
prologue3“silent p*****x awaking”
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redhair girl_3

「バイトが――決まらぬ!!」


 始業式から一週間。

 蒼天の求職活動は難航していた。接客、掃除など無難なところで色々と探し、面決も受けているのだが悉く落ちていた。

 そして今、昼休みの屋上で玲阿、忠江と昼食を食べながらそのことを嘆いていた。


「おーよしよし、大丈夫だよよっちゃん。頑張ってやってればそのうち見つかるよ」


 玲阿はそう言って蒼天の赤髪を撫でる。蒼天は子供のように玲阿に抱きついていた。


「ぶっちゃけさー、髪の色と一人称で弾かれてんじゃね?」

「ぶっちゃけるでない!! 仕方なかろう、地毛なんじゃから!!」

「綺麗なんだけどね。でも確かに接客とかだと駄目なのかな?」

「……ブルータス、おぬしもか」


 恨みがましげな目で見られて玲阿は少し罪悪感を覚えた。


「あー。でもほら、アパレル系のお店とかならどう? ああいうお店なら髪の毛染めてる店員さんも普通にいるし」

「……行ったがダメじゃった」

「自分のこと余とか言うのがマズイんじゃねやっぱ? 今ってばだいぶ多様性の時代だけど余っ()はまだレベル高いって」

「おかしな造語を作るでない!!」

「もうこりゃ女王様系のコンカフェくらいしか思い付かないけどどうよ?」

「あるのかそんなもん? ……いや、今のご時世ならそういうニーズにも対応してそうではあるが――それ、高校生が働いてよい店なのか?」

「……なんか、不健全っぽいよね。女王様に扮した女子高生を求めてやってくる客層のお店って言うと」


 玲阿は想像しながら自分で引いて、首をぶんぶんと横に振った。そしてぎゅっと蒼天に抱きつく。


「ダメダメーっ!! 私のかわいいよっちゃんをそんなお店で働かせられないよーっ!!」

「働かんわ!! というか、まだそこまで落魄しとらん!!」


 そう言いながら蒼天は、しかし自分の現状を冷静に考えてみた。

 衣食住すべて、血縁すらない他人――それも年上とはいえ未成年に依存しきっている自分にバイト内容を選ぶ資格があるのだろうかと。

 同居人はそもそも金の話を蒼天にしたことはないし、バイトを始めると言っても、まあお前も遊びたいだろうからなとしか言わず、家に入れろなどとはおくびにも出さなかった。それが蒼天の良心をさらに締め付けている。


「……少し、調べてみるかの」

「ダメだってば!! 忠江ちゃんも変なこと言わないの!! よっちゃんはよっちゃんのままでいいんだから!!」

「……玲阿」


 玲阿の言葉に蒼天は感激し、子犬が飼い主を見るような潤んだ目で玲阿を見つめた。


「まーね。アタシもヨッチは今のままのが面白いから好きだよ。とはいえ、そろそろ真面目に話すんだけどさ」

「今まではふざけておったのか?」

「うんぶっちゃけ。けどさー、何がいんだろねバイト? 真面目に話しても思い付かないやメンゴ」

「いや、よい。これはそもそも余の問題じゃ。もう少し探してみることにする」


 **


 放課後。既に多くの生徒たちが帰るか部活に赴いたクラスの中で蒼天は一人、求人誌と睨みあっていた。

 しかし何をすればいいのかがまったくおもいつかない。


(ううむ……。やはりせめて、バイト中だけでも頑張って一人称を私あたりにすべきかの?)


 蒼天には自分でも、なぜ自分をこう呼ぶのかがわからない。物心ついた時には自分をそう呼んでいて、それが妙にしっくりと来るからそれがおかしいと思わなかったのだ。


「よっちゃん、大丈夫?」


 声をかけられて。そこには玲阿がいた。


「おう、玲阿。部活はよいのか?」


 玲阿は陸上部に所属している。中学の頃からであり、高校でも続けることにしたらしい。


「えへへ、サボっちゃった。よっちゃんが心配でさ」


 玲阿は少し照れくさそうにはにかんだ。基本的に真面目な性格で、それでいて走ることが好きという玲阿が練習をサボったところを蒼天は初めて見た。


「別に余のことなど気にせずともよい。幸いなことに死ぬわけでもないし、どうとでもなる」

「心配するよ、友達だもん!! ちょっと難しく考えすぎなんじゃない? ほら、気分転換とかしてみようよ」

「気分転換か。ま、それも必要かもしれんの」

「でしょでしょ? じゃあさ、裏山いかない? 旧校舎の奥にあるじゃん」


 坂弓高校の旧校舎がある森をさらに奥に進むと、そこは学校の敷地を越えて山道になっている。それなりに整備されており、特段険しい道でもないのでその気になればスニーカーでも登れる程度のものだ。


「行くのは構わぬが、たぶん余の体力と歩く速さで頂上を目指すと日没までには帰れぬぞ」

「大丈夫、そこまではいかないよ。中腹にひょうたん池ってところがあるらしいからさ、そこで釣りしようよ」

「ほう、太公望の真似事か。それはよいが……竿と餌はどうするのじゃ?」


 玲阿は手ぶらであり、蒼天もそのようなものは持っていない。


「心配無用!! 陸部の三年の先輩に借してもらえることになってるから!!」

「え、今か?」

「うん、今だよ。教室のロッカーに入れてあるから好きに使っていいってさ。優しい先輩だよね」

「学校のロッカーに竿と餌常備しとるって色々と大丈夫なのか……? その、匂いとか」

「冷凍餌をクーラーボックスで保存してるから問題ないらしいよ。本当は今日の部活終わりに釣りする予定だったらしいんだけど事情を話したら快く貸してくれた!! ほんと優しくていい人だよ今津先輩は」


 物好きな先輩もいたものだと蒼天は思う。

 しかしこうして誘われると釣りの気分になってきたのも事実だ。蒼天は顔もわからぬ先輩に感謝し、玲阿と二人で裏山に釣りに行くことにした。

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