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BARBAROI -鬼方の戦士は八徳を嗤う-  作者: ペンギンの下僕
chapter1“*e a*e *igh* un***tue”
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twin chainwhips_3

「ッ!?」


 予想外の行動に泰伯は一瞬、次の動きに迷ってしまった。


「激水の疾、鷙鳥(しちょう)の撃、勢いは()の如く、弾くことは機の如く――孫家攻式“漂石毀折(ひょうせききせつ)”」


 包帯の女が右手を前に出し、左手首でそれを握って呪文を唱えた。

 その手の先から泰伯の心臓めがけて、収束した空気の弾が放たれる。泰伯はその時、攻撃を剣で防ぐための備えはしていたが、避けるための動作に入っていなかった。

 剣を胸の前で構え空気の弾を迎え撃とうとするが、受け止めたその一点から受ける巨大な衝撃で後方へ吹き飛ばされてしまう。

 そしてその時には、包帯の女はもう鞭を拾いなおしていた。

 飛ばされ、地面に倒れた泰伯が立ち上がるよりも前に包帯の女は鎖を伸ばして泰伯の体を縛り上げた。そして、縛り上げたところで鎖は切れた。どうやらこの鞭は先端を彼女の意思で自由に分断できるようだ。


「生兵法は怪我の元だ。そもそも『孫子』に習うのであれば、この場でお前が取る道は一つ。撤退だよ」

「……後学のために、その理由を聞かせてもらえるかな?」

「単純に間合いの問題だよ。お前の動きはずっと、私と距離を詰めることだけを狙っていた。つまり、近寄らなければ私に攻撃出来ないということだ」

「僕が遠くを狙う技を持っていて、それを隠すためのブラフという可能性は?」

「それも考えはした。だがそうであれば、間合いが開いた時にそれを使うだろう。だがお前は私とどれだけ距離を取っても何もしてこない。それどころか馬鹿正直に突撃してきた。ならばそもそもそんなものを持っていないか、持っていても使い所がわからない愚図だ。持ち腐らせたまま倒しきればいい」


 淡々と語る包帯の女を、泰伯は縛られ地に伏しながら聞いていた。その顔には苦渋が浮かんでおり、何も言い返すことが出来ない。


「察するにお前、異能の戦いに慣れていないだろう。剣道部としては出来の良いほうなのだろうが、所詮は道場剣法だ。そして何かしらの因果で力を手にして根拠のない自信を手にし、どうにかなると無謀に走る。戦場で早死にする素人の典型だよ」

「返す言葉もありませんね。経験も、技量も、僕は貴女に遠く及ばない。勝者の権利は貴女にある。どのようにでもなさってください」


 澄んだ顔で泰伯は言う。

 包帯の女から舌打ちが漏れた。顔は見えないが、その奥には激怒の色を浮かべていることだろう。


「別にどうもしないさ。ただ、己の力量を弁えたのならもう私の前に立たないことだ」


 そう言って包帯の女はその場を立ち去ろうとする。

 その背に向かって泰伯は言葉を投げた。


「それは、貴女次第ですね。また貴女が今日のようなことを起こすというのであれば、僕は貴女を倒すために戦うでしょう」

「……好きにしろ。ただしその時は、死ぬ覚悟をしておくことだな」

「わかりました。ですがそれだけでは足りません」

「何だと?」

「未熟な僕に、貴女は言う必要もないのに足りないところを教えてくれた。そして、理由はわかりませんが、一度見逃してくれた。そのことに感謝を示すため、次に貴女と戦うことになれば、僕は一度だけ三舎退きましょう(・・・・・・・・)


 その言葉への返事はなく、乾いた舌打ちと、ザッと地面を蹴る音がしたかと思うともうそこに包帯の女の姿はなかった。

 包帯の女がいなくなったのを確認した泰伯は、


「ところで……この鎖、どうやったらほどけるんだ?」


 縛られたまま、芋虫のようにもがきながら鎖と格闘していた。

 そこへ、


「三舎退くとは大きく出たな。未熟者の分際で覇者気取りか?」


 また、何者かが現れた。

 声は男のようで、フードのついたマントで顔を隠している。


「……君は?」


 明らかに怪しさしかない人物ではあるが、とりあえず泰伯は誰何した。


「船乗りシンドバッド。他人にはそう呼ばせている」

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